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頭で遊び手でなぞり出す、美の輪郭 

作陶家 吉田直嗣

 

11/15/2021


富士山麓に広がる静かで、心地よい光が差し込む避暑地らしい森。冬になり雪が降ればあたり一面が白く、真っ黒な木立がくっきりと映える。

「それが綺麗」

そう話す作陶家・吉田直嗣さんの自宅兼工房は森との境界がとても曖昧なところにある。


「今朝も鹿が遊びに来ましたよ。そうして自然の摂理というか、生きているからにはそのへんで死んでいるとか、野生動物のなんともいえない逞しさみたいなものとか。それを割と近くで見ていると、自分が意識せずとも受け取る影響がそこそこあると思う。わざわざ取り込んでいるわけでもないけど。森が違えば、今と違ってモリモリしたうつわを作っているかもしれないしね」

そう話しながらも、この場所に住むことを自分の意思で決めたわけではない。あくまでも偶然が重なった結果。同様に陶芸家としての始まりは美大時代の知人の付き添いから。曰く「ラッキーで成り立っていて、基本は風まかせ」。直嗣さんはいつもそんな風で、肩の力が抜けている。

 
「なんかこう美しさを求めてはいるんだけれども、その“美しいってなに?”にはまり込むとなかなか難しい。哲学者とかの言葉に縋りたくなる。とある神話の本を読んでひとつ思い至ったのは、うつわの内側と外側は明確に違う世界だということ。内側は食べ物を入れるところで“命をいただく場”。死んだものを入れる場所。一方で人間が触るのは外側。こちら側は人に属している。その境にあるもの(うつわのフチ)は、あの世とこの世の仲介なんだなと」

黒と白を基調に、加飾なき陶磁器作品を多く作る彼にとって<美しさ>はかたちに宿ると言う。そのかたちを形たらしめる、うつわの輪郭線。そこに長年思索し続けてきた解への道標が見えてきた。


「うつわのフチがギザギザしていたり、ゆるゆるしていたりするっていうのは、人が作ったものになにか感じられる現象なんです。工業製品とは違う。あれは機能だけの物。僕にとっては、どっちつかずの、内側にも外側にも転びかねないこのラインこそ、僕のシンデレラなんだなと思うわけですよ」

シンデレラって言ったってロマンチックなもんじゃないですけどね、と冗談めかしては「どうであれ、自分が見たい」と続ける。

「物体としてのうつわが好きなの。で、もやもやっと考えるんだけど、自分が作るきっかけになればなんでもいいの。僕の目指すものには僕が一番近いから」

作陶家の特性上、幸いにも手を動かしたら動かしただけ求める答えには近づく。けれども、それを掴むために決して無理はしない。今日も彼はきっとお昼寝をしている。

そんな自然体の創造主からかたちを与えられたうつわたちはのびのびと、それでいて世界の深淵を窺わせる鋭さを今日も気まぐれに発露させていることだろう。


【吉田直嗣個展】
代々木上原にある galleryAELUにて「吉田直嗣個展」を開催します。

日時:2021年12月3日〜12月12日
場所:galleryAELU
住所:東京都渋谷区西原 3-12-14 西原ビル4F
電話:03-6479-1434

初日、2日目は事前予約制となります。
詳細は、こちらからご確認ください。


吉田直嗣

1976年生まれ。東京造形大学卒業後、陶芸家黒田泰蔵氏に師事。 2003年富士山麓にて独立、白と黒の器を中心に制作している。
text | Yuria Koizumi photography | Shinya Fukuda