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イラストレーター

ジェリー鵜飼

人生のバックパックに入れるもの

 

02/06/2023

イラストレーター&アートディレクターのジェリー鵜飼さんが、ウルトラ・ライト(UL)の世界に足を踏み入れたのは今から15年ほど前。当時のUL人口は、日本中を探してもおそらく数十人程度がせいぜいで、日本のアウトドアシーンにおいてULがまだ黎明期だった時代だ。ULといえば、必要最小限まで荷物を削ぎ落とし、体力の消耗を抑えながら、より軽く、遠くを目指す登山スタイルのこと。30代後半から本格的にアウトドアに親しむようになったというジェリーさんは、なにより「削ぎ落とす」というULの思想に惹かれたという。

「もともと大学生の時から、すごくミニマルな暮らしをしてたの。テレビも家具もなくて、トランクに全部詰め込んでいつでも引っ越せるみたいな。たぶん病気なんだと思うけど、ものがいっぱいあると管理できなくなってパニックになるし、なくしちゃうし。そういう自分の性格も知ってたから、部屋も空っぽにしてて。足りないぐらいがちょうどいいっていつも思ってた。そういう自分の生き方にULがすごく近い気がして。これだったら、俺、得意かもって」

「山と道」の夏目彰さん、「ハイカーズ・デポ」の土屋智哉さん、アウトドアクラフトマンのジャッキー・ボーイ・スリムこと、尾崎光輝さんなどなど…。いまやアウトドア界隈では知らない人はいないような、錚々たる仲間たちと切磋琢磨をしながら、あらゆるULハイクを経験。40代をULやアウトドアに捧げたが、今は「軽量」だけにこだわらない、自分流のULを楽しんでいるという。

「最初の頃は、とにかく軽くしようとやっていたんだけど、ある時、なんか違うなって。毎年、色々なメーカーからモデルチェンジが出て、旧モデルより50g軽くなったものをみんなが買う。そういうゲームに乗せられるのも嫌だなと感じてたし。50gなら体力でカバーすればいいじゃんって。今の僕は、軽くはするけどお気に入りのものは持っていきたい、というスタンス。例えば、全部カリッカリに削ったのに、水筒は昔のフランスのいっちゃん重いやつを持っていくとか。みんながタグとか余分なストラップとかも切ってってやってるなか、僕はワッペンをベタベタはるとかね。なんかね、自分が子供の時に見ていた山男の佇まいってかっこいいのよ。今のアウトドアは化学繊維が主流だけど、昔の映画監督みたいなさ、チノパンにネルシャツにセーター着て、ハンチングかぶって。理にはかなってないけど、気持ちいいのはわかるんだよね。自分の好きな服を着て、山に行ってるっていうのがさ。だから、ULのカリッカリのバックパックを背負ってるんだけど、古いセーターを着てるみたいな、今はそういう提案もいいかもって思ってる」

50歳を迎えた今、ULとはあらためて人生観なのだとジェリーさんは語る。人生のバックパックに何を入れるべきか。それを真剣に考えて、厳格に取捨選択してこそ、人生は彩り豊かになっていく。

「いるのか、いらないのか。山の荷物をひとつずつ、よく自分自身に聞き直して全体的に軽くしていこうっていうのがULだけど、つまるところ哲学、人生観なんだよね。好きなことだけをして生きていきたい。最近つくづくそう思っていて。描いた絵を売って、お金がかからないミニマルな暮らしをして、遊びながら余生を過ごしたい。その準備のために、仕事は依頼しないでねと、SNSでもちょこちょこ発信してきて。断るのは心苦しいしさ」

ここにきて、ジェリーさんのバックパックに新たに加わったのが釣りだ。釣り竿片手に静岡県を巡った10日間の旅を通し(PAPERSKY 67号 SHIZUOKA ISSUE)、奥深き釣りの魅力に目覚めた。

「釣りってやっぱりいいなって思うと同時に、釣れなかったのがすげー悔しくて。やっぱり釣りたいし、一からやり直したいな、みたいな感じでコソ練してます(笑)。釣りはね、歳をとってもできる遊びだから。釣りとか登山は、ただで入れるフィールドが日本全国、世界中にたくさんあるでしょ。行くか行かないかも自分で決めるんだけど、そこで何を楽しむかはその人次第で、無限大のテーマがある。そういう楽しみ方がまだ人生の後半に残ってると思うと、歳とるのも楽しみだって思うんだよね」

ジェリー鵜飼
1971年生まれ。静岡県三島市出身。イラストレーター、アートディレクター。ジャッキー・ボーイ・スリムこと、尾崎光輝さんと、イラストレーターのジュン オソンさんとともに「MPB(マウンテン・プア・ボーイズ)」としても活動。スタイリストの石川顕、アーティストの神山隆二とともに「ULTRA HEAVY」としてアート活動も行う。ジェリーマルケスの本を発表するなど、近年は、執筆活動でも注目されている。

PAPERSKY no.67 | SHIZUOKA|FISH&
「釣り」と「魚」 をキーワードに、静岡の海・山・川をめぐる旅へ。旅のゲストは静岡出身のイラストレーター・ジェリー鵜飼さんとアウトドアギアクラフトマンのジャッキー・ボーイ・スリムこと尾崎光輝さん。