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Translating Design

芦沢啓治

建築とデザインの調和

芦沢啓治は文京区で建築設計事務所を経営している。彼の仕事は、マテリアルを重視した空間設計から、プロダクトデザインまで多岐にわたる。また、宮城県石巻で立ち上げた公共工房をきっかけにして作られた家具ブランド、石巻工房ではデザインの力でDIYの可能性を広げ続けている。

07/27/2021

建築家とデザイナーは、国境、文化、慣習を超えて、彼らの特性があらたな分野、可能性に寄与できる望みを託しながら、さまざまな分野で成功を収めている。プロダクトデザインと建築は、多様なアプローチができるというポイントで類似性のある仕事であり、スケール感、マテリアル、技術は作り手特有の「言語」により表現されるものと言っていいだろう。建築家であり、プロダクトデザイナーでもある芦沢啓治は、その2つの仕事の違いを独自の考えに落とし込み、調和させることで、素晴らしいデザインに具現化している。

父親が建築家だった影響で、大学で建築を専攻した芦沢だったが、彼は自らの事務所を開設する前にあえて回り道をした。大学卒業後に建築事務所で働いたのち、フランスの金属工芸作家であり、建築家でもあったジャン・プルーヴェの作品、そして、「作れないものはデザインするべきではない」という言葉にインスパイアされ、“鉄を使った新たな可能性を楽しく追求する” 家具制作会社 super robotに参加する。この回り道的な体験により、芦沢は原材料とその製作プロセス、素材の知見を高めるとともに、建築と工業デザインの関係性を学ぶことができた。

2005年に芦沢啓治建築設計事務所を設立した芦沢は、あるクライアントの住居設計をオーストラリアの著名な建築家、ピーター・スタッチベリー(彼も金属工芸を愛する建築家である)とともに担当する機会に恵まれた。このお互いの「デザイン言語」によるコミュニケーションをした経験は彼にとって刺激的な体験となり、スタッチベリーの遊びのある、彫刻的なアプローチには大いに関心を抱いた。この時の経験は、のちにデンマークで人気のデザイン事務所、Norm Architectsとのコラボレーション(日本の老舗家具メーカー、カリモクの新コレクション Karimoku Case Studyの立ち上げ)の成功につながることとなる。

プロダクトデザインや家具のデザインを手がける建築家は多いが、芦沢の建築事務所は包括的な空間設計を手がけるという意味で家具などのデザインも行なっている。彼は意匠と素材の関係性が根本的に異なることを早い時期から理解していたので、家具のデザインをするにあたって、新たな領域を学ぶ必要性を感じ、長期間にわたり勉強し、知識を蓄えた。Karimoku Case Studyは、スペースと家具の双方をデザインしたいという芦沢の願いから生まれたプロジェクトで、スペースと家具双方の関係性を同時進行で考えながら製作、設計がされている。

芦沢啓治が東日本大震災を受けて立ち上げたプロジェクト、石巻工房でも、空間づくりにおいて家具が重要な役割を果たしている。 当時、完成したばかりで地震と津波の被害を受けた、自身の石巻市でのプロジェクトの被災状況を視察した際、すぐには工事の手配が難しい状況の中、事業を再開しようと自らの手で建物の修復を行うレストランやショップのオーナーたちの強さと勤勉さに感銘を受けた芦沢は、建築家、そしてデザイナーとして被災した地域にどのように貢献できるかを考えた。

芦沢は、石巻にいる誰しもが家具を作るために使用することのできる公共工房を立ち上げた。この工房の立ち上げには、芦沢の力だけでなく、カナダ産レッドシダーを供給してくれた会社や日本財団のサポートとして大きな役割を果たした。工房にて、芦沢はワークショップを行い、地元の人たちが自ら家具をつくることによってこの町の未来の姿をもう一度思い描くことができるような工房として立ち上げた。石巻工房は、地元で大量に使用できる材木を利用して、釘ではなく、ビスを使って簡単に組み立てられて、野外でも使用できる家具を製作しており、今や国際的にも知名度が高いブランドとなった。現在はボランティアの公共工房は一旦休止して、家具ブランドとして運営し石巻のクリエイティブを残していく活動として続けている。

Ishinomaki Stool (Photo by Masaki Ogawa)

2020年、芦沢建築事務所は石巻にゲストハウスを併設したショールームをオープンした。ここは、工業・建築デザインの世界を融合し、さまざまなバックグランドを持つ新しい世代が互いに刺激を受けながら交流できる場を目指している。

芦沢は、建築・インテリア・プロダクトの領域にまたがって展開しているスタジオの仕事を的確に捉えてもらうことは簡単なことではないと感じている。彼の広範囲な仕事ばかりにフォーカスし、各々の関係性についてあまり理解していない人もいるようだ。彼のアイディアは、何かの欠如を感じた時、もしくは必要性を感じたことからスタートしており、多くの場合、スペース全体を包括的にデザインしたいという気持ちから生まれる。芦沢は、バランスのとれた、理想的な空間づくりを目指して、これまでの慣習に新たな息吹を吹き込んでいる稀有な建築家であり、デザイナーである。

9h ninehours HAKATA (Photo by Nacasa & Partners)
dotcom space Tokyo (Photo by Takumi Ota)
Kinuta Terrace (Photo by Jonas Bjerre Poulsen)
KUFUKU (Photo by Jonas Bjerre Poulsen)
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