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Jomon Fieldwork
賢者の欠片

津田直
vol.4

いまから遡ること2,500年から13,000年、日本の歴史がはじまるずっと前に、日本各地で繁栄した縄文文化。このシリーズでは、フォトグラファー津田直が独自のフィールドワークを通して、縄文の歴史を紐解く新しいピースを拾い集めます。第4回は、鹿児島県・国分を探索したエピソードです。

03/30/2021

9500年前の集落を火山灰が明かす

歴史を辿れば1~2万年前の氷河時代末期にはすでに現生人類(いま地球を歩いている人類)に近い特徴をもった新人が世界各地に姿を現すようになる。そんな彼らの中に日本では縄文人が誕生し、この列島を歩いていたのだ。そのはじまりとなった土地に立ちたいと考えていた矢先、現在見つかっている最も古い集落に類する9,500年前の住居跡が南九州に見つかっていると知り、鹿児島へ飛んだ。

鹿児島と言えば子どもの頃、隣に暮らしていた祖父がいつも座っていた椅子の後ろの壁に、もくもくと噴煙が立ち上る桜島の絵が掛かっていたのを思い出す。鹿児島中央駅について早々道端にも積もっている灰を見つけたが、最近は火山活動が比較的穏やかだそうだ。右手に海を眺めながら遺跡のある霧島市国分へ向かった。

鹿児島湾を望む標高250mのシラス台地(火山噴出物からなる)に先出の集落は見つかっており、海の向こう南方にはかつて島であったが現在は大隅半島と陸続きになっている桜島が浮かび、北を向けば火山群からなる霧島連山が見えている。そのなかには霊峰高千穂峰が聳えている。

太古から噴火を繰り返している活火山に囲まれた地に、なぜ人々は定住を始めたのだろうか。地図上にその一帯を見渡すとそんな疑問が湧いてくる。けれど、もし縄文人にとって火山の噴火活動や火柱に対する畏敬の念がすでに芽生えはじめ、「火」の存在が今日の僕達が想像する恐怖心や脅かす対象として、目に映るばかりではなかったとしたらどうだろうか。爆発的なエネルギーの源を生命力の現れと捉え、まるで早朝に真っ暗な海から陽が昇り、光線を届けてくれる瞬間に崇拝するような眼差しで眺める如く見届けていたとしたら…。

そんな想像を膨らませながら訪れた上野原遺跡では、ミノムシの巣を半分に切ったような復元住居が森に囲まれ点在していた。そこを歩けば食材を入手したであろう森林や水源が近くにあり、狩猟採集に加え漁労にいそしみ暮らしていた時代のことを目線で追うことができる。 

さらに近くには地層をそのまま見学することのできる施設があり、潜るように地下の建物に入って行った。ひんやりとした空気に包まれ、もぐらにでもなったような気分であったが、地層に近づくと色調や粒子の違った火山灰層を確認することができた。これが決め手となり集落が形成されていた年代を正確に識別できたというから面白い。

自然界には樹木の年輪のように、針を持たずとも時計としての役割を果たしてきたものがいくつかあるけれど、地層もまた万年の時を封印し、密やかに時を刻み続けてきた証となったのだ。そうして火山灰が集積してできた台地の最も高台からはおよそ7,500年前の壺形土器が完全な姿で出土している。並んだ二つの土器は口が丸と四角とそれぞれ異なった形をしている(鹿児島県立埋蔵文化財センター所蔵)。他にも貝殻で施されたのか、出土した土器の紋様を眺めていると東日本とは全く異なった独自の文化圏がこの地に広がっていたことが伝わってくる。

再び桜島を目前に拝める高台に立つと、「火の祭り」の起源が列島の南方でも礎を築き上げていった時期があったのではないだろうかと思えてならなかった。きっとそれは大地の霊魂を鎮める儀式と一体化し、人々は自ら熾こした炎を見上げ、天へと昇ってゆく煙に祈りを捧げながら、夜を明かしたことだろう。埋納された土器にはそんな一夜の謡物まで仕舞われていたのかもしれない。

<PAPERSKY no.40(2012)より>

津田直 × ルーカス B.B. 対談動画
2019年9月21日〜11月24日に長野県八ヶ岳美術館にて開催された津田直展覧会「湖の目と山の皿」会場で上映された、津田直とルーカス B.B.による縄文フィールドワークについての対談動画です。


津田直 Nao Tsuda
1976年神戸市生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然の関わりを翻訳し続けている写真家。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。主な作品集に『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『Elnias Forest』(handpicked)がある。
tsudanao.com