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未来の知恵

石川直樹

 

03/17/2022

デカ曳山の海辺

北は知床、南は与那国島まで、ぼくは日本列島の端っこや先端の地にたまらなく惹かれる。海岸に立てば、見えない境界線の先にきっと見知らぬ土地がある。そのことを思うだけで、胸が躍る。それだけではない。寂しい場所だと思い込んでいた「最涯て」は、行き止まりではなく、海から様々なモノが流入してきた入口でもある。実際に行って歴史や文化を知ることで、それを実感できる。ぼくが能登半島の最奥に位置する珠洲市に通うのも、珠洲が半島の最先端にあって、日本海を挟んだユーラシア大陸との繋がりを少なからず感じさせるからだ。

つい数日前まで、珠洲に滞在していた。秋の空は、空気がひとしお澄んでいて、どこまでも高く、広い。秋風にあたりながら日本海を眺めていると、悩みや不安が消えていく。コロナ禍が落ち着いて、あらためて旅の効用を噛みしめた。

珠洲といえば、日本最古の製塩技法である「揚げ浜式塩田」や、来訪神行事の「あえのこと」などが有名だ。また、秋は市内のあちこちでキリコ祭りが開かれ、珠洲が一年で最も賑わう季節なのだが、今年の祭りはコロナが席巻した夏頃に、早々に中止が決定し、キリコとはまた趣の異なるデカ曳山祭りも中止になってしまった。写真に写っている大きな山車が出てくるのが、デカ曳山祭りである。高さ18メートル、重さ20トンもあるデカ曳山を見附島の前の海岸で大勢が引くこの行事は、昭和33年(1958年)を最後に途絶えていたものの、地元有志の力で50年ぶりに復活した。以後一年に一回開催されていた。海風に煽られながらビルのような山車が見附島を背景に屹立すると、圧倒的な存在感に言葉が出なくなる。

もともと日本列島には、祭礼の一環として山車を曳く行事があちこちに存在する。山車には神が降りてくるとされ、それを地域の若者たちが引きながら歩き回ることで、無病息災を祈願してきた。デカ曳山の起源もおおむね同じだが、ステージのような空間に人形芝居の舞台が作られ、それが毎年替わる。それだけで、ただの山車の域をはるかに超えてしまっている。

ぼくが気になったのは、その曳山に乗っていた、「キャラゲ」と呼ばれる木遣り唄を口ずさむ二人の小学生の姿だった。彼らは化粧をし、赤を基調にした服を着せられて女装しており、顔はほっかむりで隠されている。わずかに見える表情は、不安げで、かつ無表情。それが逆に艶めかしくもある。

この子どもたちは神の遣いとされる。カトマンズで観た少女神クマリを彷彿させ、目が離せなかった。来年の秋は、キリコもこのデカ曳山も復活する。ぼくはまた秋風を身に受けながら、無心になって祭りを撮りたい。その先にある遠くて近いアジアとの繋がり、それを思いながら半島先端の海辺に立ちたいと願うのだ。

石川直樹 Naoki Ishikawa
1977年東京都生まれ。2008年、『NEW DIMENSION』『POLAR』で日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞を受賞。2011年『CORONA』で、土門拳賞を受賞した。著書に開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』ほか多数。近刊に『アラスカで一番高い山』(福音館書店)。2020年、写真集『EVEREST』『まれびと』で日本写真協会作家賞を受賞した。
http://www.straightree.com

THE VOID
ニーハイメディアから出版された、石川直樹による最初の長編写真集。ニュージーランドのノースランドで、先住民マオリの聖地として受け継がれる森の原生林を収めた一冊です。