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LIFE IS KEEN
Vol.05

POW 一般社団法人 Protect Our Winters Japan

小松吾郎(プロスノーボーダー/ POW JAPAN 代表理事)
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五明淳(板乗り/芽育“MAKE”雪板研究所所長/POWアンバサダー)

Togetherness, Originality, Doing Good. この3つをモットーとするLIFE IS KEEN。自分のため、みんなのため、そして、私たちが踏みしめる、この地球のために。1歩。たった1歩だけでも、きのうより外に踏み出すことができれば、毎日は変えられる。世界にポジティブな変化をつくり出すことをテーマに、様々な分野で活動する方々のストーリーに迫る。

12/15/2023

【Togetherness】
主義や価値観の違いなんてあたりまえ。
だからこそ、そんな違いを尊重しあうことができれば、
きっと、ひとつになれるはず。 みんな、いっしょに、前を向いていこう。

【Originality】
だれもがありのままに、自分らしく生きることができれば、
もっと、世界はおもしろい。
さぁ、自分らしさを研ぎ澄ませよう。

【Doing Good】
わたしたち、ひとりひとりにできることは小さい。
だけど、みんなができることを積み重ねれば、
大きな課題だって、かならず解決できる。
地球のため、仲間のため、そして、なにより自分のために。



長野県を拠点に“雪板(ゆきいた)”を作り活動する「芽育雪板」主宰の五明淳さんと、“冬を守る”ために「POW (Protect Our Winters) JAPAN」を発足した小松吾郎さん。日本を代表するプロスノーボーダーとして、そして“雪板乗り” として雪山を楽しむ二人は、気心の知れた「長年の仲間」だ。急激な気候変動が世界中の山々から冬を奪い去ろうとする今、二人はこれからも雪の上を滑り続けるために、自分らしく、雪との暮らしを守るために奮闘を続けている。雪山への感謝の気持ちをもち、次世代に向けて自然環境を守り、責任ある行動に取り組む。五明さんと小松さんに、雪への思いと未来への展望を聞いた。

左から、小松吾郎さん、五明淳さん。インタビューはHAKUBA VALLEY鹿島槍スキー場にほど近い、POW JAPAN本部オフィスでもある長野県大町市の小松さんのご自宅で実施

雪板(ゆきいた)とは五明さんが発案したウインタースポーツ。手作りの木製ボードに乗って雪上を滑る“雪遊び道具”で、靴と板を固定するビンディングがないため、自由で浮遊感のある滑りを楽しむことができる。

小松:雪板の魅力はいっぱいあるけど、スケートボードとかサーフィンとかと同じ感覚というか、やっぱり独特の感覚を得られるところだよね。

雪板の楽しさを伝え続ける五明さんは、雪板も楽しめる防水ブーツをKEENとコラボレーション展開している。GLIESER TALL WP

五明:雪が積もるところなら、公園やちょっとした庭でも、身近な場所で遊ぶことができるのも、雪板の面白さだよね。スタートがすごい楽だから、手軽なところが魅力だよね。それと木に乗るという感覚はスノーボードよりも雪板のほうが体感できると思う。木の種類ごとに特性を生かして作れて、乗ってみて改良ができる。気に入らないところを削り直したり、作り直しができるところが、楽しいよね。

五明さんは全国の「雪板」ワークショップでも活躍する自家用バスで、長野市の雪板工房から到着

2019年2月、小松さんは“雪山を愛する仲間たち”とともに一般社団法人POW(Protect Our Winters) JAPAN を設立。POW は 2007 年にプロスノーボーダーのジェレミー・ジョーンズが設立した団体で、気候変動が大切なフィールドである雪山に大きな影響をあたえることに危機感を抱き、“冬を守る”ために「社会の仕組みを変えるムーブメント」を生み出している。

小松:僕自身は、スノーボードって“自然と人をつなぐもの”だと思っていて、等身大で自分でできることを続けていたのですが、色々な人と話をしたり、考えが進んでいく中で「自分だけじゃなくて、同じ思いの人たちと一緒にやるのも意味がある」と思ってPOW JAPAN をスタートしました。変わらなければ“雪山を滑れない未来”がある事も、地球温暖化が引き返せない段階が来ることも、夏の猛暑や減り続ける雪も。雪に恵まれた環境の恩恵を受けるスノーボーダーこそ行動をすべきだと。それで淳にもアンバサダーとして一緒にやろうと声をかけた感じですね。

五明:僕は吾郎ちゃんがやるんだったらって。自分も自然や雪の世界に助けられたところがあるから、雪への恩返しの意味を込めて、自分が関わっていくうえで、環境が変わりすぎないよう、自分でできることをやっていきたいと考えています。

2019 年 12 月4日、長野県白馬村は自治体として日本で三番目に「気象非常事態宣言」を出し、2025 年までに白馬の全スキー場が再生可能エネルギー化に着手することが約束された。その背景には POW JAPAN の活動があり、小松さんたちの姿があった。

小松:POW JAPANが始まったばかりの時は、日本もまだ脱炭素社会に向かうよって、なってなかった。当時の菅義偉首相が「2050年までに温室効果ガス実質ゼロ」を目指す宣言(脱炭素宣言)をして、そこから大きく社会が変わる。日本中の自治体が何をしたらいいだろうってなって。その少し前から POW は始まっていたので、例えば白馬村とかと、せっかくなら一緒に考えて、一緒にやっていきましょうとなった。

社会が顔を向けたというか、目線をむけたという意味では、脱炭素社会への宣言や白馬村の気候非常事態宣言は大きかったと思う。個人もスノーボーダ―もスキーヤ―も、企業も、極端にいえば雪山に来ない人も参加していこうというスタートラインができたから。

2023年9月18日に東京・代々木公園で開催された「ワタシのミライ」に、POW JAPANが参加。合言葉を「MARCH FOR THE DAY」とし、パートナーであるKEENなどと協力し、パレードに参加

五明:僕は雪板自体が“環境への取り組み”につながっていると考えていて、雪板の物作りだったり、遊びだったりの楽しさを伝えて、雪のある生活の喜びを知る人たちをどれだけ増やすかによって、考える幅や広がりも増えていく。責任というか、体験することで変わっていくんじゃないかな。

ZERRAPORT II
YOGUI ARTS

気候危機を解決するために、スノーコミュニティは全国のアスリートや、自然を愛する人々、高校生をはじめとした若い世代とも連携し、「変化への声」をあげる。挑戦を続け、明日を変えるために何が必要か? と聞くと、二人は「ポジティブに、自分自身が楽しみ続けることが大事」と語ってくれた。

五明 :僕は雪板の常設パークをもっといろんな場所に増やしたい。そこに行けば雪板を滑れるってパークをつくって、イベントだと日にちがあわない人も参加してほしい。

後は、エシカルな視点をもつ会社の製品を買うとか、手作りをするとかもエシカルな活動だね。楽しみながらできることが、日々を良くしてくれる。

小松: 個人がやることとしてお勧めしたいのは、断熱。借家とかアパートの人は管理会社や大家さんに言ってみるのもいいかも。日本の家屋は断熱性能が何しろ低い。いまは色々助成金とかも出ているので、調べてみてほしい。POWも手伝ってくれた白馬高校の学生たちから始まった「学校の教室を断熱しよう」っていう動きが全国に広がってきているのも、象徴的だと思う。

五明:灯油を使う量が減るし、夏も冷房を使う機会が減るよね。

小松 :POWについてはもっと多くの自然で遊んでいる人たちに、環境を意識してくれる機会を提供したいと思っています。意識するだけでなく、もっとまわりに伝えくれるようにできたら嬉しいです。僕たちはスノーボーダーやスキーヤーの集まりで、色々と手探りしながらだけど、社会に働きかけて、仕組みを変えようとしています。そのためにも、もっと多くの人の力が必要なので、ぜひ雪板のことも POW のこともたくさんの人に知ってもらって、仲間になってほしい。

雪で遊び、雪板やスノーボードを通じて豊かな自然環境と暮らしてきた五明さんと小松さんの“描く未来”は、楽しく笑顔にあふれている。五感を使って冬を楽しみ、社会に向行動する姿には、雪山への愛情と、雪のある生活を次世代へつなぐ責任と可能性に満ちている。「雪で遊ぶことの魅力」を、「これからも雪山を愛する人々と一緒に共有したい」。気候変動に負けない、スノーコミュニティの挑戦は続いている。今日も自分らしく、もう一歩、外に。


小松吾郎 Goro Komatsu
北海道ニセコ町生まれ。長野県大町市在住。4歳からスキーを履き、12 歳でカナダ・BC 州へ移住して以来スノーボードを続け、17歳でプロに。カナダ在住時、スキー場建設に反対運動をするネイティブとの出会いから、スノーボーディングと自然の関係性を再考し、POW発足以前から環境負荷の軽減などを提唱し続けてきた。2018年POW JAPANを発足する。愛犬つきちゃんとの散歩が日課。
https://protectourwinters.jp/
https://www.instagram.com/goro_komatsu/

五明淳 Atsushi Gomyo
長野市生まれ。8 歳からスケートボードで日常的に外出し、13 歳からスノーボードをスタート。2014 年に国内の木材を使用したスノーボードブランド「PRANA PANKS」(プラナ パンクス)を仲間と立ち上げ、スケートボードとスノーボードの経験から木板の「雪板」(ゆきいた)を開発。全国で雪板を作るワークショップを開催し、雪板を世界に広めている<雪板>のパイオニア。
http://makesnowtoys.com/
https://www.instagram.com/make_a24/

KEEN
2003年の創業以来、製品をつくる時も、地球環境や人々との関わりを考える時も、常に正しいやり方を選ぶことをミッションのひとつとし、シューズをつくるだけではなく、社会をよりよくしていくための様々な取り組みを行う。
groovin’
本記事はスポーツライフスタイルマガジン「groovin’」 2023年10月号に掲載された記事の再編集版です。