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Jomon Fieldwork
賢者の欠片

津田直
vol.14

いまから遡ること2,500年から13,000年、日本の歴史がはじまるずっと前に、日本各地で繁栄した縄文文化。このシリーズでは、フォトグラファー津田直が独自のフィールドワークを通して、縄文の歴史を紐解く新しいピースを拾い集めます。第14回は、新潟県・長岡市を探索したエピソードです。

02/07/2022

造形の手触り、火炎土器を巡る

しっかりとした幹のような胴部から上へと隆線文を辿ってゆくと、エネルギーが外へと放出されるように、線はうねりながら昇ってゆく。そこにいわゆる縄目文様は見られない。分厚い上部の装飾は鶏の頭部のようでもあり、はたまた眺める角度を変えて土器を上からのぞき込めば、口縁部の造形は、勢いのあまり水面から飛び上がった魚と水しぶきのようにも映る。それは、遡上する鮭の姿をも思わせる。何とも謎多き土器を前に、僕はひとまず、現在つけられている火炎土器(火焰型土器と王冠型土器の総称)という名前を忘れてみようと思った。 

それは地図を持たずに、見知らぬ町を歩んでいるときに、意外と出会いやひらめきが浮かぶことが多いような、先入観をなくす一つの試み。そうすると土器と向き合ったときの驚きの一つ一つが、ありのまま波の如く押しよせてくる。現代人の解いた概念や知識といった物差しでは計ることのできない、モノが秘めている造形の手触りだけが集まってくるようだった。

僕が訪れたのは、新潟県長岡市にある馬高縄文館と史跡公園として保存されている馬高遺跡。(縄文中期、約5,500年前)。 近くには三十稲場遺跡(縄文後期、約4,500年前)もあり、ここは信濃川左岸の段丘上に位置している大規模集落跡である。そこから、出土した多くの遺物を収蔵している当館では、火焔型土器が壁一面を埋め尽くしている展示コーナーもあり圧巻だ。これだけの数が一堂に集められていると、初期型から新型までとでもいうのか、火炎土器の変遷を見ることができ、フォルムを通じて時の流れが頭に入ってくるので、訪ねた甲斐があった。

そして、語られることの少ない話かもしれないが、縄文時代という長い時間軸から見てみると、火炎土器が作られていたと思われているのは、わずか500年間くらいだと知った。しかも火炎土器の文化は、信濃川流域に集中し、それ程波及しなかったようなので、とにかく短い期間に限り作られた土器という特徴がある。

細かい造形にも目を向けてみると、一見複雑なように見えるのだが、案内して下さった教育委員会の新田さんによると、基本は上下に二分割され、S字やU字状の隆線文にもパターンがあり、わりと規制が強く見られるという。この時期の傾向としては、関東や北陸方面でも立体的な造形表現が盛んだったことも分かっており、ここ新潟でも周域から流れ込んでくる文化を吸収しながら、独自の展開が成されていったのではないかと想像が膨らんだ。さらに視野を広げ、火炎土器が作られていた時期の後について尋ねてみると、その後、火炎土器は忽然と姿を消し、再び縄目文様のついたすっきりとしたフォルムの土器になっていったようだ。

この一連の流れを見ていると、我々の生きる現代社会にも通じるものを感じた。どんな時代にも流行りと廃りというものがあるが、特にファッションやデザインは常々敏感に時代を象ってきたといっても過言ではないと思う。縄文といえども、モノには時代の流行りが映し込まれていたのかもしれない。そして火炎土器を眺めれば眺めるほど、考えてみたくなってくるのは、雪との関係性について。今でこそこの地域は日本海側特有の豪雪地帯で、一年の三分の一は降雪期間となっているけれども、縄文時代は今よりも温暖であったとはいえ雪がなかったわけではないだろう。そう思うと、雪とともにある生活と知恵の先に、「炎」はどのような印象を与えていたのか知りたくなってくる。新潟を再訪する日には、雪の中で炎をじっくり眺めながら、もう一度火炎土器と向き合いたい。

<PAPERSKY no.50(2016)より>

津田直 × ルーカス B.B. 対談動画
2019年9月21日〜11月24日に長野県八ヶ岳美術館にて開催された津田直展覧会「湖の目と山の皿」会場で上映された、津田直とルーカス B.B.による縄文フィールドワークについての対談動画です。


津田直 Nao Tsuda
1976年神戸市生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然の関わりを翻訳し続けている写真家。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。主な作品集に『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『Elnias Forest』(handpicked)がある。
tsudanao.com