盆栽トレイル、温泉トレイル
火山がつくったダイナミックな山容と、湖沼や森が織りなす豊かな生態系に彩られた磐梯吾妻・猪苗代エリア。ここに整備されている「磐梯・吾妻・安達太良ボルケーノ トレイル(以下、ボルケーノ トレイル)®」は、国立公園に広がる3つの活火山、磐梯山・吾妻山・安達太良山と火山活動がつくり出した湖沼群をつなぐロングハイキングルートのこと。
活火山を間近に、吹き上がる噴煙を目にしながら、登山道周辺に点在する山小屋やキャンプ場、温泉地に泊まり、地元の銘酒を味わったり温泉に浸かったりと、旅としてのロングハイキングを楽しめる。

猪苗代湖から岳温泉まで、総距離約250kmのロングルートを見据えて開発中のこのトレイルで、現在開通しているのが「ATA(Azuma to Adatara)」72km。プロデュースする一瀬圭介さんによれば、「ATAのキーワードは“盆栽”と“温泉”」とか。温泉はともかく、なぜ盆栽?
そんな疑問を抱きながら福島駅からバスに乗り、スタート地点に設定した吾妻エリアの高湯温泉に向かう。温泉街の宿泊施設に前泊して早朝から歩き始めると、さっそく登場するのがこのエリアのハイライトのひとつ、一切経山にいたる稜線だ。ごつごつとした岩肌の駱駝山、そこから一望する吾妻小富士や浄土平の大パノラマと、別の惑星にいるかのようなSF的風景に圧倒される。


その先で姿を現わすのが、五色沼(通称「魔女の瞳」)。火口に水がたまってできた火口湖で、あざやかなエメラルドグリーンは光の角度によって見え方が変わるというから、なんとも神秘的だ。
吾妻山周辺の見どころは、枝ぶりの美しい吾妻五葉松だ。雪の重みや日本海から吹く爆風に耐える吾妻五葉松は根がむき出し(根上り)になりながらも力強い樹形を保っている。この樹形の美しさから、吾妻五葉松は盆栽の素材として重宝されてきた。こうした吾妻の盆栽文化を牽引してきたのが、盆栽園「ぼんさいや あべ」。

山に自生する松を掘り出す「山取り」ではなく、種一粒から五葉松を育てる実生(みしょう)盆栽にこだわってこの地の過酷な自然を盆栽という造形で表現する。初代の阿部倉吉さんが生み出した実生盆栽を、現在は2代目・健一さんと3代目・大樹さんが受け継いでおり、初代が種から苗木を育てた樹齢60~98年の盆栽を世話している。


「吾妻山の厳しい自然とその環境を生き抜く五葉松のある景色を、倉吉さんは『空間有美』と表現し、空間そのものを盆栽で描こうとしました。彼が生み出した実生の盆栽は2028年4月に100歳を迎えます。その手本となっている吾妻山の自然と種一粒から始まる芸術の深遠を、トレイルを歩いて感じてほしい」


五色沼からは吾妻山方面へ西走する吾妻連峰縦走ルートを進む。いくつものピークが現れアップダウンが続くなか、ときに湿原帯も現れて目を楽しませてくれる。大倉新道から安達太良山方面へ南下すると「ATA」中間地点となる土湯峠温泉郷にいたる。ここから舗装路をたどって安達太良山の登山口へ。吾妻山から安達太良山へと、グラデーションのような景色の変化を体感できるのがおもしろい。
南北に伸びる稜線には日本海からの偏西風が爆風となって吹きつける。風が運ぶのは強烈な硫黄臭。いよいよ“温泉トレイル”だ。

火口の縁ぎりぎりから爆裂火口を望む
“温泉トレイル”で象徴的なのは、沼ノ平火口だろう。直径約1.5kmの火口には黄色~灰白色の岩肌が広がっている。純度の高い硫黄を採掘できることから、ここは江戸時代から硫黄の精錬所が置かれていた。
多くの作業員がここで働き、営みがあったが、明治33年に起きた水蒸気爆発により精錬所は吹き飛んでしまった。120年前の火口のなかでの暮らしに思いを馳せながら、火口の縁ぎりぎりに設けられた登山道を行く。こんなスリリングな道を歩けるのもこのトレイルの醍醐味だろう。


安達太良ルートのキーワードは“温泉”だといわれたが、その答えがあるのがATAの南部の起点に位置する岳温泉だ。開湯1,200年の岳温泉の源泉は、安達太良山に並んでそびえる鉄山(てつざん)の南面、標高1,500m地点のくろがね小屋(建て替えのため休業中)の奥にある。
「かつてはこの源泉地帯に湯治場が置かれていましたが、山津波により崩壊したことから江戸時代に土管を繋いで引き湯を行い、湯治場を山麓に下げました。源泉から現在の岳温泉までは距離にして約8km、引き湯の管理のために湯守という職業も生まれました。8kmかけて湯を流すためにどれだけの工夫や苦労があったのか、このトレイルでは温泉の一生にまつわる物語を思い描くことができます」



温泉と盆栽、日本らしいふたつのテーマをトレイルでなぞる2泊3日の旅のゴールは、安達太良山麓の岳温泉。源泉地帯を歩き、硫黄臭を嗅いだ源泉掛け流しの湯に浸かる。山で湧く源泉はレモンとほぼ同じpHの強酸性泉だが、麓まで8kmを旅するうち、まろやかで肌触りの優しい湯に変わるのだとか。源泉から温泉街へと湯の道筋をたどっての入浴は格別!山旅の醍醐味を存分に味わおう。



Trail Guide
ボルケーノトレイルハイクをサポートする「ANC」
磐梯朝日国立公園の福島県域の情報提供やボルケーノ トレイルのアクティビティサポートを行うトレイルセンター。「お宿 花かんざし」内に拠点を構え、ボルケーノトレイル全線開通に向けた活動や登山道整備などに取り組む。カフェやハイカー向けのギア販売&レンタルを行うストア、ハイカー向けの宿泊設備を備える。ボルケーノトレイル専用マップの予約・販売もこちらへ。
Adatara Azuma Nature Center(ANC)
TEL:090-7171-0350
Instagram:@adatara_nc

