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Kochi Guest Interview

烈日の光を浴びて、しなやかにたくましく
モダン・ノマドたちが根ざす楽園
高知を巡る旅

都市から、田舎へ。利便性の追求から、手をかける喜びの探究へ。ここにきて、人々のマインドセットの変化が止まらない。好きな土地に根ざし、仕事にもお金にも縛られず、自分らしく伸びやかに生きる。そんな根源的かつ、理想的な暮らしを求めた人々が辿り着く楽園のひとつが、高知県だった。旅する料理人・三上奈緒さんと、釣り師・石川文菜さんとともに、憧れのモダン・ノマドな人々を訪ねる旅へ。高知の風土が育むとびきり豊かな食材との出会いにも、心躍らせながら。

10/14/2021

“太陽”な人々が教えてくれたこと

志は、「Farm to table」。日本各地の旅先で生産者を訪ね、集めた食材を使って料理をし、ポップアップレストランを開催する。料理人・三上奈緒さんは、そんなライフワークの源泉について「生産者の魅力を伝えたくて」と語る。

「青山ファーマーズマーケットで手伝いをしていたときに、生産者に憧れを抱くようになったことがきっかけ。野菜にはその人の内面が映し出されているものなんだって知ったんです。私が惹かれるのは、自然にも野菜にも無理をさせない、だからその人自身も自然体っていう、そんな生産者たち。彼らのことをもっといろいろな人に知ってもらいたい、そのためには食べてもらうのがいちばんだと考えて、料理を始めました。その想いは、今でも変わらない」

利便性と引き換えに、消費者と生産者が明確に線引きされ、暮らしから“生産現場”が遠くなってしまった現代社会。奈緒さんが担っているのは“顔の見える食卓”を提供することで、そんな両者の距離を自然に縮めていくパイプ役だ。

今回は、そんな彼女をゲストのひとりに迎え、海、山、川と高知県の豊かなフィールドを巡りながら、旅のキーワードである“モダン・ノマド”な人々を訪ねるトリップへと出かけた。しかも、そこで出会った食材を使い、奈緒さんに野外料理をしたためてもらうという贅沢なプランつきだ。高知市からスタートした旅は、太平洋を横目に西へ西へと向かい、再び市内に戻ってから、今度は清流・仁淀川沿いを拠点に、ディープな里山。高知を訪れるのは4回目という奈緒さんの目に、あらためてこの土地はどう映ったのだろう。

中里自然農園」で旬の野菜を収獲。自然体な夫妻が大好き、と奈緒さん
高台に広がる薬草畑の一角。ローズマリーが可憐な花を咲かせていた
真新しい塩づくりの工房を訪ねて。塩杜氏・田野屋銀象さんと

「とにかく食べ物がめちゃくちゃおいしい。海のもの陸のもの、何を食べてもまちがいないのがすごいですよね。柑橘類が豊富な土地なので、柑橘をお酢の代わりに惜しみなく使えるのは、あらためて発見だったな。それと、やっぱり印象に残ったのは、底抜けに明るい人々。太陽みたいっていったら抽象的すぎるけど、私はそのとおりだと思ってて。あそこにも太陽、こんなところにも太陽。いったい、この旅でいくつの太陽に会ったんだろうっていう」

塩田教介さんが自家栽培するハーブ。香り高いハーブティーは絶品
四国西南端の宿毛市にある本格イタリアン「ポモドーロ」で乾杯

移住者が多く暮らすいの町で会ったのは、Uターン・Iターン者を積極的に受け入れ、自身もオリジナルな生き方を追求する「刈谷農園」の刈谷真幸さん。彼こそ、太陽のなかの太陽的存在だ。生きるエネルギーに満ち溢れ、周囲を豪快に明るく照らしながら、自らが信じた道をまっすぐに進んでいく。そんな彼が奈緒さんに言った。

「農家がいちばん強いき。何があっても絶対大丈夫や。いくらでも食わしっちゃるから、しんどいときはいつでも帰ってこい」

じつはこの旅の直前、人生の岐路に立っていたという奈緒さん。高知の生産者たちの本質的でまっすぐな生き様、その口から紡がれる力強い言葉は、奈緒さんの心にぐんぐんと染み込んで、旅が進むごとにみるみるとその表情が明るく、確信に満ちたものに変わっていくのがわかった。

青く輝く「平野サーフビーチ」の波打ち際。ジャガイモを茹でる海水を汲みに
砂浜の食卓で完成した、豪華な野外料理プレート

「衣食住のなかでも最終的に人間は“食”がないと生きていけない。食を司る“農”の人は、やっぱり言葉どおり、最強なんですよね。そんな、地に足がついている人だからこそ出てくる余裕や優しさがあるし、建前ではなく心から出た言葉だってわかる。今回、出会った人たちの生き様を見て、言葉を交わすことで、私も原点回帰することができた。人にどう見られようが、自分がわくわく楽しいと感じることを信じて、ただ突き進めば、絶対その先には光がある。それでいいんだ、って」

釣った魚を捌き、竹串に刺す共同作業。2人の息もぴったり
清流のほとりで焚き火を囲んでの調理時間。プリミティブな喜びで満たされる

この美しい自然があるからこそ

奈緒さんにとって頼れるパートナーを務めたのが、もうひとりの旅のゲスト、石川文菜さん。“文菜”の“文”をとって「Bunちゃん」との愛称で親しまれている彼女は、女性釣り師として業界ではちょっと有名な存在。華奢で都会的なルックスからは一見、想像しがたいものの、全国各地のフィールドへと精力的に足を運び、時に数十㎏にもおよぶ魚を釣り上げるべく果敢にファイトするなど、釣りへの情熱と腕は確かだ。今回の旅では、初めて訪れる海と川で釣りにチャレンジ。食材確保に多大なる貢献をしてくれた。そんなBunちゃんにとってもやはり、高知で出会った人々の生き様は眩しく映ったようだ。

生命力あふれるハマチを見事にヒットしたBunちゃん。船上が沸き立った瞬間
視界いっぱいに広がる海。釣りにもサーフィンにも最高のフィールド
翌日の海釣りに備えるべく高知市内の「フィッシング今井」へ

「会う人会う人が表情からしてすごく明るいし、心の豊かさが全然違うなって。どうにかなる、なんとかなる精神をもっている人ばかりで、私自身はがちがちに考えないと動けないタイプの性格だったんですけど、自分の人生観、考え方を気持ちよく崩してもらった気がします。驚いたのは、ライフスタイルのなかに釣りがとてもナチュラルに存在しているということ。仕事の前に釣り、仕事が終わったら釣り、農業が休みになったら釣り。会う人会う人がごく当たり前のように、釣りを日常に取り入れていて。ちゃんと“釣れる”フィールドだっていうこともあるけれど、高知ならではの自然の美しさ、水のきれいさがあってこそなのかなぁって。美しいフィールドがあるからこそ、毎日でも釣りに行きたくなってしまうんだと思う。うらやましい」

確かに、高知は美しかった。異国のそれを思わせるエネルギッシュな日差し、どこまでも雄大な太平洋と隠れ家のような極上ビーチ、清冽な仁淀川にエトセトラ。そんな揺るぎない自然の美しさ、力強さが前提にあるからこそ、この土地ならではの豊かな食材と、強く優しく明るく生きる人々が育まれているのだろう。

ちなみに奈緒さんとBunちゃんは、今回が初対面。人々を訪ねながら食材を集め、ぴっちぴちの魚を釣り上げて、プリミティブな野外キッチンで料理をし、青空の下で食卓を囲む。その土地の風土を五感で楽しみ、人々の言葉から心に刺激を受け取りながら、また次の土地へ。そんなエキサイティングで濃密な10日間をともに過ごし、ふたりの仲は急速に深まった。旅の終盤、奈緒さんの「高知いいなぁ、住みたいなぁ」とのつぶやきに、「うんうん、シェアハウスしない?」とすかさず合いの手を入れるBunちゃん。もしかしたら近いうちに、新たなモダン・ノマドたちが高知に根を張ることになるかもしれない。

朝の光に包まれた「いちえん農園」。草をついばむ鶏たちとともに楽園風景を散策
clothing (left): siiwa (URBAN RESEARCH DOORS)

三上奈緒
旅する料理人。東京都出身。東京農業大学卒業後、栄養士として小学校に勤務。その後渡仏し、現地のレストランで修業。カリフォルニア「シェ・パニース」での研修を経て、現在は日本各地にて顔の見える食卓づくりをする。海に山に川に、料理のフィールドはどこへでも。

石川文菜
釣り師。鹿児島県出身。幼少のころ、父親の影響で釣りを始める。2014年、釣り業界のアイドル「アングラーズアイドル」の5代目に就任。現在は、ルアーメーカー「株式会社ジャッカル」に所属。独自の視点から“釣りのある暮らし”を発信している。

PAPERSKY no.64 | MODERN NOMAD
火を囲み、釣った魚と地元の食材で調理しながら、心と身体と魂を開放する高知の旅へ。旅のゲストは旅する料理人の三上奈緒さんと、釣り師の BUN ちゃんこと石川文菜さん。