落葉樹林で鳥たちがダンス!
面積の約8割を紀伊山地が占める和歌山県は、「木の国(紀の国)」と呼ばれてきたとおり深い山と豊かな森に恵まれている。温暖で湿潤な気候もあって古くから林業が盛んで、森林のうちスギやヒノキの人工林が占める割合はおよそ60%。つまり森の多くが落葉しない針葉樹林というわけだ。
おおらかな干潟の眺望を楽しめる和歌の浦、神秘的な針葉樹林が広がる熊野古道 中辺路ときて、“Birding”3つ目のスポットは、天然の広葉樹林が広がる護摩壇山周辺の森。日本野鳥の会和歌山県支部長を務める中村進さんいわく、「ビギナーからベテランまでにお勧めしたいバードウォッチングスポット」である。
霊峰・高野山の南に位置する護摩壇山は標高1,372m。龍神岳に次ぐ、和歌山県で2番目に高い山である。源平の合戦で敗れた平維盛がここで護摩を焚いてその命運を占ったという言い伝えから名づけられた「護摩壇山」。南斜面に広がるブナ、ミズナラの原生林は、貴重な動植物たちの宝庫だ。

気配は春めいているけれど、スタート地点の「道の駅ごまさんスカイタワー」周辺の景色はまだまだ冬枯れ。落葉したブナとミズナラ、ヒメシャラがどこまでも続き見通しがいい。ガイド役の中村さん、ゲストの丸山由起さんと一緒に護摩壇山森林公園ワイルドライフに続くトレイルを出発する。
木立からはさっそく、よく澄んだ声のさえずりが聞こえてきた。ひらひらと飛びまわるヒガラがメスたちに猛アピールをしている声だ。ヒガラの他に飛んでいるのはカラ類が中心で、胸元に黒いネクタイを締めている(ように見える)シジュウカラ、玉を転がすような声の持ち主はゴジュウカラ。「ギャーギャー」と野太い声で鳴くのはカラスの仲間のカケスで、声はいまいちだがオレンジとブルーの見た目はハンサムだ。
「今はまだ冬鳥たちの季節ですが、5月以降になると夏鳥たちが姿を見せてくれます。この周辺でぜひ見たいのはコルリ。名前のとおり、瑠璃色のきれいな小鳥で、シカ対策のネットに囲まれたエリアのなかに巣をつくります。その他、オオルリ、キビタキ、クロツグミ…運がよければアカショウビンも」(中村さん)

Photography: Nakamura Susumu

新緑に包まれる5、6月には、シロヤシオやウスギヨウラク、ヤマボウシといった野の花が一面に咲き誇り、40種を超える鳥が飛びまわる。そのさえずりはうるさいほどだとか。
数年前から修行目的で熊野古道を歩くようになり、自然と人との関わりに意識を向けるようになった丸山さんは、この企画をきっかけに鳥にも興味をもつようになった。自身が拠点を構える那智勝浦周辺で野鳥の会会員に話を聞き、鳥の見方を教えてもらったそうで、 “鳥”というレイヤーが増えることで自然の見方をもう一段、深めることができる―そんな手応えを感じている。
「まだ漠然と木立を探すことしかできないけれど、情報が増えるほど自然に対する解像度が上がります。鳥の声や気配を感じながら、彼らが生息する環境をまるごと写真に収められることが楽しい。長く続けられそうな、自然との文化的な関わり方を教えてもらいました」


変わりつつある「緑のダム」で
多様性と水源涵養機能に富み、「緑のダム」ともいわれるブナ林の環境に惹かれ、鳥や植物、昆虫の観察会も開いている中村さん。だが、近年は気候変動やシカの食害による環境の変化を目の当たりにしている。
たとえば、林床の植物だけでなくササや芽生えた樹木、樹皮までがシカに食べられ、茂みがなくなって森の乾燥化が進み、次の世代の樹木が育たなくなった。これは多彩な野生動植物が共生する豊かな生態系の基盤となっていたブナ林の消失リスクを示している。他にも、かつては南西諸島や沖縄に生息していたリュウキュウサンショウクイが温暖化に伴って生息地を北上させ、和歌山でも普通に見られるようになるなど、これまで見られなかった変化が起きている。

鳥類標識調査※にも関わる中村さんは、たくさんの人が野鳥や動植物を観察し、その豊かな生態に触れることを願っている。その経験が環境意識を高めるからだ。
※野鳥に個体識別番号を記した足標(リング)を装着して放鳥し、繁殖地から中継地、越冬地への移動経路や鳥の寿命、繁殖状況などを調べる国際的な調査。バンディングとも
「ぜひ、ベテランたちと野鳥を観察できる観察会にいらしてください。縄張り争い、喧嘩に求愛。ドラマに満ちた鳥たちの行動は見飽きることがありませんよ」






1982年、和歌山県那智勝浦町出身。写真家、新宮市の「丹鶴スタジオ」主宰。熊野の魅力を発信する「紀南フィルム」リーダー。27歳の時に大阪から郷里に戻り、写真を撮り始める。著作に、写真集『ROUTE42』(青幻舎)『ワンダフル・アグリカルチャー』(人葉舎)、吉野熊野国立公園を1年にわたって撮影した『志原海岸』など。
KOYASAN RYUJIN BIRDS
深い森に潜む山の鳥たち

<鳥の鳴き声を聴く>
🎵 オオルリ(Blue-and-white Flycatcher)
運がよければクマタカも!?
和歌山県第2位の高峰・護摩壇山周辺には「紀伊山地の屋根」ともいうべき標高1200〜1300m級の山々が連なり、ブナやミズナラの天然林が広がっている。中辺路よりもさらに標高が高い冷温帯の森で、山地性の野鳥が生息するのが特徴だ。
たとえばヒガラやコガラ、ゴジュウカラ、オオアカゲラといったキツツキの仲間、深い森のなかで美声を響かせるコルリやクロツグミなど。晴れた日には上空を舞うクマタカを見ることができるかも。多様な生き物が住む、深くて豊かな森が広がっている証拠だ。
落葉する晩秋以降はともかく、木々の葉が茂る春〜初秋は双眼鏡での観察は至難の技。鳴き声を拾い、方向を特定したらその方角に耳を澄まし、動きがあるまでじっと待つ。ベストな時間帯は早朝だ。山中では水場や木の実がなっている場所に野鳥が集まることが多い。そんな場所を見つけたら鳥の姿をチェックしてみよう。
Route Guide

和歌山県伊都郡高野町高野山444
TEL: 0736-56-2343

和歌山県伊都郡高野町高野山49-43
TEL: 0736-26-7216

和歌山県伊都郡高野町高野山550
TEL: 0736-56-2002
大門
和歌山県伊都郡高野町高野山
TEL:0736-56-2011(金剛峯寺)