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Kenji Boys
現代に継がれる「賢治的」スピリット

早坂大輔
「BOOKNERD」店主

宮沢賢治は多様な学問、文化、自然の摂理に関心を抱き、これらに生涯、情熱とアイデアを注ぎ続けた。そんな創造性、精神性を現代に継ぐ岩手の男たち。彼らが紡ぐ、ユニークな暮らしと仕事の物語。

02/10/2022

盛岡の住民に潤いをもたらす場

かつては秋田や仙台で会社員として働いていた早坂さん。そんな生活のなかで心に湧いた疑問がどんどんと大きくなり、今から4年前に盛岡で起業。自身の書店「BOOKNERD」を立ち上げた。

「以前は長らく営業職だったんですが、好きだと思ってた仕事がじつはあまり好きじゃないのかもって次第に思うようになってしまったんです。それである日、俺の人生おかしいぞ、騙されて生きてるなって、確信に。書店をいずれはやってみたいと思っていたのもあって、じゃあ今すぐ始めてしまおうと」

選んだ場所は転勤生活時代に1年だけ住んだ盛岡。この場所が気に入った理由のひとつは街の程よいサイズ感だった。

「僕は音楽が大好きでここにはさまざまなジャンルの音楽を聞く場所が揃っているし、雰囲気のいい喫茶店も街中にある。なにより車社会ではなく、徒歩でブラブラできる街のサイズ感がいいんですよね。だけど僕にとって欠かせないユニークな書店が欠けていた。ならば自分でつくってしまおうと」

知識はゼロの状態から書店を興したものの、当初は自分の売りたい書物ばかりを並べたことで客足が鈍かったという。

「今から思えば、自分の意思を他人に押しつけるような感じだったんですよね。だから自分のフィルターで商品は選ぶんだけど、お客さんが本当に望むものは何かを真剣に考え始めて、徐々に書店として成立するようになっていった。賢治でいえばまさに『セロ弾きのゴーシュ』です。傲慢で硬直していた自分が訪れる人たちによってどんどん柔らかい思考になって、周囲が喜ぶことをやろうと思えるようになっていった」

一過性で終わらず、長く読み続けられる書物を店に並べ、誰かの人生にちょっとした気づきを提供する手伝いができればと話す早坂さん。自身の書店が、盛岡の住人に潤いをもたらす場として十分に機能していることに心底、喜びを感じる毎日だ。


早坂大輔
秋田県生まれ。書店「BOOKNERD」の経営をドメインに、著書『ぼくにはこれしかなかった』や、盛岡の歌人、くどうれいんのエッセイ集出版などを手掛ける。2作目の著作『いつも本ばかり読んでいるわけではないけれど』発売中。

text | Miguel Utsunomiya Photography | Shuhei Tonami