松島を拠点に活動している彫刻家の佐野美里さんは、今、注目すべきアーティストだ。宮城県多賀城市出身の佐野さんは、2017年に松島に引っ越し、ラッキーなことに制作活動にも最適で、生活空間としても理想的な２階建て物件を見つけることができた。大家さんは地元の友だちのその友だちで、度々、彼女が木彫で使う道具を貸すために立ち寄っている。
佐野さんは子どもの頃からクリエイティブだった。彼女によれば、アートが自信を与えてくれたらしい。
「自分のことをもっと深く理解して、自分という存在を心から知りたかったので、作品を作り始めました。美術大学に進んだのは、昔から絵を描くことが好きだったから。でも、次第に3Dの形態の方がもっと自分の気持ちを自由に表現できると思い始めました。そこで、大学では彫刻を専攻することにしました」
夏の間、佐野さんは1階で美しい木彫作品の制作をしている。彼女は九州産のクスノキの香りと木目が好きなので、大半の作品にこの木を使っている。この種の樹木は神社やお寺などの聖地に植えられることが多く、大木に成長する。この木と向き合って彫刻作品を制作しているとき、彼女は聖なる大木からのパワーを受けているような神聖な気持ちになる。佐野さんは、ノミを使って、ゆっくりと、丁寧にこの木を削っていく。天然の木目が透けて見える薄めの油性塗料を何層にも重ねて塗り、犬の目を彫る時は、あえて定規を使って小さな目を施し、鑑賞者が思わず近寄って目を覗き込めるようにして、作品と鑑賞者の距離間を縮めるようにしている。
冬が訪れると、1階での木彫作業は寒すぎるので、佐野さんは、2階で犬をテーマにした刺繍や絵画を制作している。大学時代には、いろいろな動物をモチーフにして木彫作品を制作していたが、犬がもっとも彼女のパーソナリティーにマッチしているように思えた。
「犬は自分の家族や近しい人を認識した時、彼らを守ろうとするし、強い信頼感を持ちます。私は自分の中にも同じ気持ちを持ちたいんです。真面目だけど、笑っちゃうような作品を作りたいなと思っていて、犬をモチーフにすると、そんな作品が作れるんです」と佐野さん。彼女の個展は日本やアメリカでも開催されており、スペイン、ニュージーランド、アメリカではコレクターもいる。
佐野さんは素晴らしいアーテイストであるだけではなく、ライフスタイルもアーティスティックだ。住んでいる家は、彼女が心を込めて世話をしている約50種もの植物で飾られている。彼女は植物が部屋にもたらす生気のようなものを愛している。小さな生き物が育っていくのを見ることは無上の喜びだ。お気に入りは、ヒガクシダやミルクブッシュ。
「木彫を含めて、作品を作るときは、自分の中から湧き出てくる力を使います。毎日、そして、季節ごとに植物の成長を眺めていると、制作するエネルギーが湧いてくるんです。植物と時間を共にしながら、彼らが何を必要としているのか、部屋のどこにいたいのかを理解しようとすることは、私にとってとても楽しいことです」
天候の変化は、彼女のアート作品だけではなく、毎日のルーティーンにも影響を及ぼす。夏の間は、海岸線沿いに作られたセメントの岩棚で毎朝、スケボーを楽しんでいる。この岩棚は、311の後に防災の目的で建てられたものだが、現在はスケートボーダーたちが楽しめるスポットとして知られている。佐野さんは日々の料理もアート感覚で楽しんでいる。旬の食材を使った手の込んだ、美しい盛り付けの料理を日々インスタにアップしている。タイミングが合えば、彼女が地元の生産者から食材を入手して、美味しい料理に調理されるまでのプロセスなどもインスタで見ることができる。
佐野さんは、作品を作ったり、料理したり、植物の世話をしたり、地元の喫茶店で働いている時間以外は、松島を散策している。彼女は自然がもたらしてくれるものをこよなく愛している。最近、私が彼女を訪ねた際もアンモナイトの化石がある場所や瑞巌寺の洞窟群に連れて行ってくれた。１日の終わりには、松ぼっくりと松島の松を使ってしめ飾りも作った。
松島のどこが気に入っているかを佐野さんに訊いてみると、こんな答えが返ってきた。
「静かで、海にも山にも近くて、近所の人もいい人ばかり。名所旧跡がいい感じで残されていて、この土地のエネルギーにとてもインスパイアされています」。
彼女のおすすめは、初日の出の拝む場所、そして、お花見にうってつけの西行戻しの松公園、おから工房まつしまのおからドーナツ、松華堂菓子店のカステラなどなど。佐野さんと松島のお店に行くと、彼女がよく知られた存在であり、とてもみんなに好かれていることがわかる。最近は、Botanical Peopleや創業60年の老舗店、真壁豆腐店でおしゃべりを楽しんだり、バーガーショップ、Harry’s Junctionに立ち寄ることが多い。
佐野さんは地元のコミュニティ・プロジェクトにも定期的に参加して、毎年、夏のお祭りではワークショップも開催している。佐野さんの暮らしぶりを見ていると、思わず松島に引っ越したくなるだろう。
Ebony Bizys
http://www.hellosandwich.jp