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童心で遊び、ものづくりを続ける
ギアクラフトマン

尾崎光輝(JMW)

 

02/15/2023

ウルトラライト(UL)をはじめ、釣り、沢登り、バイクパッキング、ファストパッキングなどアウトドア界隈を縦横無尽に遊び尽くすジャッキー・ボーイ・スリムこと、尾崎光輝さん。彼が主宰するガレージブランド「JMW(Jindai Mountain Works)」は、今年で創業4年目。タープやハンモック、クッカーなど、ミニマルで研ぎ澄まされたULアイテムの印象が強いが、立ち上げ後、初めてリリースしたのは、「パックマンベスト」という釣り用のプロダクトだった。

幼少の頃から渓流釣りに親しみ、海山川と一通りの釣りを経験。30代でULに傾倒してから一度は距離を置いたものの、その後、釣り熱が再燃。現在は、アトリエのある高尾からアクセス良好な山梨県の清流や西湘の海などで、釣行を愉しむ日々だ。

極めて多彩なアウトドア人生においても、間違いなく釣りは、彼のアイデンティティのひとつ。パックマンベストは、そんなジャッキーさんならではの経験と発想が生んだプロダクトである。

「20年前にシーバスのウェーディング(※)をやっていたときに愛用していたフロントポーチにヒントを得たもの。今はライフジャケットの着用が義務づけられているから、浮力体の着いたゴツイものばかりだけど、シンプルなフロントポーチが僕は好きだった。そのフロントポーチを山岳渓流で使いやすいようにダウンサイジングして出したのが、パックマンベスト。ショルダーハーネスに干渉しないから、デカいバックパックを背負っていても着用できるし、日帰りでも泊まりでも重用する。ずっと欲しかったけど、なかったから作った」

アウトドア業界でも、そして、昨今ではガレージブランドでさえ。マーケティング主導のものづくりが主流であるなか、JMWはオリジナルのものづくり姿勢を貫いている。規範になるのは、あくまで自分の心が躍るかどうかだと、ジャッキーさんは言う。

「僕は、僕が好きなものを僕のために作る。で、僕と同じような思いをしている仲間のために、『これあったら便利じゃない?』というのを共有したいって思いながら、ものづくりをしている。うちで出しているものって、他がつくっていないものがメイン。他にいいものがあるんだったらそれを使えばいいし、わざわざうちで作る必要もないじゃない。売れるものを作りたい訳じゃなくて、俺がハッピーに生活できる分くらいを稼げればいいと思ってるから」

売上至上主義ではなく、ある意味、自己完結型とも言えるものづくりの精神。それは、長きに亘って情熱を注ぎ続けながらも、決して釣果至上主義ではないという、独自な釣りへのスタンスにもどこか通じるものがある。

静岡県は御前崎。翌朝のサーフフィッシングに備え、立ち寄った釣具店でジャッキーさんが購入したのは、奇抜なカラーとおとぼけ顔がユニークなルアー。選んだ理由を問うと、「バカっぽいのがいい。こんなので釣れたらおもしろいじゃない」と、少年のように顔を綻ばせた。

「釣りってのは釣れなくて当然だから、釣れなくても釣りは楽しいわけよ。想像力を働かせて、投げる度にくるぞくるぞ、あ、こなかったって一日何百回もやるわけ。こんなハッピーなゲームってないじゃない。ロマンの塊。もちろん釣れたら嬉しいけど、こんなので釣れるかもしれないって思って竿を振ってるだけで、ハッピー。夢を叶えるのが目的じゃない、夢を見ることを目的として、僕は釣りに行っているんだから。俺にとっては、釣りも、ものづくりも、恋愛も、多分一緒なのかもしれない。結果はどうあれ、自分のスタイルで勝負した時点で勝ちというか、満足なんだよね」

大人の皮をかぶった少年は、野山を駆け、竿を振り、ものづくりという名の自由研究を続ける。誰よりも自分自身が、アウトドアとともにある人生をより楽しんでいくために。

※「ウェーダー」と呼ばれるウェアを着用し、入水した状態で行う釣りのこと

尾崎光輝(ジャッキー・ボーイ・スリム)
1971年生まれ。アウトドアギアクラフトマン。ULシェルターメーカー「Locus Gear」で8年間、ULギアの製作、開発に関わった後、2018年に独立。「JMW(Jindai Mountain Works)」を立ち上げ、現在は、東京・高尾の山麓にアトリエを構えている。

PAPERSKY no.67 | SHIZUOKA|FISH&
「釣り」と「魚」 をキーワードに、静岡の海・山・川をめぐる旅へ。旅のゲストは静岡出身のイラストレーター・ジェリー鵜飼さんとアウトドアギアクラフトマンのジャッキー・ボーイ・スリムこと尾崎光輝さん。