ーー日本の工芸品に興味を持ったきっかけは?
大熊健郎(以下大熊): インテリアや家具の仕事を長くしていたのですが、その頃は海外にばかり目が向いていました。家具屋にいながら本も扱うようになり、『少年民藝館』という本を知ったのがきっかけで、民芸や工芸の世界に惹かれるように。景気がよくなりつつあった時代で、加速するデザインコンシャスな志向にやや疲れたところがあったのかもしれません。日本の民芸や工芸を見直して、いいものをピックアップしていきたいと思い、12年前にCLASKA Gallery & Shop “DO”を始めました。

ルーカス B.B.(以下ルーカス): 僕は1993年に日本に来たんですけど、大熊さんの言う通り、日本には工芸に限らず素敵なものがいっぱいあるのに、多くの人は海外のものばかり見ているという印象を受けました。外国人が抱く日本のイメージも、本当にまだサムライと寿司と芸者くらいだったので、海外の人も日本人も日本のカルチャーをもっと知ったら絶対に盛り上がると思って、96年に『TOKION』という雑誌を創刊しました。アメリカの場合、ネイティブアメリカンが伝統的なものを作っていたりするけど、白人の歴史は浅いからそれほど多くない。その点、日本は地方へ行くたびに、長い歴史のある工芸と出会えるのが面白くて。それぞれの土地を知る目的のひとつとして、工芸を取材するようになりました。

大熊: 工芸は土地の風土がおのずと反映されるものですし、日本は特に四季がはっきりしていることもあって、よりローカル色が出やすいのかもしれませんね。
ーー工芸品を選ぶとき、何を大事にしていますか?
大熊: 簡単に言ってしまうとシンプルなものですかね。DOで扱う商品もそうですが、やっぱり今のリアルな暮らしに落とし込めるかどうかが大事だと思っています。
ルーカス: 自分ならどう使うかイメージするのも大事。輪島塗のこの器は輪島を取材したときに買ったのですが、そもそも漆自体をよく知らなかったから、採取するところから見せてもらったんです。時代をトリップしている感覚があって、漆がいかに貴重なのかがわかりました。これは飯碗ですが、昔の人は陶磁器ではなく漆器を使っていたそうですね。僕はこの飯碗にヨーグルトやアイスクリームを入れても楽しそうだなって思ったんです。そうやってイメージしていくのが楽しいですね。

大熊: この大きな鉢は会津本郷焼で、工芸に興味を持ち始めた頃に買いました。柳宗悦が民芸をめぐる旅をするなかで、会津で出会ったもののひとつとして紹介している記事を読んで興味を持ったんです。会津の郷土食である、にしんの山椒漬けを作るときに使う道具で、通称「にしん鉢」と呼ばれています。しかも焼き物は角があると欠けやすくなるけれども、あえてシャープな形にすることで、大事にしようとする意識が生まれるのだという話を窯元の人から聞きました。こういうストーリーに触れると、ものに対する愛着が俄然湧きますよね。僕はこれでにしんの山椒漬けを作ったことはなくて、パイプセット入れとして使っているんですけど(笑)。

ルーカス: 使ってみて良さがわかるものもあります。取材させていただいた備前焼の作家さんからいただいた備前焼のグラスでビールを飲んだら、すごくおいしくて。この薄さをどうやって出すのか気になってきて、使わないとなかなか気づかない作り手の工夫を発見するのも面白い。
大熊: 身近な店で、日本各地の工芸に触れられる今回のようなイベントはいい機会ですよね。たとえばアパレルとかも洋服だけでなく、ライフスタイル提案を求められている時代なので、それぞれの店が自分たちのテイストに合う工芸を扱うのはとても意味のあることだと思います。工芸品は日々の暮らしに豊かさを与えてくれると実感していますし、家で過ごす時間が大事になっている今、多くの人にその感覚を味わってほしいです。
ルーカス: 長く、毎日使えるような工芸品には、作っている人の気持ちがすごく生きていますからね。
大熊: 思いがこもっていることを使い手も感じられるから、愛着が湧く。それも工芸の魅力ですよね。
JAPAN TRADITIONAL CRAFTS WEEK 2020
会期 2020年9月4日(金)〜17日(木)
会場 都内30のライフスタイルショップ
WEB https://jtcw.jp/2020/
Instagram @jtcw_official
主催 一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会