Japanese Fika

いとうせいこうと
東西が融合した新・茶会 

vol.2 スノーピーク代表 山井梨沙

“Fika”とはスウェーデンの習慣で、家族や友人、職場の同僚とおやつをつまみながらコーヒーやお茶を飲むブレイクタイムのこと。いとうせいこうさんが亭主になって、お茶とお菓子とお花で客人を迎える「Japanese Fika」。今回の客人は、日本を代表するアウトドアメーカー「スノーピーク」の三代目社長の山井梨沙さんです。山井さん愛用のストーブでお茶を入れました。

02/18/2021



のんびりしながらあれこれ話せました。
これ、お酒だともう少し時間かかるよね。お茶って「速い」ですね。

ーいとうせいこう




詫び寂びの精神は、ミニマルだけどかっこいい

せいこう:普通、畳の上でこれ(スノーピークの「ヤエンストーブ」)は使わないですよね。

山井:室内で使ったこと、ないです。

せいこう:でも、すごく似合う。もともとお茶ってこんな感じじゃない? なるべく削るっていうミニマルな文化だから。

山井:昔の茶道家は箱に道具を入れて、バックパッカーみたいに担いでいたそうです。

せいこう:そうそう、どこでもお茶を点てられないとダメなんだ。侘び寂びの侘びは「これしかなくてごめんなさい」っていう精神で、何にもないんだけどって言って出すものがミニマルだけどかっこいい。スノーピークのストーブはそんな感じがする。

山井:25年くらい前に開発した「ギガパワーストーブ」が、当時、世界最小かつ最軽量でバックパッキング用のスタンダードになったんです。

せいこう:明らかな美意識があるよね。デザインはSF的な感じもするけど、小さくしていった結果、自然とこうなったのかな。

山井:そうですね。たとえばゴトクの数も3本のものもありますけど、より安定させるために4本になっています。

せいこう:今使っているヤエンストーブも軽いけど、かといって不安になる重さじゃない。

山井:火を囲むのは、いいですよね。去年、人類学者の石倉敏明さんのところに、なぜ人は火を囲むのかを訊きにいったんです。火を使えるようになったおかげで、胃に消化の負担がかからなくなって脳が発達したそうです。そういう進化過程においてももちろんですが、暖をとったり煮炊きをしてたり、人間の営みにおいても火は大事なものですよね。

せいこう:全然変わっちゃったんだもんね。

山井:火があったから知恵がついたんでしょうが、でもだから現代がカオスみたいになっているのかもしれない。

人類全体がステイしたほうがいい

せいこう:社長業のほうはどうですか。

山井:3月末に父と交代しました。コロナが本格的に来ていたので、経営的には4月、5月は悲惨な状態でした。私は経営の勉強をしたことはないんです。なので数字よりも人としての違和感を会社の運営に反映させていく「直感経営」というか「野生経営」が自分のスタイルだと思っていたんですが、そうも考えていられなくて。でも6月くらいから社会全体に、一度基本に戻ろうみたいな機運が高まっていって、自然に関わる大切さも無意識的に見直されていったように感じます。今はキャンプ人気がすごい。

せいこう:僕は、今回のコロナによるステイはすごく重要なステイなんだから、人類全体がステイしたほうがいいって思ってる。「とどまる精神」を覚えたほうがいい。なのにすごく無理なことをして元に戻そうっていう人たちもいて、今は「分かれ目感」が激しい。

山井:やっぱり押し進めようっていう人も。

せいこう:そもそも細菌が出てきたのには、人がいろいろなところに行って、どんどん移動したから。そういうことをやめて、各々のところにステイしながら地球をつくっていく気持ちになれるかっていう課題が出ているのに、それを無視している人たちがいる。

山井:私、今年は大殺界の後厄なんです。

せいこう:やるね!!! 尊敬している批評家の柄谷行人さんが、僕が厄年のときに、「厄年は必ずしも悪いことが起こるっていう意味じゃない」って教えてくれた。人間が人生を生きていくうえで人生は取り返しがつかないというのを痛感するってことで、それがいいことか悪いことかは関係ないって。

山井:受け入れる勇気も大事ですよね。

せいこう:自分がなんとかしなきゃとか、自分の努力が足りないからこうなんじゃないかとか、人は思いがち。だけど世界は自分とは無関係に動いているから。僕は今、必要なのは「ステイもいいじゃない」と言ってあげることだと思っているんだけど、スノーピークとしてはどうすればいいと考えていますか?

山井:いちアウトドアメーカーにすぎないんですが、企業としてずっと目指してきたのは現代の文明社会における人間性の回復です。

せいこう:すばらしいね。

山井:自分たちがお客さんに提供している本質的な価値っていうのは、道具づくりを通じて自然のなかで豊かに時間を過ごしてもらうこと。キャンプは、自分で寝床をつくって、火を起こして、煮炊きをして、家族を呼んで食べるっていう原始的で根源的な生活の営みのそのものなんです。都市生活ではコミュニティ内で助け合うのは難しくなってますけど、キャンプだとつくりすぎたカレーをお隣におすそ分けするとか、普通にできる。本来あるべきコミュニケーションの取り方をキャンプを通じて体感してもらうのが私たちの使命です。

せいこう:都会だと子どもに「こんにちは」って声をかけても、知らない大人と話しちゃいけないって教えられているから「こんにちは」って返ってこない。この子の20年後、社会はどうなっちゃうんだろうって危惧していたんだけど、山井さんと話していて解決策が見つかった。キャンプなら、子どもも返事ができるんだよね。その安心感って、すごく大事なことだと思う。そういう本来的な場所をつくればいいんだってわかった。

山井:それが普通だったのに、今は非現実と現実が入れ替わっちゃっていますよね。

「あつもり」の現実版。生きる糧になる村をつくりたい

せいこう:これから何をやってみたいの?

山井:村をつくりたいなと思ってます。

せいこう:いいね!

山井:先ほどのステイが大事というのと同じように、コロナで進みすぎた分、私も後退したいっていうのがあります。だから、生きる糧になるテーマパークというか、生きるためのコミュニティを形成したいんです。

せいこう:「あつもり」の現実版ということ? お米は君で野菜は彼ね、それでお祭りはみんな一緒にやろう、みたいな。

山井:そうです。農家や大工、医師とかそれぞれの役割で「生きる」が成立する村です。

せいこう:最近、日本各地に自分のとこの豊かさに目覚めている村が出てきて、僕は「ソン」って呼んでいるんだけど、ソンとソンを物々交換でつないだらいいって提案しています。みかんの産地とイワシが獲れる漁村があって、みかんとイワシを物々交換する。そういうソンが5つ6つ集まって、そこに山井さんのソンも入るのはどう? 自分たちだけで自立しようとすると大変なストレスがかかるから、責任を分け合えばいいんだよ。

山井:競争社会だと機密情報は外に出さないとかありましたけど、もうみんなでよくしていかないとどうにもならないですよね。 

せいこう:マルクスを研究している斎藤幸平くんが、社会は脱成長しないとダメで、コモンの力を強くする必要があるって、すごくいい主張をしていてね。林があるならみんなの共有林にする、海なら共有海にする。これは山井さんが考えていることに近い。

山井:共生していくしかないですよね。

せいこう:今日のお茶を栽培しているOTOさんも、東京から熊本の山にこもっちゃった。環境問題にすごく危機感があって、少しでも負荷をかけない暮らしやものづくりをして、そのおいしさがわかる人を増やしたいって。すごいギタリストなんだけど、ギターより大事だって言ってさ。彼はいつもプンプン怒っているけど、なんか元気そうなんだ。

山井:喜怒哀楽がきちんと出せるのって、すごく人間らしいことだと思いますね。

Japanese Fika Table

Tea | 紅茶、自然緑茶(アンナプルナ農園)
いとうさんとって音楽の先輩であるギタリストのOTOさんの家族が営む農園で農薬を使わずに栽培されたお茶。緑茶はえぐみがなく、お茶が苦手な人でも飲めるやさしい味わい。

Sweets | TABIーMONAKA
移動中でも片手でさくっと食べられるミニ最中は、文具メーカーのHIGHTIDEと福岡県の和菓子店「のせ」のコラボ。定番の粒あんのほか、レモンミント、モカの3味入り。

Flower | 山井さんのエネルギーに合わせて
ユーカリの実、ガムナッツとシックな色合いのシンビジウムを組み合わせて、力強さや土っぽさを表現。花器は陶芸家の田中啓一さんのもの

スノーピーク代表取締役社長 山井梨沙 
1987年、新潟県生まれ。祖父は同社創業者の山井幸雄、父は代表取締役会長の山井太。文化ファッション大学院大学卒。大学では洋服文化を専攻し、卒業後はドメスティックブランドで1年ほど勤務。2012年にスノーピークに入社し、アパレル事業を立ち上げた。その後同事業本部長、企画開発本部長、代表取締役副社長を経て、2020年3月より現職。『FIELDWORK ─野生と共生─』(マガジンハウス)を上梓した。


いとうせいこう
1961年、東京都生まれ。作家、クリエイターとして、活字・映像・舞台・音楽・ウェブなどあらゆるジャンルにわたる幅広い表現活動をおこなっている。近著に『自由というサプリ 続・ラブという薬』(星野概念との共著、リトル・モア)がある。