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Japanese Fika

いとうせいこうと
東西が融合した新・茶会

vol.12 アーティスト 栗田宏一

いとうせいこうさんが亭主となって客人を招くJapanese Fika。今回のゲストは、アーティストの栗田宏一さん。日本全国をくまなく旅して集めた各地の土を整然と並べたインスタレーションを通じて、日本の自然の美しさと多様性を伝えてきました。グレイ、ベージュ、水色、ピンク……絵の具で染めたような鮮やかな土の色はどのように集められたのでしょうか。ちょっと不思議な土の話が始まります。

03/04/2026


栗田さんこそが土のように素朴にもきらめいても見える人でした。たくさんの経験をゆっくりと沈ませて変化してきた人の柔らかな重みが言葉にあらわれていて。そうくれば、なるべく多くの色を見たくなる!

ーいとうせいこう



いとう:今日は栗田さんをお招きするので、ずばり「土」という和菓子にしました。火山灰の珪藻土を練り込んでいるそうです。

栗田:確かに後味に少し珪藻土っぽさもありますね。おいしいな。もともと人類は土を食べていたという話もありますよね。

いとう:土をそのまま?

栗田:粘土質の土を食べると、体内の悪いものに吸着して排出されることから、今も胃腸薬に鉱物由来の生薬が使われていたりとか。アフリカには土を食べる習慣もあるそうです。

いとう:なぜ土を食べ始めたんでしょうね。

栗田:僕の想像では、最初はなんでも食べてみたのかなと思います。飢えというよりは好奇心から。それでダメなものはやめて、その繰り返しでいいものが残ってきた。

いとう:偶然か、経験知の積み重ねか、そういうものが層状になって文化を生み出してきたんでしょうね。うん、土の話っぽくなってきた。土って、何種類ぐらいあるんですか。

栗田:本の知識ですが、土には水素とか窒素とか92種類の元素が入っていて、その割合で色に違いが生まれます。他にも、太陽や雨にどのくらい当たっているかとか、塩分がどのくらい含まれているかとか、そういうことでも色が変わるそうです。

いとう:きれいな水色やピンクだったり、真っ黒だったりみごとな色の違いですよね。そもそも栗田さんはどうして土の道に?

栗田:もとは文化人類学みたいなことをやりたいと思っていて、20代のころはアジア各地を旅していました。旅先でいろいろな国のバックパッカーたちと話していると、僕は日本のことを何も知らないなと痛感して、それで日本を見直そうと、仏教や神道から勉強を始めたんです。でももっとベーシックなところを知らないといけないと気づいて、たとえば石ころも葉っぱも、同じ場所にあってもひとつひとつ形や色が違いますよね。それで、もしやと思って土も見てみたら、全然違ったんです。もしやと思って、川向こうの隣町から土を持ってきてみたら、色や触感が違いました。もしやと思って、100種類ぐらい集めてみると、やっぱり全部違う。そうして1,000種類までいったあたりで、自分がやりたかったことはこれかもしれないと思ったんです。その土地の食べ物や住んでいる人たちの顔、着るものや家の形、そういうものが全部凝縮されているのが、そこの土じゃないかなと。土の視点から日本を見直してみることにしました。

いとう:「土」民俗学だ。

栗田:そう言えますね。さらに1万種ほど貯まってくると、やっぱり人に見せたいわけです。その方法を考えるなかで美術に行き着きました。

いとう:すごいな。そこに飛びましたか。

栗田:アートには言葉がいらない。子どもでも大人でも見れば感じられて、敷居がない。それでアートという手法を利用して、自分たちがいかに足元を見てないかを突きつけられるんじゃないかと考えたんです。展覧会などで少しずつ見せ始めると、今度は「秋田の土はありますか」とか「宮崎の土はどれですか」とか聞かれて。ないって言うのは悔しい。だから日本人全員の生まれた土地の土があるようにしたくて、誰に頼まれたわけでもなく、全市町村の土を集めることにしました。

いとう:おおー! やりましたね。

栗田:25年ぐらいかけて3,233市町村をすべてまわって、4万種類ぐらい集めました。でも、作品によっては地名も出さずに土だけをポンと並べたりしますけど。アートって作家からのクイズみたいなもの。だからあんまり説明すると、すぐ答えがわかったみたいな……。

いとう:気になられちゃうと。

栗田:なので、確信犯的にぶっきらぼうに出します。それが結果的によかったようです。

いとう:だって、理屈じゃないですよね。

栗田:男性からはどこの第何層の土なのかって、質問攻めにされたりします。ただ、僕の仕事のファンは9割が女性と子どもなんです。日本でもフランスでも。彼らは直感的で、僕が説明しようとするとやめてって拒みます。

いとう:すばらしいなあ。土って死んでいるように見えても、中にはたくさんの微生物が生きていて、びっくりするほど変化が起きている。それが僕らには見えないっていうところもいい。微生物のほうからも説明はないわけだから、変化を想像してわくわくできます。

栗田:採集のときはビニール袋に土を入れて持ち帰ってくるんですが、そのまま置いておくと腐っちゃう。ミミズが死んだりとか。なのですぐ新聞紙に出して、乾燥させます。そうすると、拾ってきたときには見えなかった色が出てくるんです。自然状態だと土が乾燥していることはあまりなくて、ほぼ湿っている。だから人間の目では水分の反射で、みんな茶色に見えたりしてしまいます。

いとう:今まで人類が見えていなかった土の色を見せているっていうことですか。

栗田:そうですね。乾燥させた後は、そのなかから葉っぱや小石を取り出してふるいにかけます。ものすごく楽しい作業なんですが、そうするとまた色が変わってきます。

いとう:土を裸にしちゃうんですね。以前、左官の挟土秀平さんに5種類ぐらいの土を見せてもらったことがあって、そのときも見たことのない土の色ばかりで、思わず絵の具ですかって聞いてしまいました。

栗田:絵の具も基本的には土ですしね。ラスコーに行ってその周辺で土を採取すると、壁画と同じ色の土が見つかるんですよ。

いとう:そんなふうに世界中で採集していったら楽しさにきりがないですね。

栗田:日本の全市町村を制覇して、フランスもほぼ全県をまわったんですけど、そうなるとやっぱり世界に行きたくなる。計算すると、あと200年ぐらいかかるんですけど(笑)。

いとう:見せ方を考えるより集めたい派?

栗田:やっぱり才能ってあるもので、僕は拾ってくる才能はありますが……。もう目がキノコ目ならぬ「土目」になってるんです。あそこの土がピンクでこっちが黄色、だったらこの間にオレンジがあるはずって見えるんです。

いとう:すごいなあ。それにしても4万種類もの土はどこに保管しているんですか?

栗田:家の庭に物置を2棟建ててつめ込んでます。ビニール袋に入れて、誰でもわかるように土の地名を記入しています。未来の子どもたちに残せるように、土のライブラリをつくることが僕の最後の仕事ですね。

いとう:残す場所があってほしい。

栗田:僕は仏語の「L’Arc-en-ciel(=虹)」にかけて、土の中にも虹があるという意味で、「L’Arc-en-terre」(「terre」=土)ってアピールしてます。

いとう:土の虹は日本の宝になりますよ。

Japanese Fika Table

Tea:つきまさの自然製法茶「ちんがりまんがり」「会」
農薬も化学肥料も使わずに育てた茶葉100%で仕上げた緑茶。「ちんがりまんがり」とは静岡県島田市の方言で「曲がりくねった道」という意味。その名のとおり、茶葉は曲がりくねった個性的な形をしている。高温でさっと気軽に淹れられるのも魅力。パッケージには、故・安西水丸さんのイラストが添えられている。

Sweets:餅匠しづくの「土」「花」
「お菓子で百薬の長を目指す」ことを掲げ、自然農法、無農薬栽培の素材を使うなど、健やかな身体に導くお菓子づくりを徹底している。「土」は小豆あんにつなぎの大和芋のほか、珪藻土や麻炭を練り込み、「花」はお餅のまわりにごまをびっしりとまぶす。おいしさの中にも「薬になる」というお店のモットーが感じられる素材合わせに。

Flowers:土のにおいが心地いい風景
ケイトウの仲間のセロシアに、パニカムの組み合わせ。パニカムのイネ科らしい柔らかな草姿からはどこかなつかしい日本の原風景が思い起こされる。土器を花器に見立てて。

アーティスト/栗田宏一
1962年、 山梨県生まれ。日本の土の色合いの多様性に着目し、土の採集を始める。全3,233市町村(平成の大合併以前)を終え、現在はフランスを中心に世界各地を訪ねて土を集めている。作品は東京都現代美術館や越後妻有里山現代美術館などに収蔵され、フランスでも新しいプロジェクトが進行中。著書に『土のコレクション』(フレーベル館)がある。


いとうせいこう
1961年、東京都生まれ。作家、クリエイターとして、活字・映像・舞台・音楽・ウェブなどあらゆるジャンルにわたる幅広い表現活動をおこなっている。近著に 「われらの牧野富太郎!」「今すぐ知りたい日本の電力 明日はこっちだ」などがある。

text | Bunshu photography | Hao Moda Flower | Chieko Ueno (Forager)