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Jomon Fieldwork
万年の記憶

津田直
vol.25

いまから遡ること2,500年から13,000年、日本の歴史がはじまるずっと前に、日本各地で繁栄した縄文文化。このシリーズでは、フォトグラファー津田直が独自のフィールドワークを通して、縄文の歴史を紐解く新しいピースを拾い集めます。

10/11/2023

岡本太郎の眼と縄文人


「からだじゅうがひっかきまわされるような気がしました。やがてなんともいえない快楽が血管の中をかけめぐり、モリモリ力があふれ、吹きおこるのを覚えたのです。たんに日本、そして民族にたいしてだけではなく、もっと根源的な、人間にたいする感動と信頼感、したしみさえひしひしと感じとる思いでした」これは、芸術家・岡本太郎が縄文土器と出会った際に綴った言葉だ。

太郎は翌年(1952年)には、美術雑誌『みづゑ』に「縄文土器論  –四次元との対話」を発表している。その内容は、考古学に精通する者に留まらず、日本の基層文化は、奈良や京都に遡ることができると考えてきた多くの人々にも大きな衝撃を与えた。だが、パートナーであった岡本敏子は後に『日本の伝統』岡本太郎著(光文社)の解説において、発表の際に太郎が撮影した写真があるにも関わらず、素人写真を載せる訳にはいかないと言われ、締切りのこともあり、納得がいかないまま原稿がプロの写真家が撮った写真とともに掲載されてしまったと明かしている。よほど悔いが残ったのであろう、その後、縄文土器論を収めた『日本の伝統』を出版した際には一部の写真を除き、自ら写し撮った写真を載せている。

今秋、川崎市岡本太郎美術館にて開催された「岡本太郎 縄文から現代へ」展の会場で壁に掛けられていた写真群は、太郎の眼の中に映った縄文とも言うべく、迫力に満ちたものであった。まさにレンズを通してスケッチしたかのように、印画紙上の隆線紋は、生き物のごとく渦巻き、昇り、ときに跳ね返り…その造形を捉えようとしている。と同時に僕の目は、1970年の大阪万博の際に築かれた、「太陽の塔」との繋がりを見てしまう。

例えば、僕が井戸尻考古館にて撮影した土偶(最下段画像:坂上遺跡出土、始祖女神像)と並べてみると、縄文の影響は明らかである。だが、それを単に模倣で片付けてはならない。太郎の中にある思想の泉は、もっと大きな目で世界を読み、迫ろうとしていたからだ。その証として「太陽の塔」には、三つの顔がある。頂部にある〈黄金の顔〉は未来、正面にある〈太陽の顔〉は現在、背面にある〈黒い太陽〉は過去をそれぞれ表していると言われている。人類の過去・現在・未来が一体となり輪廻しているという観念に我々を導くかのように、「太陽の塔」が今日も立っている。

もう一点、太郎の仕事と縄文の繋がりで注目しておきたいことは「なぜ、壊されなかったのか」という問題についてだ。ご存知の方も多いと思うが、遺跡等で見つかる土偶の多くは壊れていることから、その役割を終えたら壊される=あの世に送られる、と考えられてきた。ところが、なぜか稀に壊されずに見つかる土偶がある。では「太陽の塔」はどうであろうか。

本来は万博の閉幕とともに壊される計画であった。ところが幾度も延期を重ね、遂には保存という裁定が下った。その理由について、岡本太郎記念館館長の平野暁臣氏は、理屈ではなく、直感が壊しちゃダメだと囁いたのではないか、と語っている。僕はその言葉を思い出しながら、当初の目的を終え、時とともに「太陽の塔」は、日本人みんなのモノに成っていったのではないかと想像している。かつて縄文時代に集落の象徴としての土偶が存在していた可能性があるように、「太陽の塔」も特定の誰かが所有するものに留まらず、いつしか大衆のモノとして生きてきたのではないかと。

そんな思いを巡らせながら美術館を歩いていたら、一つの作品と遭遇した。タイトルに「縄文人」(1982年)とある。その容姿は、かつて太郎が1951年に発した言葉そのものが具現化されているようだった。

<PAPERSKY no.61(2019)より>




津田直 × ルーカス B.B. 対談動画
2019年9月21日〜11月24日に長野県八ヶ岳美術館にて開催された津田直展覧会「湖の目と山の皿」会場で上映された、津田直とルーカス B.B.による縄文フィールドワークについての対談動画です。


津田直 Nao Tsuda
1976年、神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年より多数の展覧会を中心に活動。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。主な作品集に『漕』(主水書房)、『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『SAMELAND』(limArt)、『Elnias Forest』(handpicked)がある。2019年秋、9年間の縄文歩きを元に、八ヶ岳美術館にて個展「湖の目と山の皿」を開催した。
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