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Housing + Craft

100年前の長屋を再生する

古いものから新しいものへ

現在、イェンス・イェンセンさんは京都の小さな長屋をリノベーション中。この作業を進める内に、彼は京都の魅力を再発見し、リノベーションに関わる職人たちから伝統的かつモダンなクラフトマンシップを学ぶことになった。

09/28/2022

最初に京都を訪れたのは約20年前だった。当時、僕は東京の学校に通っていて、デンマークから両親が旅行で日本にやってくることになった。母は、伝統的な日本庭園や着物を着た若い女性を見ることを楽しみにしていて、僕はと言えば、昔ながらの日本家屋が立ち並ぶ、石畳の古い町並みが見たくてワクワクしていた。僕たちはダイアン・ダーストンの「Little Kyoto」で見つけた手頃な旅館に泊まることになった(まだAirBnBやbooking.comがなかった時代のことだ)。畳敷きの部屋からは、高瀬川とかつて遊郭地帯だった五条楽園が見渡せた。宿の隣の小体なベーカリーで売っていた焼きたてのそば粉クッキーは、まるで寒い冬の朝のようにキリッとした味わいだった。僕たちは瞬く間にこの味にはまった。

正直に告白すると、僕は少しばかり京都にがっかりしていた。原広司設計の不気味な京都駅ビルに電車が行き来する光景は、僕にとって、日本のバブル時代に建てられた最悪な建築物のひとつに思える。醜く、環境に不釣り合いで、旅行者にやさしくない建物だ。僕たちは、素敵なお寺も巡ったし、祇園のディズニーっぽい可愛い通りも楽しんだが、その他のほとんどのエリアは、東京や日本のその他の大都市のように埃っぽく、混沌とした雰囲気だった。 

それ以来、僕は意識的に京都に向かうことを避けるようになった。日本に住んで20年以上になるが、最近まで京都を訪れた回数はおそらく数えるほどしかないはずだ。個人的には奈良の方がずっと気に入っていた。街として京都よりも小ぶりだし、親しみやすく、奈良町の古いエリアには、感じのいい家屋、カフェ、ゲストハウス、レストランなどが軒を連ねている。祇園よりも、よっぽどいい雰囲気だ。僕は奈良で古い、小さな家をリノベーションして、セカンドハウスとして利用したり、そこを拠点として生活することも良いかなと考えていた。

その後、新型コロナウィルスが発生し、京都は大きな打撃を受けた。一夜にして、観光客は消えたが、今、街はもう一回息を吹き返しそうな気配だ。琵琶湖で開催されたTent Sauna Partyで仲良くなった友だちが、京都の知る人ぞ知る側面を見せてくれて、たちまち僕は京都にハマっていった。彼らが紹介してくれたナチュラルワインバー、銭湯(ほとんどサウナ付き!)、広東料理、韓国料理のレストランはどれも僕の好みだった。お昼に鴨川沿いでだらだらとビールを飲むのも最高だ。僕は京都に小体で古い家屋をリノベーションして住むのもありかなと思い始めた。 

この2年間、折に触れて、奈良でいい物件を探していたが、どうにもうまくいかなかった。ところが、京都で物件を探し始めたら、手頃で条件のいい物件がいくつか浮上してきた。友だちが地元の不動産屋さんを紹介してくれて、2021年12月に2、3の物件を実際に見て回った。

3つ目の物件がドンピシャだった。小さな長屋で、かつて、両親と泊まっていた五条楽園のそばの宿から目と鼻の先だった。おそらく100年くらい前に建てられたものであるとのことだったが、不動産屋さんも僕の友だちも正確なところはわからないようだった。長屋は1つの建物の中に複数の住戸が作られている集合住宅で、正体不明の建材をリサイクルして簡単な工程で建てられたものが多い。急速に発展しつつあった京都で、手っ取り早く提供できる手頃な家屋として増設されていったものだった。ただし、プライバシーはあまり保たれていなかったが…..。長屋は、柱を露出し、柱と柱の間に塗り壁や張り壁が施された真壁造りにより建造されている。 

僕の家では、すでに広範囲にわたりリノベが始まっており、小さな庭だったところは、キッチンの一部になり、トイレも設置された。家にあるもので、残す価値のあるものは何もなかった。僕が室内の壁、床、天井をぶち抜いたので、今や家屋はスケルトン状態。畳の間の床下は、汚れとゴミだらけだった。部屋の両脇の壁の劣化は激しく、小さな裂け目から左隣の家のキッチンが垣間見られた。もし長屋でなければとっくに壊されていた物件だろう。長屋の場合、両脇の家の壁も壊してしまうことになるので、一軒のみを解体することは不可能なのだ。

右隣の家は最近リノベして、美しく生まれ変わったばかりだ。この家は言わば僕が目指すリノベーションの見本だ。美しい漆喰の壁と出窓が設えられた部屋は、京都らしい建築の美しさが存分に表現されている。

左隣の家には、高齢のカップルと小型犬が暮らしており、ファサードと僕の家からちらっと見える壁の一部から察すると、いい感じの家とは言い難い。とは言え、よくあるケースだが、カップルはこのちょっとボロい家に住んでいることを気にも留めていないようだった。 

僕は、ほぼ自力でリノベーションを進めていく予定だが、ここはプロフェッショナルのたちの手も少し借りたいところだ。仲のいい友だちが大工を紹介してくれて、傾いていた柱(ほとんどすべてがそうだったのだが)をまっすぐにして、新しいものと取り替えてくれた。彼は京都出身で、とても真面目な性格だ。かつて、もっとひどい状態の家をたくさんリノベした経験があるとのことで、実に手際よく、次から次へと仕事をこなしている。この大工さんは基礎コンクリートの打設を手伝ってくれる人に心当たりがあるようなので、僕を含め、3人が揃った時点で、本格的なリノベーション作業がスタートできそうだ。