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Kochi Interview 03

上樫森 田波憲二

サトウキビの名産地、高知県黒潮町へ。
約200年前の伝統製法を手掛ける黒糖職人を訪ねて。

 

09/28/2021

サクサク、シュワー。軽い触感のあと、上品な甘みが口のなかに広がる。それでいて、後味はスッキリ。そのまま食べてもくどくなく、料理に使ってもいい仕事をしてくれる。黄金色の鉱物のようなその欠片は、高知県黒潮町で作られた「入野黒糖」だ。

輝くような海と太陽と川。自然の恵みをふんだんにたたえる高知県黒潮町。ここで200年前から続く伝統製法で作られているのが、この「入野黒糖」。サトウキビの栽培から、収獲、搾汁、そして釜炊き製糖までを生産者が一貫して行うという。そのなりわいはもしかすると、農家というより“黒糖職人”と表現するほうが近いかもしれない。

「サトウキビはそのままだと売れないので、加工までがひと括り。僕らは販売のところまでも自分たちでやっているから、農家っていう感じじゃないですね。サトウキビを育てるのも、育てたものを加工するのもひとつひとつが奥深いので、まったく飽きないです」。

そう語るのは、入野黒糖の生産・加工販売を行う「上樫森」の田波憲二さん。千葉県出身の田波さんは、15年前に高知県へ移住。もともとはサラリーマンをしていたが、自分らしい生き方を求め、奥さんと一緒に長野、宮城、沖縄へと居を移し、辿り着いたのがここ黒潮町だった。サトウキビとの出会いは沖縄にいた頃のことで、高知県でもサトウキビが作られていると聞き、訪れたのが移住のきっかけ。すっかり高知の風土が気に入った田波さんは、サトウキビ農家に弟子入りし、3年後に独立。「いい黒糖にするには、健康でいいサトウキビを作ることが一番」と、無農薬の有機栽培を追求。サトウキビの汁を搾ったカスはすべて畑へ戻すなど、「畑から持ち出すのは汁だけ」と“循環”にもこだわっている。

仕事のクライマックスは、12月に行われる釜炊き。手作業でサトウキビを刈り取りし、一本一本機械に通して搾汁を抽出したあと、大きな釜で汁を煮詰めていくのが釜炊きだ。約30組の生産者が所属しているという地域の黒糖組合で、いまや、釜炊きを担うのは田波さん含めて4人のみ。各々の搾汁が混ざらないよう、生産者別に釜を分け、4人でローテーションを組んで、夜通しの釜炊き作業を連日続ける。深夜12時に始まって終わるのが翌日の正午。大変な重労働だ。

「肥料のやり方、育て方、品種など、それぞれにこだわりがあって、みんな混ぜるのは絶対に嫌だって。だから、同じ地域のサトウキビでも、作り手によって味、色、口溶けが異なるのもおもしろい。僕が目指すのは、濃厚でパンチがあるけどスッと消えていくような味。出来たては少し酸味があるけれど、時間が経つと丸くなっていくんです」

黒糖ができる直前に釜からあげた蜜は、地元では「ボカ」と呼ばれ、古くから親しまれてきたという。「上樫森」では、そのボカ蜜を活用し、シロップや加工品も開発。自然の恵みと職人のこだわりが結実したその蜜は、甘くやさしく、どこまでもピュアな味わいがした。

上樫森
高知・黒潮町で黒糖やさとうきび蜜「ボカ」を作る黒糖屋。農薬・化学肥料を使わずに育てたサトウキビを用い、200年前から続く伝統的な釜炊き製法で黒糖作りを行う。
PAPERSKY no.64 | MODERN NOMAD
火を囲み、釣った魚と地元の食材で調理しながら、心と身体と魂を開放する高知の旅へ。旅のゲストは旅する料理人の三上奈緒さんと、釣り師の BUN ちゃんこと石川文菜さん。