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Japan Long Trail Walker

火山と温泉、盆栽。
山旅で浸る大地と時間のエネルギー

磐梯・吾妻・安達太良ボルケーノトレイル 福島県

福島県、山形県、新潟県の3県にまたがり、出羽三山、朝日連峰、飯豊連峰、磐梯山、猪苗代湖を擁する磐梯朝日国立公園。この国立公園の磐梯吾妻・猪苗代エリアを舞台に、新たなロングトレイルが整備されている。磐梯山、吾妻山、安達太良山という活火山と、点在する湖沼をつなぐ「磐梯・吾妻・安達太良ボルケーノトレイル」がそれだ。今回はその一部である「ATA」ルートをハイキング。火山を巡り、温泉に浸かり、盆栽の魅力に開眼する山旅へ。

03/18/2026



盆栽トレイル、温泉トレイル


火山がつくったダイナミックな山容と、湖沼や森が織りなす豊かな生態系に彩られた磐梯吾妻・猪苗代エリア。ここに整備されている「磐梯・吾妻・安達太良ボルケーノ トレイル(以下、ボルケーノ トレイル)®」は、国立公園に広がる3つの活火山、磐梯山・吾妻山・安達太良山と火山活動がつくり出した湖沼群をつなぐロングハイキングルートのこと。

活火山を間近に、吹き上がる噴煙を目にしながら、登山道周辺に点在する山小屋やキャンプ場、温泉地に泊まり、地元の銘酒を味わったり温泉に浸かったりと、旅としてのロングハイキングを楽しめる。

取材時期の晩秋は、紅葉シーズンまっただなか。燃えるような赤や輝く金色に色づいたミズナラやブナが山肌を染める

猪苗代湖から岳温泉まで、総距離約250kmのロングルートを見据えて開発中のこのトレイルで、現在開通しているのが「ATA(Azuma to Adatara)」72km。プロデュースする一瀬圭介さんによれば、「ATAのキーワードは“盆栽”と“温泉”」とか。温泉はともかく、なぜ盆栽?

そんな疑問を抱きながら福島駅からバスに乗り、スタート地点に設定した吾妻エリアの高湯温泉に向かう。温泉街の宿泊施設に前泊して早朝から歩き始めると、さっそく登場するのがこのエリアのハイライトのひとつ、一切経山にいたる稜線だ。ごつごつとした岩肌の駱駝山、そこから一望する吾妻小富士や浄土平の大パノラマと、別の惑星にいるかのようなSF的風景に圧倒される。

もくもくと水蒸気を上げる一切経山を背後に、浄土平の木道を歩く

その先で姿を現わすのが、五色沼(通称「魔女の瞳」)。火口に水がたまってできた火口湖で、あざやかなエメラルドグリーンは光の角度によって見え方が変わるというから、なんとも神秘的だ。

吾妻山周辺の見どころは、枝ぶりの美しい吾妻五葉松だ。雪の重みや日本海から吹く爆風に耐える吾妻五葉松は根がむき出し(根上り)になりながらも力強い樹形を保っている。この樹形の美しさから、吾妻五葉松は盆栽の素材として重宝されてきた。こうした吾妻の盆栽文化を牽引してきたのが、盆栽園「ぼんさいや あべ」。

100歳を迎える「ぼんさいや あべ」の実生盆栽

山に自生する松を掘り出す「山取り」ではなく、種一粒から五葉松を育てる実生(みしょう)盆栽にこだわってこの地の過酷な自然を盆栽という造形で表現する。初代の阿部倉吉さんが生み出した実生盆栽を、現在は2代目・健一さんと3代目・大樹さんが受け継いでおり、初代が種から苗木を育てた樹齢60~98年の盆栽を世話している。

初代の志を継ぎ、実生の盆栽を生み出す「ぼんさいや あべ」2代目の健一さん
手間と時間とたっぷりの愛情を注がれている「ぼんさいや あべ」の盆栽たち。こちらは健一さんと大樹さんが種子から育てる苗木たち

「吾妻山の厳しい自然とその環境を生き抜く五葉松のある景色を、倉吉さんは『空間有美』と表現し、空間そのものを盆栽で描こうとしました。彼が生み出した実生の盆栽は2028年4月に100歳を迎えます。その手本となっている吾妻山の自然と種一粒から始まる芸術の深遠を、トレイルを歩いて感じてほしい」

「魔女の瞳」湖畔の吾妻五葉松。吾妻山周辺の過酷な自然を生き抜く樹形が美しい
鎌沼と酸ヶ平湿原ののどかな風景

五色沼からは吾妻山方面へ西走する吾妻連峰縦走ルートを進む。いくつものピークが現れアップダウンが続くなか、ときに湿原帯も現れて目を楽しませてくれる。大倉新道から安達太良山方面へ南下すると「ATA」中間地点となる土湯峠温泉郷にいたる。ここから舗装路をたどって安達太良山の登山口へ。吾妻山から安達太良山へと、グラデーションのような景色の変化を体感できるのがおもしろい。

南北に伸びる稜線には日本海からの偏西風が爆風となって吹きつける。風が運ぶのは強烈な硫黄臭。いよいよ“温泉トレイル”だ。

安達太良山の山肌の色あいを再現した「マウンテングルメラボ」の「ボルケーノ・キーマカレー」。現地での調理や食事も、山旅の醍醐味


火口の縁ぎりぎりから爆裂火口を望む


“温泉トレイル”で象徴的なのは、沼ノ平火口だろう。直径約1.5kmの火口には黄色~灰白色の岩肌が広がっている。純度の高い硫黄を採掘できることから、ここは江戸時代から硫黄の精錬所が置かれていた。

多くの作業員がここで働き、営みがあったが、明治33年に起きた水蒸気爆発により精錬所は吹き飛んでしまった。120年前の火口のなかでの暮らしに思いを馳せながら、火口の縁ぎりぎりに設けられた登山道を行く。こんなスリリングな道を歩けるのもこのトレイルの醍醐味だろう。

大迫力の沼ノ平火口前でひと休み。直径1,400mの爆裂火口を、この距離で眺められるのはここならでは
どこままでも続く稜線歩きが楽しい「ボルケーノ トレイル」

安達太良ルートのキーワードは“温泉”だといわれたが、その答えがあるのがATAの南部の起点に位置する岳温泉だ。開湯1,200年の岳温泉の源泉は、安達太良山に並んでそびえる鉄山(てつざん)の南面、標高1,500m地点のくろがね小屋(建て替えのため休業中)の奥にある。

「かつてはこの源泉地帯に湯治場が置かれていましたが、山津波により崩壊したことから江戸時代に土管を繋いで引き湯を行い、湯治場を山麓に下げました。源泉から現在の岳温泉までは距離にして約8km、引き湯の管理のために湯守という職業も生まれました。8kmかけて湯を流すためにどれだけの工夫や苦労があったのか、このトレイルでは温泉の一生にまつわる物語を思い描くことができます」

トレイルヘッドの岳温泉は大きな看板が目印
岳温泉の温泉街で見つけた山のおやつは、どらやきのような「くろがね焼」
下山後の楽しみは源泉掛け流しの温泉!パワー溢れる酸性泉に浸かって極楽気分。こちらは「お宿 花かんざし」自慢の露天風呂

温泉と盆栽、日本らしいふたつのテーマをトレイルでなぞる2泊3日の旅のゴールは、安達太良山麓の岳温泉。源泉地帯を歩き、硫黄臭を嗅いだ源泉掛け流しの湯に浸かる。山で湧く源泉はレモンとほぼ同じpHの強酸性泉だが、麓まで8kmを旅するうち、まろやかで肌触りの優しい湯に変わるのだとか。源泉から温泉街へと湯の道筋をたどっての入浴は格別!山旅の醍醐味を存分に味わおう。

かつて「ニコニコ共和国」という独立国家(!?)だった岳温泉。街にはその名残の国会議事堂(現・岳温泉観光協会)の看板が今でも。街のスナックは「保安官詰所」、豆腐店は「国立豆腐蛋白研究所」として機能していた。1982年に建国、惜しくも2006年に日本国に統合された。時間に余裕があれば、ニコニコ共和国の遺産をたどって街散策を楽しみたい
「ニコニコ共和国」ではパスポートの他、独自の通貨(コスモ)も発行され、建国当時から100コスモ=100円で流通している。地域通貨の先駆け的存在のこちら、現在でも岳温泉内の施設で使用できる
一瀬圭介さんと「お宿 花かんざし」の女将、二瓶明子さん




Trail Guide
お宿 花んざし
福島県二本松市岳温泉1-104
TEL:0243-24-2110

ボルケーノトレイルハイクをサポートする「ANC」


磐梯朝日国立公園の福島県域の情報提供やボルケーノ トレイルのアクティビティサポートを行うトレイルセンター。「お宿 花かんざし」内に拠点を構え、ボルケーノトレイル全線開通に向けた活動や登山道整備などに取り組む。カフェやハイカー向けのギア販売&レンタルを行うストア、ハイカー向けの宿泊設備を備える。ボルケーノトレイル専用マップの予約・販売もこちらへ。

Adatara Azuma Nature Center(ANC)
TEL:090-7171-0350
Instagram:@adatara_nc

text | Ryoko Kuraishi photography | Yasuyuki Takagi special thanks | Adatara Azuma Nature Center(ANC)