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Jomon Fieldwork
万年の記憶

津田直
vol.31

いまから遡ること2,500年から13,000年、日本の歴史がはじまるずっと前に、日本各地で繁栄した縄文文化。このシリーズでは、フォトグラファー津田直が独自のフィールドワークを通して、縄文の歴史を紐解く新しいピースを拾い集めます。

10/17/2025

石棒が作られた村で


9月下旬、大型の台風14号が九州から四国を通り列島をさらに北上しようとしていた。ニュースから、広島県廿日市市や山口県周南市などで24時間の降水量が観測史上最多を記録し、合わせて猛烈な風が吹き、6県8地点では最大瞬間風速が更新されたことが聞こえてくる。自然の脅威を目前にしながらも、僕がこうして落ち着いていられるのは、文明の利器を通じて台風の進路やいつどこにどの規模で到来するのかということを知っているからに他ならない。

しかし、いざ身一つで外に放り出されたらどうなるだろうか。たちまち立ち行かなくなり、物陰に隠れ、通過するまでは怯え過ごすことになるに違いない。人は決して太古の時代から数千年の時を経て強くなった訳ではなく、むしろ現代では半世紀前と比べてもサバイブ能力は貧弱になっている気がしている。こんな時、縄文の人々ならば、どう振る舞ったのだろう。翌日、台風が去ったばかりの道を車で走りながら、そんなことをぼんやりと考えていた。岐阜県飛騨の山々に囲まれた道を進み、神通川の大支流宮川の深いV字谷に差し掛かり、眼下を望むと今にも飲み込まれそうな濁流が目に飛び込んできた。久し振りに近づいてはならないと思わせる程の自然がすぐ隣にあった。

山深き宮川町まで来たのは、石棒作りの村が見つかっていて、近くには「飛騨みやがわ考古民俗館」という資料館があり、石棒を展示・収蔵しているからだ。待ち合わせた学芸員の三好さんに案内してもらうと、石棒の展示してあるケースの手前で足が止まった。そこには線刻の施された、石皿(宮川町牧戸出土)が立て掛けられていた。石が故に、重く固いはずなのに、ふっくらと丸みがあり、真中は柔らかな雪原を踏んだ後の窪みのようで、輪郭は浅く浮き上がって見えた。母型を象徴するような曲線に包まれた美しいフォルムだったので、しばらく見とれてしまった。

石皿の残像が消えないなか、収蔵庫では石棒をいくつか見させてもらい、館の周囲を歩いた。目と鼻の先には、山の麓に塩屋金清神社遺跡があり、土石流に埋もれていた千本を超える石棒や未成品が見つかっている。約3,500年前のものらしい。

坂道を川へ向かい下っていくと、島遺跡があり、ここではより大きな石棒(1m超え)も見つかっている。場所こそ近いがさらに遡ること千年、つまり約4,500年前に石棒作りが盛んだったようだ。谷川沿いの山中から塩屋石という凝灰岩が採れ、この岩石は柱のように縦に割れやすい性質から加工がしやすく、縄文の人々に好まれていたらしい。さらにお話を伺うと、石棒は使われた後、最後に捨てた(物送りされた)形跡まで見つかっているという。まるで岩石にも人間と同じく一生があるような話だった。

石棒といえば、これまでも各地にて目にしてきた。時には、大きな岩の割れ目に向けられた状態で見つかったり、炉に立てられていたり、石皿と共に見つかることもある。写真の石棒(堂ノ前遺跡出土)は幾つかに折れて見つかっているが、先端の二つは、それぞれが別の住居から出土している。その真意についてひもとくことはできないけれど、石棒は明らかに男根を模したと思われる造形が多いこともあり、人々が生き続けていくことの象徴的存在であったことだろう。彼らにとって命を燃やし、新しい命を授かることの意味は、命の灯りが今よりも短く細かったことを思うと、我々以上に暗闇に差し込む灯りとして眩しく映っていたかもしれない。川の側で成形され、水に磨かれた石棒を眺めながら、その尊さに触れた気がしたのだった。

<PAPERSKY no.67(2023)より>

家ノ下遺跡出土(掲載している遺物すべて飛騨みやがわ考古民俗館蔵)




津田直 × ルーカス B.B. 対談動画
2019年9月21日〜11月24日に長野県八ヶ岳美術館にて開催された津田直展覧会「湖の目と山の皿」会場で上映された、津田直とルーカス B.B.による縄文フィールドワークについての対談動画です。


津田直 Nao Tsuda
1976年、神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年より多数の展覧会を中心に活動。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。主な作品集に『漕』(主水書房)、『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『SAMELAND』(limArt)、『Elnias Forest』(handpicked)がある。2019年秋、9年間の縄文歩きを元に、八ヶ岳美術館にて個展「湖の目と山の皿」を開催した。
tsudanao.com

text & photography | Nao Tsuda