Kyushu's National Parks
Traveler's Guide

阿蘇くじゅう国立公園(熊本・大分)

Route 3 : 熊本県・天草 〜 大分県・別府 〜 竹田 〜 熊本県・南阿蘇

 

02/07/2021


広大な草原に秘められた、人と自然のヒストリー

福岡から始まったバンの旅は、佐賀、長崎へと続き、熊本へと至る。今も脈動する火山と、壮大な歴史のストーリーが封じ込められた美しい草原。僕らは阿蘇くじゅう国立公園のエリアへ入っていった。長崎で堪能した広大な海の風景、雲仙で目の当たりにした険しい山脈とはうってかわり、車窓から見えるのはどこまでも続く夢のような草原。国内でも希少なあか牛の繁殖、肥育に挑戦し、そのおいしさを広め続ける井俊介さんの牧場がここにはある。

九州の北海道とも称される久住高原。夏のドライブには最適なエリア

夏だというのに涼しげな風が吹き抜ける阿蘇の草原。好きな場所で自由に草をはむ牛たちは見るからに幸福そうだ。このあたりは野草地の面積としては日本一のエリア。井さんはこの壮大なステージであか牛を育てる。一般に広く知られる黒毛和牛ではなく、なぜあか牛にこだわるのか。

「阿蘇はもともと火山がつくった土地。古くからここに住む人たちは田畑をどうつくっていくか、苦労していたんです。こういう場所だから、まずは土を酸性から中性に移していかないといけない。そのためには広大な野草地を耕し続けて、牛糞などで土をつくり続ける必要があった。ですから牛は阿蘇の文化そのもの。そして阿蘇では放牧に適したあか牛が長年、人とともに暮らしてきた。まあ、うちがあか牛にこだわるのは、そのような文化を守るというか、伝統をつないでいきたいというのが理由ですね」

牧草に恵まれた土地のありがたみを日々、感じるという井さん

果てしない草原の健康な草を食べ、自由に移動しながら暮らすあか牛はすこぶる病気に強いそう。赤身で脂身が少ないため、ヘルシー指向のグルメとしても近年、人気が再燃している。

「たとえば肉が苦手な子どもでも、このあか牛なら食べられるということがあったり。要するに餌となる草資源なんですよ。牛の餌となる牧草の調達に苦労する牛舎はものすごく多いですが、ご覧のように困ることがない(笑)。近くには名水にも選ばれた池山水源があって豊かな水にも支えられています。こういう環境で昔とまったく変わらない育て方をすると、牛はおいしくなります」

耐寒、耐暑に優れたタフなあか牛

もとは熊本市内で昼夜問わずの仕事に追われ続け、一時は人生にも迷ったという井さん。奥さんの実家のこの家業を継ぐことになり、草原に囲まれる毎日で心身ともに活力を取り戻したという。そんな井さんから渡された貴重なあか牛の肉を手に、僕らはまるで幻のような壮大な風景を後にした。

平飼いの養鶏でヘルシーな卵を提供し続ける「グリーンファーム久住」。自由度の高い環境で鶏が飼育される 
南阿蘇は美しい湧き水スポットの宝庫

無事、サンドウィッチのメインとなる食材を入手して山を下り、阿蘇市の市街地へと向かう。次の目的はあか牛を引き立てるマスタードの調達。高菜でつくられた「タカナード」の考案者、「阿蘇さとう農園」の佐藤智香さんに会うためだ。タカナードとは高菜の種から酵素活性を利用してつくられた、佐藤さんオリジナルのマスタード。阿蘇に古くから続く農園の風景を少しでも取り戻したいという思いから、商品開発と持続的な農業に挑んだという。

「もともと大阪でOLだったんですけど、東北の震災をきっかけに実家の阿蘇に戻ったんです。それでやっぱり阿蘇なら農業せんと!って思って。地元では農家さんもどんどん少なくなっている。だから私ががんばれば、阿蘇の景色が少しでも変わるんじゃないかなって。だけど就農してみたはいいけれど、私にはどうも野菜をつくる技術や体力が足りないと感じてしまった。それで行き当たったのがオリジナルの商品開発でした」

他人とはまったく異なる活動で地元の農業を活性化させる。その思いから野菜を利用した新しい商品の開発を目指したというのだ。

古き良き農園の風景を取り戻したいと語る、阿蘇さとう農園の佐藤さん

「何をどうすればいいかと考え続けていたとき、マスタードのつくり方を紹介するTV番組を偶然見たんです。それで、あっと思って、高菜を使ってやってみたのが始まり。高菜の収穫は最適な時期が年に3日ほどととても短いこともあって、収穫が難しく、採算が合わないので、扱う農家さんが減ってきています。私がこのタカナードを成功させて、高菜の種をもっともっと買い取ることができれば農家さんも高菜づくりを続けられる。そういう循環が軌道に乗れば最高ですよね」

そう言いながらかわいらしく笑う佐藤さんだが、話してくれた内容は、じつにクリエイティブで、地元愛に満ち、ビジョンは壮大。では、苦労の賜物であるタカナードはどんな味がするのか、興味津々でひとなめしてみた。なるほど深くて、さわやかで、ピリッと辛く、香り高い。佐藤さんの挑戦のすごみを知ると、なおさらその辛さが、舌に染み渡った。

自然栽培を実践する「にしだ果樹園」の西田さん親子に出会う
タフな走りで旅を演出した改造ハイエースバン 
阿蘇の標高差を利用した栽培によって、おいしい漬物を提供する「徳丸漬物」へ


SPOT LIST

グリーンファーム久住
大分県竹田市久住町大字久住4066-2
TEL: 0974-76-1411

Cafe Karin
熊本県阿蘇郡南小国町中原4581
TEL: 0967-42-1608

農家レストラン 山の里
熊本県阿蘇郡産山村大字田尻202
TEL: 0967-25-2253

阿蘇丸漬本舗 徳丸漬物
熊本県阿蘇郡高森町大字上色見2681-1
TEL: 0967-62-0096


PAPERSKY no.63 | KYUSHU’S NATIONAL PARKS
九州の4大国立公園を巡り、各地の「食」をサンドウィッチで味わうロードトリップへ。旅のゲストは「CHALKBOY」こと吉田幸平さんと「青果ミコト屋」鈴木鉄平さん。
text | Miguel Utsunomiya photography | Masahiro 'Lai' Arai (SunTalk)