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Outdoors & Design 16

Katsuo Trail Learning

道は曲がりくねっているから歩きたくなる

アウトドア愛好家でありデザイナーでもあるジェームス・ギブソンは、彼の2つの情熱である「アウトドアとデザイン」を融合させ、日本のさまざまなプロジェクト、アート、クリエイティブな活動やブランドに光を当てている。

08/01/2025


人間として、この世界を少しだけよくすること、そして、ポジティブな場所にすることが僕の仕事だと思っている。



少し前のコラムで、大雨でずぶ濡れになりながら、Katsuo Trailを歩いたことを書いた。最高のハイキング日和の晴天が続いた数日間後に、またしても雨が降った。何か見えない力が天候に影響を与えているのだろうか。

僕は再び焼津に向かった。今回はルーカスと一緒に歩き、話し、笑い、スピリチャルなひと時を過ごしながら、静岡についての知識を深め、仲間たち、そして、僕たち人間の理解を深めることが目的だ。

雨天だったが、前回の経験を踏まえて、僕たちは準備万端。ずぶ濡れになったのは、僕たちではなく、神秘的な森だった。歩くにつれて、次第に湿気が増し、時折、霧に覆われた木々の間から、キツツキが木をつつく音、熊鈴のチリン、チリンという音と雨が葉に落ちる音が重なって、楽曲の一片のように聞こえる。目を細めて、注意深く周りの音に耳を傾けてみると、森が奏でる音楽が聞こえてくる。

村雨の
霧もまだひぬ
まきの葉に
霧たちのぼる
秋の夕暮れ
 (1)

雨降りの涼しい日に、みんなとトレイルを歩いていると気持ちがいい。参加メンバー6人は多彩な顔ぶれ。サンフランシスコ、オークランド、シャーウッド、バンコクに加えて、地元、静岡からの参加者もいる。我々は小さな宿場町、岡部を起点に歩き出し、旧東海道の緩やかに曲がりくねった道を歩いた。

いつもながら、ルーカスは、完璧なガイド役を務めてくれて、江戸時代の長距離に及ぶ公道のシンプルで、遊び心あるデザインについて説明してくれる。「真っ直ぐではなく、緩やかに曲がった道を設計すると、どこまでも歩きたくなる魔法のような効果があるんだ」とルーカス。僕はこれまでそんなことを意識したことはなかったが、信憑性がある話だと思った。

歴史を感じさせる多くの建物や旧東海道のなんとも言えないムードも魅力的だが、この先の角に何があるのかと期待させるものがこの道にはある。我々は知らず知らずのうちに、再びトレイルを学習するモードに入っていた。

僕たちは、前回このトレイルを歩いたときに気になった問題を解決するために、このトレイルを3日間歩くことにしたのだった。歩く距離はトータルで、およそ60km。セクション2、3、8のルートが変更されたので、再度確認が必要だった。

ゆとり庵でおにぎりを買い、僕たちは静岡の山岳の奥深くまで向かった。道路、歩道、トレイルを歩きながら、茶畑の狭間の見過ごしていたセクションに分け入った。歩きながら、写真を撮り、メモを取った。明示が必要なセクションの特定、メンテナンスが必要な場所、標識を設置すべき箇所、気持ちよく休める休憩所の設定などなど…..。

メモを取っている間に、みんなで短歌を作ろうと盛り上がった。最近、ルーカスは著名な歌人、伊藤紺さんと四国遍路を歩いたとのこと。彼女の短歌に、僕たちはインスピレーションを受けた。 あまりうまくいかなかったが、5, 7, 5, 7, 7で短歌を作ることはすごく楽しくて、大笑いしながら歩きつつ、日本語混じりの英語の短歌を作った。I

くも、雲、おー!
雲、蜘蛛….雨
降る….なんか、なんか……日本酒
お米….おにぎり…….
カモシカ….!

笹川八十八石からハイキングコースから石谷山まで歩いて、そろそろおにぎりを食べる時間になった。収穫されたばかりの米だからなのか、はたまた、よりおいしくするための努力が重ねられているのか、おそらくその両方のおかげで、おにぎりは絶品だった。これまで食べたおにぎりでベストだったと言っても過言ではない。トレイル沿いの山々はそれほど標高が高くなかったが、湿度が高いせいで、体力的にきつかったので、ここで一休みできたのは嬉しかった。

この場所を含め、静岡県のたくさんの場所から富士山の絶景を拝めると聞いていた。そういう場所には標識が建てられてたり、ベンチが1、2基くらい用意されてたりする。しかし、前回と同様、今回も絶景を眺めるチャンスに恵まれなかった。そんなわけで、僕は手描きの不恰好な火山の絵の標識を何かの間違いで描かれたものとしてみなし、富士山は見えないものだと思い込むことにした。

奥山に
紅葉踏み分け
鳴く鹿の
声きく時ぞ
秋は悲しき
 (2)

この3日間、僕はトレイルを歩きながら、ゆったりとした時間を過ごし、ポジティブなバイブを受けつつ、関わる人たちからの親切な心遣いに感謝する毎日だった。ルーカスの勧めもあり、今回、僕はデジタル機器から少し距離を置くことにした。持ってきたデジタル機器は35mm のカメラ(Nikonos-V)だけだ。

この堅牢なカメラで、ここぞ!という場面でしか撮影していないので、写真の枚数はわずか72枚だった。ここぞ!という瞬間とはどういう時だろう? それは、体がうずいたりするような感覚を覚えたりする時であり、うまく表現できない瞬間だ。僕たちの語彙では到底伝えられない。強いていうなら、マジカルな一瞬だろうか。自分自身の声に耳を澄ませると、写真を撮らなければならないタイミングがわかる。

その時の気持の持ちようや、操作がうまくできないこともあるから、時にはそれがうまくいかない時もあるし、思い通りに撮れる時もある。でも、機器、光、時間などの物理的制約がある時は難しい。とは言え、何らかの理由で、撮影コンディションが万全ではない場合、往々にして、いい結果が得られる場合が多い。

驚きこそがすべての体験の肝となるものだ。僕にとって、それはデザインをする場面では、クリエイティブな喜びだ。想像不可能な自然の意外性に身を任せ、常にオープンなスタンスでいることが大切だ。工芸、アート、素晴らしいデザインと称されるものでは、クリエイティブなアイディアを完全に具現化することが求められる。

でも、僕がここで話しているのは、それとは一線を画するものだ。思索と感覚を活発に巡らせて、流れに身を任せながら学ぶことができるアートもあるのだ。抑制のない時間とプロセスを体験することで、これまで見たことのない結果が得られることもあるのだ。

デザインの学習、独習、トレイルの学習…..何か共通項があるような…。

2日間、僕たちは穏やかなトレイルに加えて、山々の奥地にある神社や愉快な手描きの標識を横目に見ながら、忘れ去られたような林道も歩いた。時には川根トレイルや東海自然歩道に寄り道しながら。サイクリストは道路や砂利道を走るが、ハイカーは昔からある山道に入っていく。

3日目には、素晴らしい家山駅から大井川鐵道の蒸気機関車に乗った後、宿場町の島田市を歩いた。日差しが照りつける中、旧東海道の石畳を歩き、どこまでも続いているような茶畑を見ながら、ようやく蓬莱橋に着き、抹茶のカップアイスとソフトクリームを食べた。

初日が一番長く感じられて、2日目は予期せぬハイペースの移動。3日目になると、いつまでも歩ける心持ちになっていた。Katsuo Trailを歩きおさめる前に、最後の望みをかけて、トライしてみると、やっと念願の富士山を拝めることができた。

田子の浦に
うち出てみれば
白妙の
富士の高嶺に
雪は降りつつ
 (3)

まさにこのイメージ通りの富士山だった。




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【引用】
1. 小倉百人一首 歌番号(87番) 寂蓮法師
2. 小倉百人一首 歌番号(5番) 猿丸大夫
3. 小倉百人一首 歌番号(4番) 山部赤人

カツオトレイル
サイクリストとハイカーのルートマップ 静岡県焼津市を起点に、静岡市、藤枝市、島田市を経て南アルプスの南端・川根本町を結ぶ、総距離200km・獲得標高6,300mの周回ルート。静岡ならではの多様な文化的・歴史的資源に触れることができるトレイル。