マングローブが養う赤い魚を追いかけて
本州の渓流が静けさを取り戻す10月、僕たちは新たな水の音を求めて南の島へ飛び立った。目的地は沖縄・西表島。石垣島からフェリーに乗り換え、夕方ようやく島へたどり着いた。車を走らせると、いたるところに「イリオモテヤマネコ注意」の看板が現れる。島内の制限速度は時速40km。ヤマネコと人がともに暮らすための、思いやりの速度だという。


「泡波と島の味 はてるま」へと夕食に向かう途中、道路脇の闇のなかに光る瞳を見つけた。餌を探すイリオモテヤマネコだった。ほんの一瞬の出会いに胸が高鳴る。同店では、店主自ら調達したカラフルな魚や海ぶどう、島のフルーツが並んだ。島の食材と泡盛に体がほぐれ、旅の始まりを実感する。

翌朝、朝食を済ませ、コーヒーを飲みながら外を眺めていると、ガイドの米澤弘明さんが迎えにきた。今日はマングローブの森でのフライフィッシングだ。現在、西表島には日本最多の407種の魚が生息し、そのうち約30種が釣りの対象になるという。東京を出発してから24時間後、ようやく釣竿を握る。「魚は根の際や岸ぎりぎりの影に潜んでいますよ」と米澤さん。


カヌーから10 m先にポッパー(浮くタイプのフライ)を投げると、着水と同時に水面が炸裂。元気なマングローブジャックが食いついてくれた。水中に赤い魚体が戻っていく姿を見送りながら、ふとこの自然豊かな島のエコシステムに想いを馳せた。

釣りをした浦内川上流の旧稲葉集落は、かつて稲作が盛んな土地だった。日本初のエコツーリズム協会を西表島で立ち上げた元会長・平良彰健さんは、土地をもてなかった宮古島島民の次男、三男としてこの島へ渡った人々の子孫でもある。海を越えてやってきた先祖の記憶に想いを馳せつつ、ありし日の島の暮らしを平良さんは振り返る。

「昔は鶏を飼っても半分はヤマネコに食われた。それが当たり前だった。エサが豊富な田んぼは、ヤマネコの子育ての場所でもあった」。
しかし現在では道路の整備に伴い、田んぼが道路脇へ移され、ヤマネコが車に轢かれる事故が増えた。絶滅危惧種たちの生育環境を取り戻そうと、廃村となった旧稲葉集落の田んぼ跡の水辺再生に平良さんは奮闘している。
人と自然を結ぶもの
1972年に「西表石垣国立公園」に指定された西表島は、滝や森の探訪には人数制限とガイド同行が義務づけられている。釣りの翌日、僕たちはガイドの宇野弘鷹さんに案内され、ピナイサーラの滝を目指した。


カヤックを漕ぐ横で、前日に出会った魚たちが足元を泳いでいる。マングローブの森を抜けると、目の前に突如として巨大な滝が現れた。ピナイとは「髭」、サーラは「垂れ下がるもの」を意味する。まるで生き物のように息づく滝だった。

水しぶきに包まれながら思う。森も川も海も、この島のすべてがひとつに呼吸しているようだ、と。その呼吸の輪のなかに、人の暮らしも溶け込んでいる。森、川、海、そして人。フェリーで島を離れるとき、ふとフォトジャーナリストの故・残間正之さんの言葉を思い出した。「魚釣りに行って、魚釣って、どうするんだよ」

釣りとは、魚を釣ることではなく、自然と自分を結び直す行為なのかもしれない。西表島は、沖縄本島や宮古島などから開拓移民で渡ってきた人々が多く住む島だ。今回の旅で出会ったのは、この島に根を下ろし、自然とともに生きる人々。誰もがこの島の力強い生命のリズムに“釣られた”人たちだった。そして僕たちもまた、静かに“釣られて”いたのだ。






Trail Guide

沖縄県八重山郡竹富町上原45-1
TEL:090-7878-9323

沖縄県八重山郡竹富町上原10-625 フルーツアイランドハイツB-4号室
TEL:090-6964-6131

沖縄県八重山郡竹富町上原532-7
TEL:非公開

沖縄県八重山郡竹富町字西表1009
TEL:非公開

沖縄県八重山郡竹富町南風見201-73
TEL:0980-85-5623
水と生きる、旅をする
自然から学んだナチュラリストたちの知恵を活かしながら、世界中に足を運び、豊かな水が涵養した魚たちと出会うアウトドアスタイルを提案するFoxfireと、PAPERSKY。実際に旅して出会ったモチーフをテキスタイルに織り込んだデザイン、機動性や撥水性などシーンにマッチする機能性を兼ね備えたコラボレーションライン・FISHDOMシリーズが絶賛発売中。




