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海辺の小さな宿
HOUSEHOLD

HOUSEHOLDに宿泊すると、センスの良い友人の家に泊まっているような気持ちになる。この宿に一晩泊まると、この氷見のまちで暮らしているように感じ、まちの一部になっている気がする。このことは他の宿泊施設では味わえない感覚で、オーナーの情熱と建物、氷見というまちが完璧な形で融合して生み出されるものである。

10/05/2023

氷見は富山県にあるのどかな海辺のまち。石川県にある広大な能登半島へと続く道沿いの富山県内最後のまちだ。氷見は規模こそ大きくないが、市内には地ビールの醸造所、こだわりの古着が買える店、シルクスクリーン工房などがあるほか、中心街のあちこちに魚のモニュメントが配されて、歩いてくる人々に歌いかけてくる。そして、このまちには「HOUSEHOLD」という名の素晴らしい宿があるのだ。

呉服店として使われていたビルをリノベーションして誕生したこの宿が開業したのは2018年のこと。オーナーは笹倉さん夫妻で、夫の慎也さんは富山県、妻の奈津美さんは茨城県の出身で、2015年に東京から氷見市に移住した。当初は海の見える普通の小さな家を探していたが、なかなか良い物件が見つからなかったという。 

「私たちが最終的に気に入った物件は大きな古いビルでした。二人で住むには広すぎたので、宿を始めることにしたのです。宿を開くことに決めた理由はたくさんありますが、この空間が氷見に旅行者を誘致するにあたり、最高の機会をもたらしてくれると感じたことが大きな理由です。ここなら海と立山連峰の美しい景色が見られますし、駅にも近く、有名な釣り場もすぐ近くにある。近所にはとても美味しい地元の飲食店もいくつかありますし、親切な地元の人々も住んでいます。このビルに出会えなければ、私たちが今のように宿を経営することはなかったでしょう」と笹倉さん夫妻は話す。

HOUSEHOLDには客室が3つある。うち2室が短期滞在用で、窓から見える海の景色にちなんだnami(波)と、氷見の家々の屋根を見下ろせる景色にちなんだyane(屋根)という部屋だ。もう一つのフロアにはさらに広い、privateと呼ばれる貸別荘タイプの客室が2つ。

どの客室も、屋上やリビング、そして最も重要な場所であるキッチンも共用だ。キッチンはどの家庭にとっても中心となる場所。この宿の真ん中にもキッチンがある。 

HOUSEHOLDの魅力は、地物の魚介類や野菜、富山産の美味しいお米と上質な水がふんだんに手に入ることだ。宿の朝食は地元産の旬の素材だけを使用して、氷見という土地が持つ豊かな恵みを舌で体感できる献立となっている。朝食は宿泊客全員に同じ時間に提供され、宿泊客同士が顔を合わせ、気持ちをのんびりしたモードに切り替え、季節や土地の恵みを心から味わう場となっている。

「笹倉家の朝食は、私たちが美味しいと思った食材のみを厳選し、近所に住む地元の人たちから教わった方法で作ったシンプルで素朴なものです。例えば、新鮮な魚の味噌汁の作り方は、亀寿司の大将から教えてもらいましたし、がんもときは近所の友人でもあるお豆腐屋さんが作ったものです。野菜は近所の畑で収穫されています。野菜は蒸しものをはじめ、できるだけシンプルな方法で調理しています。

私たちの宿の朝食は、伝統的な和風旅館で出されるものほど洗練されていないし、ホテルのブッフェスタイルの朝食のような贅沢さはないかもしれません。それでもこの朝食を食べることで、お客さんに氷見の日々の暮らしを味わっていただき、この土地の食材の豊かさを垣間見ていただけると思います」

夕食は自炊がおすすめだ。その日に自分で買ってきた食材を共用キッチンで料理して夕食を作ってみよう。HOUSEHOLDには、料理の手順を実地に体験して学ぶ「夕食用ミールキット付プラン」も用意されている。

氷見を訪れる人々と、地元の人々の日々の暮らしや氷見の豊かな食材をつなぎたい―HOUSEHOLDはそんな願いのもと生まれた宿だ。この願いがかなった今、この宿はこれからどのように展開していくのか。HOUSEHOLDの次の章から目が離せない。

HOUSEHOLD
海辺の古いビルをリノベーションした、料理を通してまちを楽しむ、1日2組限定の小さな宿。
text & photography | Susie Krieble