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弟子入り

中村橋三郎(歌舞伎役者)

後継者不足が叫ばれ「弟子入り」という言葉すら聞かなくなってきた現代。それでも尚、職人の世界へ飛び込み、奮闘する若者がいる。10代、20代からその道をいく彼らは、これまでの選択をどう下し、今後どんな未来の展望を描いているのか。「弟子」に聞き、撮る。

06/14/2023

日本を代表する伝統芸能の一つ「歌舞伎」。その歌舞伎の世界へ、高校卒業後、八代目中村芝翫の元へ弟子入りした男性がいる。中村橋三郎さん、現在29歳。どんな幼少期や学生時代を経て、歌舞伎の世界へ入門に至ったのか。そして今、何にもがき、何を夢見ているのか。舞台前の限られた時間の中、話を聞いた。

ーそもそも、どういった経緯で、この業界に興味を持ったのでしょうか。

まず大まかに歌舞伎の世界へ入る形からお話しできればと思うのですが、実は歌舞伎の世界にもお笑い芸人さんが養成所に通うように、スクールが千代田区の国立劇場に存在していて。そこに2、3年在学しその後入門するのが一般的な弟子入りです。ただ僕の場合はその王道の形態とは少し違ってご縁と言いますか。子供のときに芸能プロダクションに入っていたんです。5歳のときに初舞台を経験し、歌舞伎に出演させていただくことも何度かありました。そのときに師匠の中村芝翫(以後親方)とご一緒する機会が何度かあり、すごく優しい方だなと思っていた記憶があります。「レッスンは嫌でも橋之助(現芝翫)さんに会えるから歌舞伎の舞台には行こう」という感じで。

それに、子供の頃は親方のお兄様、九代目福助若旦那にも大変よく面倒を見ていただいて。歌舞伎の舞台に出演が決まると、お稽古のため一ヶ月程度小学校を休んだり、遅刻や早退することもあって。高学年くらいからは正直、勉強についていくことも難しくなっていました。ただ楽屋に行っては福助若旦那が先生代わりに勉強を教えてくださり。そんなこともあってか、中学卒業のタイミングでは、将来は歌舞伎の世界か、髪の毛を触る美容師になりたいと考えていました。


ー歌舞伎役者か美容師か。

そうですね。元々僕自身すごく静かな子供だったので、子役としての芸能活動をそこまで楽しいと感じていませんでした。ただ当時から、歌舞伎の舞台に立ち、見る、お客様の表情や拍手の感じはたまらなく好きで。今もですが、本当に鳥肌が立つんです。実は中学卒業前に一度、親方に弟子入りを直談判したのですが、そのときは結局進学を優先し、高校卒業後の2012年に正式に入門に至りました。

ー18歳から中村芝翫さんの元へ弟子入りしたと。とはいえ「歌舞伎役者に弟子入り」とは、どのようなお仕事なのでしょうか。

親方の楽屋裏のお手伝いから、舞台上・舞台裏の演出補助、黒衣の担当など、ありとあらゆることを担当します。例えば楽屋裏の着替えや化粧のお手伝いにしても、衣装さんや床山さんと言った専門職の方にも楽屋に来ていただき、舞台に乱れが出ないよう、調整したりもしています。

ーなるほど。ただ、橋三郎さんの場合は、弟子でありながら、同時に一歌舞伎役者としても10年が経過したと。

そうですね。歌舞伎役者は弟子入りをして10年の下積みを経験し、なおかつ親方のお許しが出ると、名題試験というテストを受ける資格が与えられるんです。名題試験とは、合格すれば『私は一歌舞伎役者のプロです』と改めて公言できるようになる、そんな試験です。名題の役者になれば、舞台上でセリフを与えられ喋る役になり、更に経験を積みステップアップしていきます。既に下積みの10年は経過したので、親方のお許し次第ではその試験を受けることができます。今はそこに向けて稽古を重ねている日々ですね。


ー舞台に立つことについても少し教えていただきたいのですが、舞台上で演技をするとはどのような感覚なのでしょうか。

これは僕の感覚ですが、舞台に立っているときって、実は演技のことをあんまり頭で考えたりはしていなくて。お稽古をして覚えていくことを「染み付く」と言うのですが、目を瞑ってでも全ての演技ができるくらい稽古を繰り返し身体に染み込ませて初めて、人前に立てるんじゃないかと思っています。自分を信じていないと舞台は本当に立てない場所です。中には頭で冷静に考えて「ここで花道を2歩歩いたら、この形。次、3歩下がったらこの形」と演技に取り組んでいるひともいるとは思います。ただ僕は緊張するし、そんなこと考えてられないんですよね。「緊張してしまうのはまだまだ稽古が足りてない証拠だ」と親方もよく話されています。

ー最後に、今後の目標をお聞きできますか。

何年後、何十年後になるかは分からないですけど、やはりいずれは親方と、そして親方の坊ちゃん方とも、相手役など主要なお役を勤めていきたいです。もっと大きな目標としては、この歌舞伎というエンターテイメントを世界中のひとに発信する。その一役を担える役者に成長したいです。