― お住まいの、地域について教えてください。
熊本市の中心部に住んでいます。中心部ではありますが、目の前に田園風景が広がり、とてものどかな環境です。すぐ近くの川ではドジョウが泳いでいて、夏前には蛍も見ることができます。裏手が山なので、たまに猪や猿も出ます・・・。
― 生まれも熊本ですか？
出身は熊本ですが、父の仕事の都合で転勤が多く、天草、宮崎、また熊本・・・と小学校を転々としていました。天草と宮崎では海が近く、休みになると山や海、夏は毎年阿蘇に連れて行ってもらっていたので、自然に触れることの多い環境で育ってきました。
― 山口さんにとって、熊本はどんなところですか？
小学校6年生までの間は転校が多かったので、自分の故郷と言える場所が曖昧だったのですが、2016年に起きた熊本地震の際、傷ついた各地域、熊本城の痛々しい姿を見た時に受けたショックが大きかったことを昨日のことのように思い出します。震災後から、仕事で熊本城の復興の様子を4年近く追って撮影しているのですが、たくさんの方々の力で少しずつ復興してゆく様子に力をもらいます。いつの間にか、私の中で熊本は故郷として染み付いていたんだなと感じました。
― 日々の暮らしの中で、熊本のどんなところに魅力を感じていますか？
熊本は、世界有数のカルデラを誇る阿蘇や、ブナの原生林が広がる九州脊梁などの雄大な自然、その恩恵を受けた温泉や湧水、その裾に広がる美しい海を抱えた実り豊かな土地です。若い頃はその魅力になかなか気づけなかったのですが、レンズを通して見てきたことで、いかに魅力的な土地であるかを知ることができました。それと、登山ガイドをしている叔父の影響もあり、20代の頃から少しずつですが山に登るようになったんです。熊本市内から1時間ちょっとで山に行けるところも魅力の一つ。仕事で熊本県内のいろんな地域に行きますが、毎回、まだ出会っていない景色がたくさんあるなと感じます。
― 普段の「仕事」と「暮らし」について教えてください。
広告写真を中心に、建築、風景、人物、商品や料理などを撮影しています。基本的には熊本県内が多いのですが、県外に出ることも少なくはありません。主人も同じ業種の仕事をしているため、実家と、義理の母に協力してもらいながら子育てをしてきました。
自宅兼スタジオのため、仕事とプライベートの境目がなかなかつけにくい環境です。幼い娘に負担をかけてきたことも多々あると思います。ただ、撮影でいろんな場所に行くため、感動した風景、食事、学びになった体験を娘にも共感して欲しくて、感銘を受けた場所には間を開けず、家族で訪れるようにしています。
私の好きな仕事を、この仕事を続けている理由を、体験を通して少しずつでも理解してくれるようになると良いなと思っています。
― 地域の行事を撮影されることもありますか？
熊本県南部、球磨郡北部に位置する「五木村」という地域の方々と数年前に仕事でご縁があり、昨年から少しずつですが地域の行事の撮影をするようになりました。県南地域に伝わる、てこの原理を用いた餅つきの様子や、掛け干し米の収穫の様子など、1日密着して撮影していると、普段時間に追われた生活とは正反対の、穏やかな時間を過ごしている自分がいます。地域のお年寄りから得ることが多く、たくさん学ばせていただいています。
また、父と祖父母の故郷である牛深（天草市の最南端の位置する港町）は、幼い頃から慣れ親しんだ土地です。毎年4月の第3週、金・土・日に行われる、江戸時代後期から続く「牛深ハイヤ祭り」は、港町ならではの祭りで、「阿波踊り」のルーツとも言われています。最終日の朝には、大漁旗をなびかせた何十隻もの船が海上でパレードを行うのですが、ハイヤ踊り、船団パレードの勇壮な姿は何度見ても涙が出るほど、私にとって思い入れの深い祭りです。コロナで丸２年参加できていないため、来年は参加できることを願っています。
― 日々の暮らしや地域において、興味があること、今後やってみたいことはありますか？
仕事で、ある地域に一定期間密着することは多いのですが、仕事が終わってしまうと次の地域に移ってしまうので、今後は地域の行事、今ある自然の風景などを長期的に撮影をしていきたいと思っています。二十歳の頃からずっと走ってきた感覚なので、もう少しスピードを落として、ものごと一つ一つにもう少しゆっくりと、丁寧に向き合いたいなと思っています。先を走る先輩方にはまだ早い、と言われるかもしれませんが。
山口亜希子 Akiko Yamaguchi
1983年熊本市生まれ。熊本デザイン専門学校・グラフィックデザイン科卒業。熊本県内の広告写真スタジオ「Graphes」にて7年勤務、2011年～フリーランスに。夫と娘の3人暮らし。
