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CAMERA CULTURE
KOYASAN RYUJIN with YOSHIKI MARUYAMA / Photographer

高野山 龍神

喧嘩に求愛、 ドラマチックな鳥たちの営み

「紀伊半島の屋根」ともいうべき山々が連なる一帯では、野生味溢れる鳥たちの共演が見もの。美しいブナの森に息づく野鳥たちの足跡を、五感を駆使してたどってみよう。

07/21/2026

落葉樹林で鳥たちがダンス!


面積の約8割を紀伊山地が占める和歌山県は、「木の国(紀の国)」と呼ばれてきたとおり深い山と豊かな森に恵まれている。温暖で湿潤な気候もあって古くから林業が盛んで、森林のうちスギやヒノキの人工林が占める割合はおよそ60%。つまり森の多くが落葉しない針葉樹林というわけだ。

おおらかな干潟の眺望を楽しめる和歌の浦、神秘的な針葉樹林が広がる熊野古道 中辺路ときて、“Birding”3つ目のスポットは、天然の広葉樹林が広がる護摩壇山周辺の森。日本野鳥の会和歌山県支部長を務める中村進さんいわく、「ビギナーからベテランまでにお勧めしたいバードウォッチングスポット」である。

霊峰・高野山の南に位置する護摩壇山は標高1,372m。龍神岳に次ぐ、和歌山県で2番目に高い山である。源平の合戦で敗れた平維盛がここで護摩を焚いてその命運を占ったという言い伝えから名づけられた「護摩壇山」。南斜面に広がるブナ、ミズナラの原生林は、貴重な動植物たちの宝庫だ。

このルートを案内してくれた中村進さんの前職は高校教師。鳥はもちろん、植物や昆虫の知識も豊富。護摩壇山の自然環境全般を含めた鳥の生態を解説いただいた 

気配は春めいているけれど、スタート地点の「道の駅ごまさんスカイタワー」周辺の景色はまだまだ冬枯れ。落葉したブナとミズナラ、ヒメシャラがどこまでも続き見通しがいい。ガイド役の中村さん、ゲストの丸山由起さんと一緒に護摩壇山森林公園ワイルドライフに続くトレイルを出発する。

木立からはさっそく、よく澄んだ声のさえずりが聞こえてきた。ひらひらと飛びまわるヒガラがメスたちに猛アピールをしている声だ。ヒガラの他に飛んでいるのはカラ類が中心で、胸元に黒いネクタイを締めている(ように見える)シジュウカラ、玉を転がすような声の持ち主はゴジュウカラ。「ギャーギャー」と野太い声で鳴くのはカラスの仲間のカケスで、声はいまいちだがオレンジとブルーの見た目はハンサムだ。

「今はまだ冬鳥たちの季節ですが、5月以降になると夏鳥たちが姿を見せてくれます。この周辺でぜひ見たいのはコルリ。名前のとおり、瑠璃色のきれいな小鳥で、シカ対策のネットに囲まれたエリアのなかに巣をつくります。その他、オオルリ、キビタキ、クロツグミ…運がよければアカショウビンも」(中村さん)

護摩壇山周辺で狙いたい鳥は、ブルーと白のツートーンが美しいコルリ
Photography: Nakamura Susumu
落葉したブナ・ミズナラの林は鳥観察に最適。取材は3月上旬、木々が芽吹き始めており、遅い春の訪れを体感した

新緑に包まれる5、6月には、シロヤシオやウスギヨウラク、ヤマボウシといった野の花が一面に咲き誇り、40種を超える鳥が飛びまわる。そのさえずりはうるさいほどだとか。

数年前から修行目的で熊野古道を歩くようになり、自然と人との関わりに意識を向けるようになった丸山さんは、この企画をきっかけに鳥にも興味をもつようになった。自身が拠点を構える那智勝浦周辺で野鳥の会会員に話を聞き、鳥の見方を教えてもらったそうで、 “鳥”というレイヤーが増えることで自然の見方をもう一段、深めることができる―そんな手応えを感じている。

「まだ漠然と木立を探すことしかできないけれど、情報が増えるほど自然に対する解像度が上がります。鳥の声や気配を感じながら、彼らが生息する環境をまるごと写真に収められることが楽しい。長く続けられそうな、自然との文化的な関わり方を教えてもらいました」

いつものカメラの代わりに望遠鏡を構える丸山さん。使用した機材は、9〜27倍ズームと56mm対物レンズを搭載した「Nocs Provisions」のコンパクトな望遠鏡
下山後に歩いた高野山奥之院参道では、ヒヨドリやシジュウカラのにぎやかなさえずりに迎えられて 



変わりつつある「緑のダム」で


多様性と水源涵養機能に富み、「緑のダム」ともいわれるブナ林の環境に惹かれ、鳥や植物、昆虫の観察会も開いている中村さん。だが、近年は気候変動やシカの食害による環境の変化を目の当たりにしている。

たとえば、林床の植物だけでなくササや芽生えた樹木、樹皮までがシカに食べられ、茂みがなくなって森の乾燥化が進み、次の世代の樹木が育たなくなった。これは多彩な野生動植物が共生する豊かな生態系の基盤となっていたブナ林の消失リスクを示している。他にも、かつては南西諸島や沖縄に生息していたリュウキュウサンショウクイが温暖化に伴って生息地を北上させ、和歌山でも普通に見られるようになるなど、これまで見られなかった変化が起きている。

倒木したブナの大木に自然環境の変化を見る

鳥類標識調査※にも関わる中村さんは、たくさんの人が野鳥や動植物を観察し、その豊かな生態に触れることを願っている。その経験が環境意識を高めるからだ。

※野鳥に個体識別番号を記した足標(リング)を装着して放鳥し、繁殖地から中継地、越冬地への移動経路や鳥の寿命、繁殖状況などを調べる国際的な調査。バンディングとも

「ぜひ、ベテランたちと野鳥を観察できる観察会にいらしてください。縄張り争い、喧嘩に求愛。ドラマに満ちた鳥たちの行動は見飽きることがありませんよ」

高野山エリアでは、金剛峯寺や奥之院などに立ち寄って。こちらは高野山の入り口にそびえる大門 
宿泊は、奥之院に至近の「高野山ゲストハウス Kokuu」。高野山育ちのオーナー、高井良知さんがお出迎え
居心地のいいドミトリースペースと、こぢんまりとしたリビング&ダイニングスペースからなる「高野山ゲストハウスKokuu」。さまざまな国からやってきた旅行者との情報交換を楽しんで
高野山の名物といえば、精進料理として知られる胡麻豆腐がある。「高野山 胡麻豆腐 濱田屋」の胡麻豆腐は希少な吉野本葛と皮を丁寧に剥いた白ゴマ、高野山の湧水のみでつくられており、濃厚な味わいとなめらかな食感が病みつきになりそう。和三盆糖をかけるとスイーツ感覚でいただける
こちらは冬季限定の胡麻豆腐を使ったホットドリンク 

丸山由起

1982年、和歌山県那智勝浦町出身。写真家、新宮市の「丹鶴スタジオ」主宰。熊野の魅力を発信する「紀南フィルム」リーダー。27歳の時に大阪から郷里に戻り、写真を撮り始める。著作に、写真集『ROUTE42』(青幻舎)『ワンダフル・アグリカルチャー』(人葉舎)、吉野熊野国立公園を1年にわたって撮影した『志原海岸』など。

KOYASAN RYUJIN BIRDS
深い森に潜む山の鳥たち

<鳥の鳴き声を聴く>

🎵 クマタカ(Mountain Hawk-Eagle)

🎵 オオルリ(Blue-and-white Flycatcher)

🎵 ヒガラ(Coal Tit)



運がよければクマタカも!?

和歌山県第2位の高峰・護摩壇山周辺には「紀伊山地の屋根」ともいうべき標高1200〜1300m級の山々が連なり、ブナやミズナラの天然林が広がっている。中辺路よりもさらに標高が高い冷温帯の森で、山地性の野鳥が生息するのが特徴だ。

たとえばヒガラやコガラ、ゴジュウカラ、オオアカゲラといったキツツキの仲間、深い森のなかで美声を響かせるコルリやクロツグミなど。晴れた日には上空を舞うクマタカを見ることができるかも。多様な生き物が住む、深くて豊かな森が広がっている証拠だ。

落葉する晩秋以降はともかく、木々の葉が茂る春〜初秋は双眼鏡での観察は至難の技。鳴き声を拾い、方向を特定したらその方角に耳を澄まし、動きがあるまでじっと待つ。ベストな時間帯は早朝だ。山中では水場や木の実がなっている場所に野鳥が集まることが多い。そんな場所を見つけたら鳥の姿をチェックしてみよう。


Route Guide

高野山 胡麻豆腐 濱田屋
和歌山県伊都郡高野町高野山444
TEL: 0736-56-2343
高野山ゲストハウス Kokuu
和歌山県伊都郡高野町高野山49-43
TEL: 0736-26-7216
高野山奥之院
和歌山県伊都郡高野町高野山550
TEL: 0736-56-2002

大門
和歌山県伊都郡高野町高野山
TEL:0736-56-2011(金剛峯寺)

PAPERSKY no.74 | WAKAYAMA | Birding
バードウォッチング・フィールド、和歌山の旅へ。「Birding=野鳥観察」をテーマに、アオイヤマダさんをはじめ、イラストレーター、写真家、ミュージシャンの方々と新しい野鳥観察の可能性を探ります。
Text | Ryoko Kuraishi photography | Deby Sucha Illustration | Tomoko Kyuki special thanks | Wakayama Tourism Federation, The Wild Bird Society of Japan Wakayama Prefecture Branch, Japan Bird Research Association, RENAULT JAPON CO., LTD.