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Goldwinが考える、
“100年素材”ダウンの未来

スキーやアウトドアアクティビティで求められる機能性を、長年にわたって追求してきたゴールドウイン社。その知見やノウハウを詰め込んだ社名を冠したオリジナルブランド「Goldwin」では、天然資源が持つ特性や能力を研究し、商品開発に活用している。そうした資源の一つが、高機能素材のダウン。「100年使える」というその価値を未来へつないでいくため、さまざまな取り組みを始めている。

01/07/2022


「自然が育む豊かな機能性を活用することで、人々はより快適な暮らしを営むことができる」。そんなブランドコンセプトを掲げる「Goldwin」では、アウトドアフィールドで最高の機能を発揮する製品を、なるべく環境負荷の少ない方法で実現すべく、素材や商品の開発を続けている。

新しく人工的に開発された機能素材が次々と生まれる一方、「素材開発では置き換えられないもの」としてその価値が再認識される素材もある。たとえば、スキーやアウトドアウエアでおなじみのダウンもその一つだ。

「ダウンの魅力はなんといっても保温力の高さと軽量さ。吸放湿性にも優れ、着用すれば自然に湿度調整をしてくれる素晴らしい素材です。加えて、ハードケラチンという炭素繊維できている羽毛は、100年以上使い続けられるほどの耐久性を誇ります。軽量さと耐久性という、相反する要素を備える上、圧縮回復性にもすぐれており、過酷なアウトドア・シーンでなくてはならない天然素材といえるでしょう」

そう語るのは、「Goldwin」で企画を担う黒田優さん。今シーズンはスキーウエアやアウトドアウエア、ライフスタイルウエアと、さまざまなシーンでの着用を想定した製品にダウンを採用しているが、いずれも最新技術や蓄積した知見を取り入れ、ダウンの特性を最大限に引き出せる仕立てを実現した。

スキーからアウトドア、そして日常着まで。「さまざまなシーンでダウンは欠かせない素材」と語る黒田優さん
アウターの内側に採用したのは、中綿の偏りを防いでくれるシェイプドバッフル構造。コールドスポットを抑えることでウエア全体の保温力を高めている

「長年スキーウエアの開発で培った経験から、ダウンの特性が最大限に発揮できるような構造、素材使いを行っています。たとえば、製品のなかでダウンが偏ると保温力が落ちてしまうため、ダウンが偏りにくいバッフルを採用しています。部位によってダウンの封入量を調節したり、ハンドウォーマーポケットにはポケット袋の両面にダウンを封入して保温力を向上させたり、見えないところにさまざまな工夫を施しています」

携行性を高めたミドラーダウン(左)やダウンカーディガン(右)は、ダウン封入量を抑えることでコンパクトな造りに。アイテムによってダウン封入量や仕立てを細かく変えている

「Goldwin」製品で多く使われている光電子®とダウンを合わせたハイブリッド素材も、機能性を追求するなかでうまれたものだ。

「光電子®は微粒子のセラミックスを繊維に練り込んだ機能素材で、人の身体から発せられる遠赤外線を輻射して衣服内を温めるというもの。光電子®を合わせることでダウン量が少なくても保温性能を高めることができます。運動量がそれほど多くないアクティビティやライフスタイルシーンには光電子®ダウンを、運動量の多いアクティビティには調湿性や温度調整機能に優れたダウン製品を、というような提案をしています」

こちらが光電子®とダウンを合わせたハイブリッド素材。ダウン量を抑えても高い保温力を実現

自然が育んだ機能素材というべきダウンだが、それを取り巻く環境は明るいものではない。世界屈指の羽毛精製技術を誇る専門メーカー、「河田フェザー」代表の河田敏勝さんはダウンの未来を強く危惧している。

「そもそも羽毛は食肉の副産物です。従来は肉の味を高めるため、十分な飼育期間を設けて水鳥をしっかりと成熟させていました。肉が成熟するということは羽毛もしっかり成熟するということで、かつては小羽枝が密生した、耐久性の高い良質な羽毛を回収できていました。けれども近年、経済効率を優先するあまり、飼育期間を従来の半分以下とするような生産者が増えています。肉も羽毛も未成熟で、良質なダウンを回収することはますます難しくなっている。それが、ダウンが抱える課題です」

各地から集めたダウン
回収したダウン製品を目の細かなふるいにかけ、ダウンの品質や重量別で18種に選別する。長年の使用でねじれた、あるいは損傷した羽毛、ファイバーが含まれているものはリサイクルせず廃棄する

原毛の品質低下への危惧から生まれたのが、「河田フェザー」が先頭になって進めるダウンをリサイクルするプロジェクトだった。良質な原毛をふんだんに使っていた1980〜90年代製のダウン製品を回収し、洗浄・精製して再び高品質なダウンへ蘇らせて再利用するというものである。一口に“リサイクル”といっても、バージンダウンと同レベルの機能を誇るリサイクルされたダウンを作り出せるのは、「河田フェザー」の優れた洗浄・精製技術があってこそ。

「私たちが拠点を構える三重県多気郡明和町は、羽毛加工に最適のロケーションを探してたどり着いた土地。ドライな気候と大台ケ原山地を水源とする超軟水が、高品質ダウンに欠かせない完璧な洗浄を可能にします」

「河田フェザー」で行われている洗浄工程。除塵機でチリやホコリ、水鳥のアカを落とした後、大型のドラム式洗濯機を使って羽毛同士をこすりあわせるように洗う
除塵機で落とした汚れ
洗浄後の羽毛は乾燥機へ

ここでは、長年培った技術で目に見えないチリやホコリ、水鳥のアカや脂肪までも完璧に落とす洗浄・精製作業が行われている。洗浄のプロセスでは地下から汲み上げた超軟水で複雑な水流を作り出し、原毛同士をこすり合わせて米を研ぐように羽毛を磨き上げる。清潔な羽毛はヘタリも少なく耐久性も向上するうえ、菌の温床となるホコリやアレルギー源が取り除かれるので、アレルギーも起こりにくい。加えて、弱アルカリ性の水には酸化した箇所を還元する力があり、羽毛の損傷部分を修復してくれる。精製後には工場内に併設するラボで厳しい品質試験を行い、自社内で採用した、日本羽毛製品協同組合が定めたよりも厳しい基準をクリアしたものだけを製品として採用する。こうして新毛と同等か、それ以上の機能を発揮するダウンにリサイクルされるのだ。

風の力を利用してダウンとフェザーを選別する選別機
洗浄・精製された羽毛は「UMOUサイエンスラボ」へ。これは羽毛の組成分類の様子
多岐に渡る羽毛品質試験が実施されている

「限りある資源を有効に活用したい」、そんな思いが合致したことから「Goldwin」では「河田フェザー」とタッグを組み、リサイクルされたダウンの利用を積極的に行っている。黒田さんが紹介してくれた冒頭のスキーウェアのダウンも、実はリサイクルされたダウンを使った製品である。リサイクルといっても、袖を通したときの圧迫感のなさ、包みこまれるような着心地の良さは新毛と遜色がない。製品の企画に際しても、表地には着ぶくれしにくいよう張りのある素材を使うも、裏地にはやわらかな素材を使うことでさらなる快適さを高めるなど、ダウンの特性をさらにいかすものづくりを心がけている。

抜群の保温性と軽さ、柔らかな着心地をかなえたスキ―用のダウンジャケット。いずれも河田フェザーでリサイクルされたダウンを使用している

「Goldwinでは現在、リサイクルされたダウンと光電子®ダウンの2種だけを製品に採用しています。ゴールドウイン社ではダウン並みの機能を備えた新素材の開発を進めていますが、それでもダウンに置き換えられるような高機能素材は実現できていません。リサイクルを積極的に進めつつ、ダウンと新素材との組み合わせというものづくりを極めることで、何にも置き換えられない貴重な資源を守っていく。これが、Goldwinのダウンとの向き合い方です。

さらに、リサイクルを身近に感じてもらえる環境づくりも進めていきます。たとえば、ダウン製品を長く、大切に使ってもらえるよう、リサイクルされたダウンの製品を通じて啓蒙活動を行うこと。子どもたちに雪と触れ合う遊びを提案することで、ダウンという素材の素晴らしさを体感してもらい、リサイクルへの理解を進めること。このような資源の循環に向けた試みこそ、自然から恩恵を受けている私たちの使命だと考えています」

かけがえのない素材と長くつきあっていくために。「Goldwin」が提案する資源循環型の製品から、ダウンとの付き合いかたをいま一度、考えてみませんか?

リサイクル前のダウン(左)とリサイクル後のダウン(右)。洗浄・精製の各工程を経て、かさが復元していることがわかる
Goldwin
ブランドサイト
text | Ryoko Kuraishi photography & videography | Ryuta Iwasaki