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いとうせいこうさんとプランツ・パーティ
植物愛に溢れた本「われらの牧野富太郎!」

牧野富太郎はおそらく日本で一番よく知られている植物学者だ。そして、2023年春のNHK朝の連続テレビ小説の主人公のモデルにもなった。その牧野富太郎の魅力がギュッと詰まった『われらの牧野富太郎!』(毎日新聞出版)。監修は「PAPERSKY」でもお馴染みのいとうせいこうさん、クリエイティブ・ディレクターをルーカス B.B. が務めた。牧野富太郎を知り、牧野富太郎と一緒に彼の故郷である高知を歩くこともできる本だ。

03/13/2023

雑誌「PLANTED」のスタッフが16年ぶりに集結


牧野富太郎といとうせいこうさん、ルーカス B.B. との縁は、2006年に創刊された雑誌「PLANTED」にさかのぼる。ルーカスの提案でVol.2で高知県立牧野植物園の特集が組まれた。この旅を契機にいとうさんは牧野富太郎沼にどっぷりハマっていくことになるのだが、それはともかく、この「われらの牧野富太郎!」は編集者もライターも、その時のスタッフが再集結して作り上げた本だ。

牧野富太郎は生涯ただひたすら植物を愛し、植物のことだけを考えていたような人で、実に多くのエピソードや言葉、蔵書、標本などを残している。幕末生まれの人だが、そのひとつひとつをあらためて今生きている人の目線で読み解くと、牧野富太郎という人間がただ、有名な図鑑をつくっただけの過去の人ではないことがよくわかる。

若かりし頃と晩年の富太郎。高知県佐川町の青源寺にて。


新しい植物同好会=プランツ・パーティの提案


『われらの牧野富太郎!』には、全国各地で植物同好会を開いていた牧野に倣って、現代の植物同好会=プランツ・パーティを開催した様子を収録した。場所は牧野富太郎の故郷である高知県佐川町。生家跡に建てられた「牧野富太郎ふるさと館」を起点に、牧野富太郎に扮したいとうせいこうさんと植物採集をしながら町を歩く。これがまた、たまらなく楽しい。

参加したメンバーは総勢20人。植物について教えてくれる人、佐川の町について教えてくれる人、牧野の作詞した歌を奏で歌う人、スケッチする人、おやつを作ってくれる人、取材する人、撮影する人……それぞれがそれぞれの得意なことを生かしながら、それぞれのやり方で植物と自然を満喫した。時代が変わっても、場所が変わっても、メンバーが変わっても、植物を愛するという牧野富太郎の精神さえあればみんなが楽しむことができる。そんな新たな植物同好会を、ルーカスは「プランツ・パーティ」として提案した。

この時の様子は、映像作家の杉岡太樹さんがムービーにしてくれた。そして牧野富太郎が作詞し、楽譜も残る「植物採集行進曲」は、ミュージシャンの菊池啓介さんが新たに作曲をしてオリジナルのアレンジを加えた楽曲を、カリンバ奏者SHOさんと共に演奏し歌ってくれている。プランツ・パーティの雰囲気を少しだけ覗いてみてほしい。


たくさんの人たちの「牧野富太郎」が詰まっている


ほかにも高知を歩く際の参考にしてほしいページがある。「われらの牧野植物園ガイド」と「牧野富太郎と巡る植物の旅 in 高知」だ。前者は牧野植物園のスタッフたちにスポットを当てた一風変わったガイドとなっているし、後者は高知県内の牧野富太郎ゆかりの地がコンパクトにまとめられている。

また、牧野富太郎の美しい植物画と名言が堪能できるページ、波瀾万丈な生涯を知ることができるページ、蔵書のほんの一端をのぞくことができるページ、その類まれなるセンスを垣間見ることができるページもある。

そして何より、たくさんの人が牧野富太郎への想いを語っている。その熱い想いこそがこの本の真骨頂だろう。牧野富太郎は過去の人ではなく、今も人々の中で生き続けている。昨年、生誕160周年だったが、それだけの時代が経った今もなお愛され続ける牧野富太郎の、今だからこそ作ることのできる本である。


『われらの牧野富太郎!』(毎日新聞出版)
2023年3月13日発売
定価:2,420円

text | Namiko Hamano photography | Natsumi Kinugasa・Atsushi Kadono