プリミティブな野外料理の楽しみ
その日の食卓は、ご機嫌な波が立つ平野サーフビーチ。砂浜の一角、大きな岩塊の横で三上奈緒さんがセッティングを始めた。プリミティブな野外料理では、調理場も即席。砂に穴を掘り、石を並べ、流木を組んでアーチをつくる。できたのは、3つのファイヤーピット。揃った食材は、新鮮で多彩。奈緒さん、ここでどんな料理をつくるんですか?
「Bunちゃんが釣った魚をどう活かすか。ハマチは半身にしてねぎと一緒に糸で縛って直火焼き、残った半身は柑橘とあえてマリネにします。ホウボウは、野菜やハーブ、鶏がらと一緒に煮込んで出汁をとり、それでパエリアを炊く。エソは3枚におろしてから骨ごと叩いて、刻んだ葉にんにくと間引きにんじんと混ぜてハンバーグに、という計画です」
野外料理は、調理シーンが映える。ハマチとねぎの直火焼きは、流木から糸で吊して“鯉のぼり”状態に。くるくるとまわしながら、遠火でじっくり火を入れる。流木からフックで吊るしたダッチオーブンでスープをクツクツ。もうひとつのファイヤーピットではじゃがいもを海水で茹でる。火の通りをときどき確かめながら、薪をくべ、ぼーっと火の番。ガスコンロ、ましてやIH調理にはない、感覚が頼りの緊張感と愉しさだ。

スープができたらパエリアを炊く。ここでも遠火でじっくりが原則。合間にサイドメニューも手早く。茹でたじゃがいもとほうれん草は、ビネガーであえ、炙った鰯の丸干しをパラパラ。生のハマチに紅まどかと小夏をあえ、オリーブオイルと白ワインビネガー、塩で味を調える。エソハンバーグを焼いて、とれたて卵の目玉焼きを添えたら、最後に蒸らしたパエリアににんじんの葉っぱを散らし、たっぷりの小夏果汁を絞って完成。
「野外料理は、空気も含めて全部が料理なんです」と奈緒さん。空と太陽と海とビーチと。それは極めて至福な、料理の記憶。



