― お住まいの、地域について教えてください。
京都市内の下鴨というエリアに暮らしています。高野川と賀茂川という二つの川が合流する「鴨川デルタ」から北の辺りです。世界遺産でもあり、京都の最も古い神社の一つと言われる賀茂御祖神社(下鴨神社)があり、神社を抱くような形で広がる「糺(ただす)の森」は、都市の中にありながらせせらぎに触れられたり、虫やきのこなどさまざまな生き物の観察ができます。
― どのような経緯で京都に移られたのですか?
小学校の低学年から高校を卒業するまで、山形県の庄内地方というところで過ごしました。畑と田んぼに囲まれた平野部で、風が強く雷の多い地域でしたが、夏の夕焼けや冬の一面の雪野原が美しい土地です。
京都へは大学受験の下見の時に初めて訪れました。繁華街の中に突如現れる古い町屋に目を奪われ、長い時間を脈々と繋いできた人達がここにいるのだなと肌で感じました。大学のすぐそばに山や田んぼがあり、土や水の匂いにホッとして、都会過ぎず自然も近く、夜がちゃんと暗くて、ここに住めたら楽しいだろうなあと思い進学を機に住み始めました。
― 日々の暮らしの中で、地域のどんなところに魅力を感じていますか?
鴨川や下鴨神社がすぐ近くにあるので、子供との散歩には事欠きません。草花を通してその年々や季節による変化を身近に感じられます。自転車で15分ほどで大文字山の麓なので、気が向けばいつでも行けます。自転車があれば大体の行きたいところ(本屋、ギャラリー、ラーメン屋…)に行けるというコンパクトなまちの規模感が京都の良いところだなあと感じています。
― 普段の「仕事」と「暮らし」について教えてください。
夫とスタッフと一緒に、Neki inc.という小さな会社を運営しています。取材などでポートレートの撮影をしたり、音楽関連のイベントを撮影したり、お茶屋さんの茶園や庭師の方が作庭された庭といった空間を撮ることもあります。依頼をいただいた分野に興味を持ちやすい性格なので、いろいろなところへ撮影に伺うことができてとても楽しいです。
家族の記念写真や個人のポートレート撮影なども行っており、ちょっとしたインタビューをしながら撮影の時間を過ごしていただき、冊子と入れ物を作ってお渡しするという活動もしています。
年に1、2回程度、個人的な制作の展覧会を行ったりもしています。また、記録として参加していたプロジェクトの展示が近年続いたこともあり、一つの地域に通いながら、長い期間にわたって撮影し、最終的に展覧会の形になっていくまでお手伝いするといったこともありました。子供がまだ小さいのですが、時々撮影に一緒に行ったり、その地域の焼き芋会や川掃除に参加したり、私の都合に付き合わせることもあります。
― プライベートではどのような写真を撮られていますか?
子供が二人いるのですが、日々変化の連続で、家の中や身の回りを定点観測のように撮影することが増えました。生活の中で起こる本当に些細だけれど不思議なできごと、例えば、水に砂糖や塩が溶けていく様子や、川原で捕まえた虫が虫籠の中で脱皮したりする瞬間には目を奪われる美しさがあります。家の中にも人の手の及ばない自然の理が実は起きているのだなと驚き、ちょこちょこ撮り溜めています。また、自転車で通勤している時に、鴨川にかかる橋の上を通ると、魚や鳥が集まるところや背の高い草が雑多に生い茂っているところに、さまざまな偶然とルールの積み重なりがあるように感じられて、ついつい写真を撮ってしまいます。
― 日々の暮らしや地域において、興味があること、今後やってみたいことはありますか?
実は狩猟と農が気になっていて、友人で罠の免許をとったという話や、畑を借り始めたという話を聞くと自分もいつかは…、と心の準備だけしています。去年車の免許を取ったので、そろそろ重い腰を上げるタイミングですね。
成田舞 Mai Narita
山形県出身、京都市在住。夫と一緒に運営しているNeki inc.のフォトグラファーをしながら、写真の作家として展覧会を行うなど、さまざまなプロジェクトに参加している。著書に「ヨウルのラップ」(リトルモア 2011年)
http://www.naritamai.info/
https://www.neki.co.jp/