岐阜県土岐市にスタジオを構え、世界を舞台に活躍する陶芸家・青木良太さんのもとへ、高校卒業と同時に弟子入りした女性がいる。小島凪乃さん、現在22歳。「弟子募集」の条件を満たさないなか志願し、熱意が認められ入門。3年半の「見習い」修行も勤め上げ、今年から正式な「弟子」に。
その行動力と覚悟を裏付けるものは、何だったのか。
ー青木良太さんのところに弟子入りするまでの経緯を聞かせてください。
小島さん：出身は東京で、都内の工芸高校へ進学し、部活で「陶芸部」に所属していました。両親がものづくりに関わる仕事をしていて、昔から私も手を動かすことが好きでした。しかし、両親が大学を出ていないこともあって「四年制大学を卒業してほしい」という考えのもと育ち、私自身も美術大学進学を予定していました。
小島さん：ただ、決定的に美大へ行かないと決めた出来事がひとつあって。とある美大の説明会を訪ねたときのことですが、たまたま大学教授とお話する機会があり作品を見てもらいました。そしたら「上手だね」と褒めていただけたのですが、高校生の部活で作った作品が教授から見て上手なわけがなく、今褒められたら大学で何を学ぶのか、違和感を覚えました。それではっきりと「大学進学は違う」と思いました。
とはいえ、いきなり「独立」する自信もなく。どうしようか悩んでいた頃に、東京都の留学支援制度「次世代リーダープログラム」を知りました。進路選択を先延ばしにする意味でもカナダへ10ヶ月間の留学を決意し、その最中に青木さんのツイートを見かけたんです。
＜今年の弟子は決まりました。2年後まで弟子は取りません。条件は25歳以下男性、運転免許必須、それ以外は応募しないでね＞
それまで、青木さんのことや作品を知っていたわけではなかったのですが「すごく尖った面白いひとがいる」と一瞬で興味が湧いて。「25歳以下」しか条件を満たしていなかったのですが、逆に「いける」と感じたんです。それで、カナダからメールで履歴書を送りました。
青木さん：最初ナギ（小島さんの呼び名）からメールが届いたときは「この子、日本語読めないのかな」って（笑）なにせ履歴書を確認したら「18歳、女の子、私は今海外に居て… 」いや、全然当てはまってないじゃんみたいな（笑）でも「おもしろい」と思い、連絡しました。そしたら、帰国直後に多治見まで来てくれたんです。面接日が個展とかぶっていたこともあり、10分も会えなかったのですが「この子はいいひとだな」と会った瞬間に思えました。顔を見てすぐに「合格」と伝えて、その場を後にしました。
ーそれで青木さんのもとに弟子入りが決まったと。「陶芸家へ弟子入り」というと、どのようなお仕事なのでしょうか？
小島さん：青木さんのもとでは「Ryota Aoki Pottery」にまつわること全般ですね。制作の手伝い、土岐プレミアム・アウトレットの常設店の店番、イベント準備や詰め込み、運転、販売、梱包などです。
ーとなると、ご自身の制作に取り組む時間はなさそうですね。
小島さん：そうですね。でもここに来る前から「弟子見習い」の3年半は、自分の作品を作らないと決めていました。経験を積み重ねることを大切にしたいといいますか、自分を試す意味合いもあって。一回でも独立や職人の世界を志したことのあるひとが、3年半作品を作らなかったらどうなるのかなと。
ー結果、どうなりましたか？
小島さん：「自分の作品を作り、売る」ことに、猛烈な興味があるわけではなくなりました。弟子入り前や直後は「独立こそが正しい道」という価値観でした。でも、今は単純に青木さんのアシスタント業務が楽しいですし、刺激的です。「自分が」というよりは、他のひとを支えることを頑張ってみたいです。私の尊敬する岡本敏子さんの本を読んだことも「独立だけが答えじゃない」と思えたきっかけでした。
小島さん：青木さんを知ったのはツイッターの「弟子募集」の投稿でしたが、もしも「正社員」や「アルバイト」を募集していたとしても、私は応募していたと思います。形式は何でもよかったんです。青木さんを「尖っていて面白い」と感じた印象は今も変わらないですし、ひととして尊敬しているので、もう少しこの環境で学ばせていただきたいと思っています。
青木さん：ナギ、そういえばすごい笑うようになったよね。ここに来たときは全然笑わない子だったよね。
小島さん：人相悪かったです（笑）でも、他のひとからも「人相良くなったね」ってよく言われます。「ここ3年半で何が一番変わりましたか？」って聞かれたら「顔つきが変わりました」って今なら答えますね。
