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National Park Poster Trip
日本の国立公園を描く旅

Vol.3

中部山岳国立公園


“The Interrelation between Danger and Beauty”
CHALKBOY × PAPERSKY × DANNER × NATIONAL PARKS OF JAPAN

2020年、PAPERSKYは日本の国立公園のオフィシャルパートナーとなったことを機に、アーティストのCHALKBOYとともに「国立公園ポスタープロジェクト」を立ち上げた。そのミッションは、日本に34ある国立公園のオリジナルポスターをつくること。今回、PAPERSKYのルーカスとCHALKBOYは、「中部山岳国立公園」の上高地へと出かけた。

12/03/2025



険しさと美しさの相関関係



日本中の登山愛好家たちが待ちに待った夏山のシーズン。そのすばらしい季節が始まってすぐの6月、編集長のルーカス、写真家の西山勲さん、そして僕の、いつものメンバーが集う。今回の目的地は中部山岳国立公園内にある上高地。

雨は降っていないにしてもパッとしない天気のなか、上高地でバスを降りていちばん驚いたのは、渋谷か新宿にでも来たのかと思える観光客の様相だった。川沿いのウッドデッキを歩いている人々はかなりの軽装だ。特に海外からの観光客の男性はTシャツにハーフパンツ姿、携帯以外は持ち合わせておらず、女性は短いスカートやヒールで歩く人も多かった。

もちろんバス停からたった5分の場所ではある。いわゆる登山口という場所なのでわからなくはないが、もう少しハイキングやトレッキングなどを楽しむ意気込みの人が多いと思っていた。とりあえず今日は明神一之池まで歩くコースを選び出発する。空はまだ明るいが太陽の姿は見えない。夜は早そうだ。

道中、ところどころでスケッチをしながら、池まで来たらUターン。もうすっかり暗い帰り道、すれ違う観光客が何組かいた。なんとこれから登山道へ向かう外国人も。夏山はそんなにカジュアルでウェルカムなのだろうか。疑問をもちつつ宿へ帰る。

宿では温かくやさしい夕食と少しのお酒で自分たちの再会をあらためて喜び、お風呂に入ってから資料室と書かれた部屋へ。山を愛する宿の主人がコレクションした、文献、写真集、漫画、映像作品たち。あれこれ漁って上高地を題材にしたVHSを鑑賞することに。

そこで衝撃を受けた。ヘリコプターから空撮している映像には、文字どおり槍の先端のように切り立った、足を置く場所もままならないような槍ヶ岳の山頂。そこに所狭しと100人以上の大勢の人たちが映っており、カメラに向けて手を振っているのだ。誰かひとりでも滑ったら全員が崩れ落ちてしまいそうな、河原の石積みのような奇跡のバランス、僕の目にはそう映った。山の天気はたしかに良好、残雪も少なく風も吹いてなさそうだが、長い時間をかけて氷河によって削られた鋭い岩肌やその角度、そして圧倒的な高さ……。夏山だろうが僕には十分恐ろしく感じられた。

鑑賞後、隣では漢字の読めないルーカスのために西山さんが漫画の読み聞かせを始めた。西山さんは丁寧にも擬音語、擬態語まで読み上げ、登場人物によって微妙に声色を変えて読んでいる。漫画の読み聞かせ自体、初めて目にしたが、西山さんの優しい人柄とルーカスの純朴な存在感にとても温かい気持ちにさせられた。ところが西山さんの読み上げるセリフや擬音語の緊迫感がただごとでない。「足がつぶれた」「手が動かない」「ザイルを切ったな裏切り者」「ガラガラガラ」……。

タイトルを見ると『孤高の人』という漫画だった。加藤文太郎という実在の登山家の登山記録をもとに描かれたフィクション作品だそうだ。気になって読み始めたが、青春スポーツ漫画タッチで始まり、想像を絶する冬山での極限状態のシーンをはじめ、どんどん登場人物が死んでいく非常にショッキングな内容だった。もちろん脚色もあるだろうが、むしろこっちが山の本当の姿なんだろう、と思わせるリアリティだった。読み聞かせのほっこりした風景とはあまりにかけ離れたシビアな世界。明日の無事を祈りに祈って布団に入った。

すばらしい陽光で起床。快晴だった。本日の目的地、岳沢へ向かう。登山道はウッドデッキの遊歩道とは違うワイルドな質感。スケッチ、休憩を挟みながら3時間ほどの岳沢への道のり。その途中で何度も足を止めさせられる絶景に出会ったが、高く登れば登るほどその美しさは増していくようだった。

険しさと美しさは山のなかでは両立する。もしかしたら相関関係さえあるかもしれない。それが、山が人を惹きつけ、命を奪い続ける理由のひとつかもしれない。そんなことを考えながら山を登る。そういえばバス停に降り立ち、まわりの人たちを見たときの昨日の違和感は、彼らがこの畏敬の念をもたずに山に来ているように見えたからなのかもしれない。無駄に怯える必要もないが、リスペクトは大切だろう。山におけるそれは、「簡単に命を落とすことがある」ということを意識することのように思えた。

大自然のなかにおいて美しい景色を享受できるのは、もちろん今生きているからであり、危険と隣り合わせることで意識下に強烈に生死を感じさせるからかもしれない。息が上がってたどり着いた山小屋から見た景色は一層色濃く美しく見えた。そしてその先はまだ来るなと言っているような白銀の世界だった。


CHALKBOY(チョークボーイ)
カフェのアルバイトでメニュー黒板を担当したことからチョークアートの世界に。国内外の飲食店、企業、メディアなどへ作品を提供する他、イベントやワークショップも精力的に行う。手描き結社「WHW!」代表としても活動中。www.chalkboy.me


国立公園ポスタープロジェクト
PAPERSKYとアーテイストのCHALKBOY、アウトドアブーツブランド「Danner」による、日本の国立公園それぞれのオリジナルポスターをつくるプロジェクト。CHALKBOYとPAPERSKYが日本各地の国立公園を旅して描いたポスターは、オリジナルのグッズとして展開されている。
https://store.papersky.jp/collections/national-parks-of-japan-postcard