高知市から北東へ車を走らせること小一時間。山間に広がる香美市香北町の一角に、築150年超の古民家を改修して作られたお店「Outdoor & Café Ocho」がある。今年2021年3月にリニューアルオープンしたお店は、店の半分がカフェ空間、もう半分がキャンプ用品を扱うこだわりのアウトドアショップというユニークな造り。一つ一つ手作りし、店頭に並べるとすぐに完売してしまうという、鹿をモチーフにしたオリジナルの壁掛けオブジェを見せてくれながら、オーナーの西奥起一さんは言葉を紡いだ。
「これは、去年、コロナの自粛期間で2ヶ月くらい店を休んでいるときに、キャンプブランドとして何かできないかなと思って作ったもの。キャンプ道具は外で使うものだけど、逆に家の中に自然を持ち込んで楽しめるものを作りたいな、と。鹿の角を見立てた枝を挿せるようになっているんで、森や公園で拾った枝を持ち帰って自由に楽しめる。ふたりで作っているので大量生産できないけど、コロナ禍でも最も売れた商品でした」

京都府出身のオーナーの西奥起一さんと、妻の栄利子さんは、2008年にこの地へ移住。茨城県でカフェ経営の物件を探していたところ、たまたま友人を訪ねて踏み入れた高知県で、縁あって現在の物件と出会い一目ぼれ。古民家を改修し、家から少し離れた場所に山から木を切り出して鶏小屋を建て、自家製卵を使った料理を楽しめるカフェとして「Ocho」をスタートさせた。

オリジナルのキャンプ用品を扱うようになったのは、2015年のことだ。20代の頃、3年間メキシコで暮らしていたという起一さんの着想で、メキシコの手織物「タペテ」を座面に使ったキャンプ用のスツールを開発。テーブル、ブランケット、羊毛を使ったコースターなど、現地で買い付けてきたメキシコ雑貨とともに、店頭とwebショップで販売。こだわりのキャンプ用品メーカーとしても徐々に名を知られるようになっていったという。
そして、2021年春。キャンプ用品のセレクトショップとカフェを共存させる場として、店内を大幅に改装。営業日をぐっと減らし、仕事もライフスタイルも新たな方向へと舵を切った。
「何があるかわからん。世の中、安定とか絶対ってないんだな、って。コロナがそれをあらためて教えてくれましたね。細くても小さくてもたくさんの柱があれば、リスクヘッジにもなるし、何より自分たちも楽しい。だから、僕らは自分たちでできる範囲で、いろいろやっていきたいんです。キャンプ用品の品揃えもそう。セレクトアイテムもあるし、オリジナルプロダクトも外注品もあれば、夫婦だけで作るものといろいろあります。それに、せっかくこんないいところ住んでるんだからもっと遊ばな、ってコロナであらためて思って。子どもたちも手がかからなくなり、妻はソロキャンプを始めて、僕自身はパックラフトと川旅を極めていくつもり。高知には、仁淀川と四万十川という素晴らしい川がありますから。自分らが楽しむっていうことを一番前に置いて生活していきたいな、っていうのが今の目標です」
聞けば、店の裏にある蔵を改修して、鉄を溶接して道具を作るDIY教室を近々オープンするという計画も。彼らの暮らしを支える柱は、ユニークに形を変えながら、今後も多彩になっていきそうだ。
