
江戸時代と見間違うような土塀や白壁が広がり、黄金色の夏みかんがたわわに実っている。日本海に面し、城下町の面影を色濃く残す萩。静寂のひととき、あるいは自然と風景の調和を感じさせる風景画を描いたのはディーン・アイザワだ。
「今回、『PAPERSKY』に描いたのは、どれも行ったことがない場所。山口があれだけ歩きがいがあるなんて知らなかったし、萩のきれいな町並みも、長門湯本の歴史ある温泉郷も、資料写真をもらって初めて見た。それでも、どれもよく描けたんじゃないかな」

アイザワは高校までを都内のインターナショナルスクールですごし、大学はサンフランシスコの美術大学を卒業。風景画を中心に、イラストレーター・水彩画家として雑誌や広告などで活躍の場を広げている。
「風景を描く場合、光や影、空気感が大切なヒントになる。ああ、だから今回、山口の夕暮れを描いた一枚は難しかったかな……もらった資料写真が昼間で、それを夕方のイメージに仕上げないといけなかったから。ほかは自信があるんだけどね、あれ以外は(笑)」

アイザワが口にした一枚は、山口の街外れに佇む「紅花舎」を描いたもの。美しいグラデーションに彩られた空の下、瀟洒なゲストハウスに灯がついている。デジタルと違って、水彩画は簡単に描き直しができるものでもない。それでもアイザワの言葉とは裏腹に、旅人を待つ空間の静けさが見事に描かれている。
「お題や制約をもらって描くからこそ、クリエイティビティが引き出されることはあると思う。もちろん、嫌な仕事だってなくはない(笑)でも、『PAPERSKY』はそうじゃないから。もっとがんばって、今度はいっしょに旅ができるようになりたいな」

今後の豊富を語ったところで、アイザワが水彩画を実演してくれた。渋谷の街並みを描くスケッチ。愛用の道具は使い込まれ、彼が傾倒するULハイキングの装備を思い起こさせる。ものの15分もすれば、モレスキンのノートに渋谷の街並みが浮かび上がった。仕事のように本格的な描き込みと即興的なスケッチで違いはあれど、風景の見方は通底するはずだ。

「水彩画を描くのは、風景を色で捉えるということ。渋谷のようなビル群も、山口のような自然豊かな土地も、それは変わらない。誌面に描いた山口の色彩を楽しんでもらえたらうれしいな」
ディーン・アイザワ
1993年生まれ。東京都出身。イラストレーター・風景画家。サンフランシスコ・アカデミー・オブ・アート大学ファイン・アート・ペインティング科卒業。雑誌や広告などでイラストを手がけるほか、ハイキングやランニングに傾倒し、非営利アウトドアコミュニティ「open country」のオーガナイザーも務める。