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Iwate Interview 02

山小屋フィールドノート

ただひたすら大自然に抱かれるからこそ、
見えてくる大切なもの

 

03/17/2022

北上山地の最高峰である早池峰山の東麓。タイマグラはここに開かれた戦後の開拓地であった。この奇妙な地名はアイヌ語で「森の奥へと続く道」という意味を持ち、その名の通り、深い森と美しい渓流に恵まれ、ただひたすら大自然が広がる土地である。民宿「フィールドノート」はここタイマグラで旅人を受け入れる小さな山小屋だ。主人の奥畑充幸(みつゆき)さんは30年以上前、この場所を訪れ、一目惚れ。以来、山小屋の主として、一家5人の長として、壮大な自然と向き合いながら暮らしている。

森の緑や土によって浄化された水がタイマグラでの生活を支える

「水が詰まったら直し、森の表情を見て、作物を収穫して調理する。採りたてのきゅうりをお客さんと一緒に味わって、こんなに美味しいんだってことを分かち合う。毎日のことを同じようにこなしていくだけなんだけど、すべてが幸せだよなって」

周囲にはここを含め、人家は4軒のみ。宿泊者はいやがおうにも北上山地の大自然に抱かれながら、森や畑、清流から生活の糧を得て、人間が生きていく上で本当に必要なものは何かを自ずと再確認させられる。

「天候が不順で作物が採れないなんてこともあるんですけど、たとえば木の実なんかは2年ほど保存がききますからね。それにあれもこれも収穫できないってことは不思議となくて、なにかがダメなら他のなにかが食材として助けてくれる。ここには自然以外になにもないけど、そうやって命ってつながってきたんだなあって」

早朝、庭へ出ると長男の大木さんがひたすら薪を割っていた。そうかと思えば畑では充幸さんが作物の具合を確認し、次男の森さんは水を汲み、奥さんの陽子さんと三男の生さんは朝食の準備に忙しい。朝食が終わればまたそれぞれの家族が自らの役割を果たすべく、せわしなく動き続ける。そんな様子が朝から夜まで続いていくのだ。充幸さんはふと、こうつぶやく。

「この山の中で暮らすためには、味噌を作ったり、かんじきをこしらえたり、薪の準備をしたり、畑の作物をシカやイノシシから守ったり…。自然とのつき合い方を考えて、工夫したり、自分で体を動かさなきゃならない。でもそういう体験って都会ではできないでしょう。自然の中で暮らすっていうことからいろいろなことを感じてもらえると思う。泊まりに来てくれる方にも、しばし私たち家族と一緒に味わってもらえればと思うんです」

ふかふかのベッドもなければ、豪華なアトラクションもない。でもむき出しの自然の中に暮らすことで得られる気づきや感覚は他では得難いものだ。果たして、自分には生きるための技術や知識がどれだけ欠けているのか。そんなことを考え尽くすバカンスもまた面白いはずだ。

text | Miguel Utsunomiya Photography | Shuhei Tonami