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奄美大島の地で自由に紡ぐ、心地良い暮らしと生業

ステインドグラス・アーティスト
熊崎浩

 

12/01/2022

小高い山を背に、三方を森に囲まれ、眼下にエメラルド色の海を望む。そんなとびきりのロケーションに、奄美大島在住のステインドグラス・アーティスト、熊崎浩さんが紡ぐ小さな王国がある。

はじめに出迎えてくれたのは、人懐こいヤギ。なだらかな斜面のガーデンには、トロピカルフルーツや野菜がとりどりに育てられ、その一角には賑やかな声が響くニワトリ小屋が立つ。工房やギャラリー、自宅、別棟の子ども部屋に至るまで、建築物のすべては、日本古来の伝統工法である板倉工法を独学で習得した熊崎さんがセルフビルドしたものだ。土地を開墾し、土を耕し、衣食住をできる限り自らの手でつくるという自給自足的な暮らし。そんなライフスタイルを熊崎さんがこの土地で実践して約20年が経つという。

熊崎さんは、静岡県出身。10代の頃からサーフィンに傾倒し、一時は湘南に暮らしていたが、20代後半の時、サラリーマン人生に見切りをつけ、オーストラリアへ。手に職をつけるため、日本にいたときから始めたというステインドグラス。その技術を活かすべく、渡豪後はステインドグラスの老舗店の門を叩き、働きながら腕を磨いた。そのままオーストラリアに定住するつもりだったが、経済成長とともに開発の波が押し寄せると、変わりゆく景色に違和感を覚え、子どもの誕生をきっかけに帰国を決意。もともと、「田舎で自給自足や、資本主義から少し外れたことをしたい」と考えていたという熊崎さんが、次なる移住先として直感的に決めたのが、奄美大島だったという。

「地元を離れてから、常にフロンティア精神を持ってはいたんですが、それが海外に向いていました。これから帰国というときに、ふっと奄美が浮かんできたんです。昔、飲食店でたまたま隣に座った子たちが、奄美の出身で。本当に素直ですれていなくて驚いたんですが、その時の会話が妙に残っていて。しつこいくらいおばあちゃんが野菜をくれるっていう話とか。今どき本当にいるのかなって思って奄美にきてみたら、なるほど、まあまあいるじゃんって(笑)」

セルフビルドの家が建つまでの約5年間は、家族で半アウトドア生活。果樹の世話を学び、畑を始めた。当時は、ステインドグラス作家としても工房を立ち上げたばかり。暮らしをDIYすることでリビングコストを下げるという意味も大きかったというが、全国からガラスの受注が舞い込むようになった今でも、自給的な暮らしを継続。その暮らしぶりは、忙しくも充実感に満ちている。

「ガラスの仕事以外にも、建築、畑、動物の世話とか、やることがいっぱいあって。百姓ですよね。集落行事や消防団など自治体の活動にも多くの時間を取られて気持ちが焦る時期もあったんだけど、ある話を聞いてストンと附に落ちた。火消しといっても昔はいろいろな職人たちの集まりで、消火活動は“仕事”、職人としての活動は“生業”だった、と。俺にとっては、ガラスは生業、建築や集落のことは仕事。仕事なんだから、サボってるわけじゃないって、気持ちがどんどん落ち着いていったんです。スローライフなんていう優雅な響きとはほど遠いし、田舎暮らしは手間が掛かるけど、こんな世の中でも、自分が好きなようにやって生きていけているのは、やっぱりいい生活だなって思います」

自宅から車で15分のところには、ホームポイントの「ヴィラビーチ」がある。世界的にも珍しいという地形のおかげで、ビーチブレイクらしからぬ大波が立つ日本屈指のビッグウェイブポイントだ。仕事の前後、あるいは合間でも。気が向けば、いつでも波乗りへ。そんな暮らしに、いつも感謝している。

Sea Shore Stained Glass
鹿児島県大島郡龍郷町芦徳620-2
TEL:0997-55-4017


PAPERSKY no.66 | AMAMI ISLAND LISTEN
さまざまな音、声に耳を傾け、多様な奄美を感じて巡る旅へ。旅のゲストは、画家で絵本作家のミロコマチコさんと染色家である金井工芸の金井志人さん。
text | Yukiko Soda photography | Yayoi Arimoto