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Kenji Boys
現代に継がれる「賢治的」スピリット

石川寛樹
「カムパネラ」代表

宮沢賢治は多様な学問、文化、自然の摂理に関心を抱き、これらに生涯、情熱とアイデアを注ぎ続けた。そんな創造性、精神性を現代に継ぐ岩手の男たち。彼らが紡ぐ、ユニークな暮らしと仕事の物語。

03/02/2022

ただひたすら、釣りを楽しむために

釣りが大好き。その一点で住処はもちろん、人生の方向まで決めてしまった石川さん。現在は、静かな川沿いの町、紫波町でフライロッドメーカー「カムパネラ」を営む。国内初、ブランクシャフトから丁寧に製造を行うロッドメーカーとして、支持者は多い。

「たとえばルアーで10投するところを、フライでは1回しか流せない。釣る魚の数というより、一匹連れたときの喜びを味わうのがフライフィッシングです。今、狙っている魚がどんな虫を食べるのか、そしてその場所にはどんな虫がいるのか、それがわかったら初めて毛鉤を用意して、その魚を釣れる可能性が出てくる。環境や、魚や虫の生態を理解したり、どんな毛鉤を用意しようかと考えるプロセスがまた楽しい。岩手には渓流がいくらでもありますからね。20年以上、この土地で釣りしてますけど、今でも釣りをしないと生きていけません」

20代のころ、ただ釣りをする場所を探し求めて行き着いたのが岩手の渓流。釣りをしたいという一心でこの土地に住むことを決めてしまい、当初は家もないので河原でのテント生活からスタートしたという。

「職安で酪農の仕事を紹介してもらったりしているうちに、古びた小屋を世話してくれる人が出てきたり、釣り仲間がどんどん増えてきたり。ただ釣りをしていただけなんですが、釣り竿メーカーをやろうと誘われて、それがこのカムパネラになっていった。まあ好きな釣りが続けられて幸せですよ」

これまでのいきさつは、聞けば聞くほど純粋で迷いがない。「好き」もここまで高じれば、多少の障害など駆逐してしまうのだろう。

「釣りも好きだけど、自分の思い描く釣り竿をかたちにしていくのは楽しい。ただひたすらそんなことばかりやっていたいと思います」

子どものころの気持ちを忘れずに、生涯、釣りを楽しんでほしいという気持ちから「カムパネラ」の名がついたと話す石川さん。その思いを自身で体現している店主が、ひたすら羨ましい。


石川寛樹
神奈川県生まれ。20代のときにフライフィッシングに没頭できる土地を探した末、岩手の渓流に出会い、移住。「カムパネラ」立ち上げに参画後、2010年に2代目社長に就任。