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EDITOR’S NOTE
No.65 — IWATE(2021)

静かな喜びを育んでいく

ルーカス B.B.

 

11/19/2021

今号のPAPERSKYは、宮沢賢治が描いた不思議な世界、イーハトーブへ。ここは作家、思想家、科学者、音楽家、レコードコレクター、菜食主義者、そしてユートピア思想をもつ社会活動家でもあった宮沢賢治が、故郷・岩手を舞台に創り上げた夢の国だ。

賢治は、世界や科学への深い造詣と恐ろしいほどの創造力をもち合わせた人物であったにもかかわらず、多くの日本人にとっては学校の教科書に出てくる昔の児童文学作家にすぎなかったりもする。しかし賢治は真の哲学者で、天才で、ヒップスターだ。従来のイメージから賢治像をアップデートしたい。そして、自然に敬意を払い、宇宙に存在するすべての生きものが平等であり、ともに平和に生きる世界を描いた、賢治の壮大なビジョンを共有したい。

そんなわけで僕らは、賢治の思想や物語に影響を与えた土地、岩手を訪ねる旅に出た。まずは賢治生誕の地、花巻に降り立ち、そこから賢治の物語を体感する土地へ。『かしわばやしの夜』の世界に触れるために早池峰山を目指し、そこから『ざしき童子のはなし』の舞台の遠野エリアへ。そして『セロ弾きのゴーシュ』の物語を味わいに盛岡の街を訪ね、最後は『銀河鉄道の夜』の世界へ飛び込むべく三陸海岸を目指した。

宮沢賢治は、イーハトーブの創造や物語、詩、散文などの驚くべき才能をもつ作家としてだけでなく、19世紀生まれにして21世紀のビジョナリーだった。世界中の人々の暮らしを向上させるというビジョンを、ひとり静かに微笑みをたたえて書いていたのだ。どの作品にも共通するテーマは、“つながり”。すべての存在はつながり合い、また地球や宇宙のあらゆる自然現象ともつながっていることを伝えている。

 つまり賢治の世界観は、宇宙そのもの。有機物、無機物問わず、地球上のあらゆる物体や現象、この惑星や宇宙とのつながりを見ている。いうなれば、賢治はカオス理論の生みの祖父なのだ。そして、彼の作品をよく読めば、そこには日本がより人間的な未来に向かっていくために、静かな喜びを育んでいくことが大切だというメッセージが込められていることに気づくだろう。

PAPERSKY no.65 | KENJI MIYAZAWA
暮らしやカルチャー、人々に触れ、宮沢賢治の世界と今を行き来する岩手イーハトーブの旅へ。旅のゲストは、イラストレーターの塩川いづみさんと音楽家の小島ケイタニーラブさん。