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Outdoors & Design 12

河島恵介

Velo Spica - カルチャーを紡いでいく

アウトドア愛好家でありデザイナーでもあるジェームス・ギブソンは、彼の2つの情熱である「アウトドアとデザイン」を融合させ、日本のさまざまなプロジェクト、アート、クリエイティブな活動やブランドに光を当てている。

05/10/2024

僕はずっとファッションが好きなんです。クラシックなデザインのものを、今っぽい素材を使って、アウトドアな切り口で作ることが多いです。



高尾山口駅を最初に訪れてから20年以上が経過していた。僕はこの駅の変わりように興味津々だった。高尾山口駅も変わったし、僕も変わった。今回僕は、山の頂上に登るわけではなく、河島恵介に会って、サイクリングキャップメーカー「Velo Spica」についていろいろと話を聞くために高尾を訪れた。

思い出の地である高尾山に恵介とともに登り、下山した後はクラフトビールを飲みながら、美味しい蕎麦を味わった。僕たちの話は尽きることはなかった…..。

僕と恵介はちょうど10歳年が離れているが、お互いにカウンターカルチャーに魅せられている点が共通項で、すぐに打ち解けることができた。美学があり、コミュニティーの感覚があるクリエイティブなカルチャーを僕たちは愛している。このカルチャーの根底になるのは、エネルギッシュなDIY精神で、あらゆるチャンスを最大限に生かそうという情熱だ。恵介は、「サイクリングキャップの可能性を追求する」ことを自分の仕事のコンセプトにしている。

東京でピストバイクのブームが起きたのは2006年だった。ピストバイクそのものはもちろん、バッグ、キャップなどのグッズも恵介には新鮮に映った。実は、それ以前から、彼は自分でカスタマイズした自転車で通勤していたくらい自転車好きだったのだ。この時期に恵介は、古着屋でサンフランシコに拠点を置くChuey Brandが作っているキャップを手に入れている。DIYテイスト溢れるスタイルと当時のサイクルメッセンジャーのカルチャーに触発された恵介は、生まれて初めてミシンを買った。裁縫の経験がなかった彼は直感的に古着屋で購入したキャップをバラして、パーツごとに自分で縫い始めた。それからは、よくある流れで、友達のためにキャップを作るようになり、さらに友達の友達にも輪が広がり、その内に街のサイクルショップで彼のキャップが売られるようになった。

新世代のサイクリングショップからオーダーが入るようになり、恵介のデザイン力と縫製技術にますます磨きがかかった。鳩目など、彼のミシンの技術が追いつかなかった部分は、ベテランの職人に助けを求めると快く力を貸してもらい、彼らからコツや技術を学ぶことで成長できた。

こんな感じで、「Velo Spica」はメーカーとして確立されていった。Véloは、フランス語で自転車のこと、Spicaは、乙女座で最も明るい星の名称だ。この名称の語源はラテン語、ギリシャ語で、穀物の穂を意味する。ちなみに、日本語では稲の恵みという意味だ。「なんか尖った感じがして、ブランド名にすると面白そうだなと思って….」と恵介。

そこから数年経ち、今でも恵介はいろいろなブランドアーティスト企業とコラボしながら、キャップを作っている。サイクリング向けのキャップということをコンセプトにしているが、恵介はハイキングをすることも好きで、最近はフライフィッシングなどにもハマっているので、彼のキャップはさまざまなシーンで活用できるようにできている。 とは言え、彼のデザインするすべてのキャップには、サイクリングキャップ特有の跳ね上がったひさしがシグネチャーのように付けられている。

PAPERSKY × Velo Spica “Tour de Nippon Official Jetcap”

昔ながらの業界の風習と若者の間にあった溝を埋めながら、彼はさまざまな世代、そして、関心分野からインスピレーションを得てデザインをしている。どんな時でも、ユーモアの感覚をデザインに落とし込みながら、楽しみながら仕事に向き合っているに見える。キャップのデザインや、短編映画を見ると、恵介は自分の働き方を気に入っているようだ。写真家の友人であるスギサキさんと一緒に、彼らの住んでいる長房町から命名したLONGBUNCHをいうプロジェクトを発足し、動画作品を製作している。

「あまり無理に自転車に寄せることはなく、日常の遊びの部分をリアリスティックに撮りたかったんです。日常の些細なことを楽しみに変えるシーンを捉えた作品を作っています。僕たちは視聴者に何か印象付けるものを撮りたいのであって、プロモーションという概念はないです」

僕は恵介の製作プロセスとインスピレーションについてもっと知りたかったので、次の日にもう一度会って、ハイキングを共にすることにした。高尾山に登るのは数年ぶりだ。あの時は、老人の登山グループを見つけて、彼らのルートならば一番楽に登れると思って、彼らの後をついていったのだった。今回は、恵介が稲荷山のコースを案内してくれた。

僕たちはハイキングをしながら、MTV、90年代のスケートボードシーン、アパレル業界に関連する環境問題などについて語り合った。河島さんによれば、日本国内では100万トン以上の服が廃棄され、その中には毎年生産され、その年に使用されることはなかったハギレや余り生地も含まれているという。そこで恵介は、LEFTOVERSというプロジェクトを立ち上げた。「何か、どこかのパンクバンドのような響きですよね」と恵介。ロゴのデザインもDIYのパンクな雰囲気が感じられる。2020年12月の時点で、約3,000万以上の余り布地とハギレがバイシクルキャップにリサイクルされた。好みの未使用の布地を入手できた時は、少しずつだが、リサイクルしてキャップを作り続けている。

山を降りながら、僕たちは自然農法、パン作り、ルールを破ることについて語り合った。僕は恵介がルール・ブレーカーであるとは思わなかったが、2日間彼と付き合う内に、90年代初期のスケートボードカルチャーや、2000年代に入ってからのピストバイクのカルチャーにも共通するポジティブなDIY精神が宿っていることに気がついた。クリエイティビティとアクティビティが合わさると、これまで考えていたことを再考し、創出できるきっかけになる。その際に、ルールを破りたい願望に駆られる人がいるはずだ。これはルールを完全に無視するということではなくて、ほんの少しルールを曲げて、カルチャーをブレンドすることで、新しい方向性を見出すことだ。デザインに関していえば、クリエイティビティとカルチャー、そして、それらのシーンへのリスペクトと理解が最も重要な要素あると僕たちは合意した。



商品については、これまでなかったものを作りたいと思っています。プライベートでは、家族と過ごす時間を大切にしたいと思っています。


僕たちの会話は蕎麦屋の「蕎麦と杜々」に移ってからも続いた。蕎麦をすすり、野菜の天ぷらに舌鼓を打ち、TAKAO BEERのOH! MOUNTINで喉を潤しながら、僕たちはデザインプロセスやクリエイティブなインプットの重要性について話し合った。クリエイティブなアウトプットは、クリエイティブなインプットがもたらす結果なのだ。僕たちは、良いデザインというものは、デザインという概念の縛りからではなく、書籍、音楽、アート、自然、カルチャー、MTVのミュージックビデオ、人との対話、静かに瞑想することなどから、生まれてくるものではないかと考えている。

誰かが悪用したものをコピーするわけではなく、コンセプト、プロセス、そして、自分が目の前のカルチャーに対して体感していることをブレンドすることが大切なのだ。これらの要素が融合されることで、唯一無二のクリエイティビティが生まれる。チャンスを見つけて、ルールを曲げることがなければ、これまで見たことがなかったものを作り出すチャンスは少ないはずだ。

ならば、サイクリングキャップとフライフィッシングのキャップをミックスさせたらどうだろう?


ここ数年、目的地にたどり着くまでの楽しみを最大化することを考えていました。例えば、登山口まで自転車で走って、頂上まで自分の足で登る。それから、河岸まで自転車で移動して、火を起こしてコーヒーを淹れる。また自転車に乗って、川釣りをしたり、キャンプ場に行ったりとか…。


僕たちは、早く目的点にたどり着くことを過度に気にしているきらいがある。それは、電車で国境を越える時でも、クリエイティブなプロジェクトを完成させる際も同じだ。僕たちは、この先何をするか、そして、それによって得られるものは何かを常に考えている。高尾山の頂上に着くことは、僕たちの目的ではなく、それは1日で体験した様々な出来事の一つのことでしかない。大切なことは、慌てることなく、その行程に気を配り、感謝する気持ちを忘れないことだ。登山口までのサイクリング、ハイキング、おしゃべり、蕎麦、ビールなどを含めた、たくさんの要素が恵介のクリエイティブ・プロセスとなっている。

クリエイティビティの目的は、できるだけ多くの時間を費やすことだ。忘れてはいけないことは、クリエイティビティは単なるアウトプットではなく、インプットも含まれること。どちらも同等に重要だ。自分のアウトプットが誰かのインプットにもなり、クリエイティブのサイクルは永久に続いていくのだ。

次の日、僕は自分の車で石川県に戻る予定を変更し、自転車で多摩川を50キロ走って、東京に住む友達を訪ねた。夜寝るまで、パンを作ったり、おしゃべりしたり、楽しい時間を過ごした。翌朝、僕は冷たい向かい風に吹かれながら高尾に戻り、各々が冬の朝を楽しんでいる光景を眺めながら、恵介が成功について語っていた思いをじっくりと考えていた。

「僕にとって成功とは、金銭的にも時間にも縛られずに、自分のしたいことを、自分のやり方でできることです」

その通りだと思う…。


Learn more about Keisuke Kawashima and Velo Spica.

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