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イラストレーター

ディーン・アイザワ

ディーン・アイザワは、東京を拠点に活動するフリーのイラストレーター兼水彩画家だ。彼の作品を見ると、私たちは瞑想をしているかのようなマインドセットになり、自分自身と向き合うことを促されている気持ちになる。

10/24/2023

ー 簡単な自己紹介をお願いできますか?

もちろん。生まれも育ちも日本で、高校を卒業してから、サンフランシスコのAcademy of Arts University に留学。2016年に帰国して、2年間ブランドコンサルティング会社で働いた後、2020年にフリーのイラストレーターになった。コワーキングスペース、みどり荘で2年半コミュニティーオーガナイザーとしても活動していたよ。

昨年は、ルーシー・デーモンさんとワクイシュンさんが設立した非営利アウトドアコミュニティ、Open Country の旅行実施にも携わるようになった。プランニングから、グループの引率まで全てに関わっていて、この活動に参加してから1年になるかな。ハイキングと旅行には4年くらい前からハマり始めて、世界で最古の湖とされている琵琶湖の周りをサイクリングしたのは最高の経験だった。屋久島も行ったな。富士山にも登ったけど、高山病になっちゃったので、途中でリタイアしたんだ。


ー 富士登山はかなり大変だったようですね。

うん、結構大変だった。標高3,000メートルの地点でもうダメだった。400メートルほど先に頂上が見えたけど、もう無理だなって思った。この経験はキツかったな。高い山に登るって大変だなって痛感した。

ー あなたの作品のモチーフは風景が主ですが、何があなたを惹きつけるのでしょうか。

多分、長野にある父親の小屋へ頻繁に通っていたことからすべてが始まった気がする。とても自然が豊かな場所だったので、この場所での体験は僕の作品に影響を及ぼしていると思うし、静かで自然に囲まれた環境を好むことも、この小屋で過ごした経験からだと思う。

2021年の個展、Third Home は、基本的に風景に対するオマージュ。2つの国のカルチャーで生じる複雑性をなんとか乗り越えながら、いつでもホッとできる場所を描いている。

個展での僕の挨拶文にこの関係性がいい感じで示されていると思う。

『なぜ、風景なのだろう?それは、心の安らぎ、静寂、調和だ。2つのカルチャーの間で自分のアイデンティティを見つけることは、僕を混乱させる。これは自分にとって大きな問題だ。この2つの世界の間、まるで大地と空が交わる地点にいるような感覚で、僕は静寂を描きながら、どんな時でも癒しと一体感を求めていく。Third Home とは、このような時間と感覚を表す言葉だ』

風景は僕の一番お気に入りの主題だけど、今は日々の何気ない一瞬を語りやストーリーで捉えることに関心がある。静物、あるいは映画の1シーンを思い起こさせる繊細な部分を捉えたものかもしれない。今はストーリーテリングの要素があるいろいろなテーマを探すことが楽しみ。


ー なぜ「Third Home」というタイトルにしたのでしょうか。

これは「サードカルチャーキッズ」にちなんでつけたんだ。僕は日本に生まれたけど、英語を日常的に話すコミュニティーで育って、インターナショナルスクールに通っていたからね。

ー どのような感じで作品を作り始めたのですか。

子供の頃から、兄がスケッチしているものを真似て絵を描いていた。10歳か11歳の時に、ハワイで日本人アーティストのTom Tomitaさんが指導する水彩画教室に通ってたんだけど、偶然にも、その後、僕は彼と同じ大学に通うことになったんだ。彼は水彩絵の具とペンやインクをミックスする手法も教えてくれて、すごくいいなと思った。自分が使いたい材料を選ばせてくれたので、水彩画にも夢中になった。


ー それから、水彩画でずっと作品を作り続けてきて、どのように変化してきましたか。

最初は、昔ながらの水彩絵の具、ペン、インクを使って描いたり、デジタルペインティングもやってた。でも今は、水彩画にフォーカスしてる。ペンやインクを使うとカチッとした作風になるけど、水彩絵の具をメインにすると優しげで緩やかになる。水彩画は、乾いた時には修正ができないので、忍耐が必要だし、ある程度、完成図のようなものが事前に必要になる。ずっと書き続けていて、忍耐力もついたし、予期せぬ風合いも受け入れることができるようになった。水彩画はミスが許されないものとされているけど、最終的な出来映えに満足することで、許しも得られている気がする。

ー 水彩画で一番好きな点はどこでしょうか。

持ち運びが簡単で便利な点かな。旅先で簡単に描けるし、場所も取らない。歴史的に見ると、水彩画は調査目的や、野外で絵画を描く時に使われた手法らしい。僕は水彩画のコンパクトさが気に入っているし、油絵のように匂いが強くない点もいいと思う。


ー お気に入りのブランドや筆はありますか。

いつもは Winsor & Newton の水彩絵の具と、筆は、細かい線が描けるラウンドブラシを使ってる。ブランドに対する好みは特にないかな。アーティストの好みにより選ぶ道具は異なると思う。

ー 映画が大好きと聞きましたが、映画があなたの作品に影響を与えることはありますか。

うん、映画とかいろいろなものから影響を受けているよ。僕は自分が映画を撮ったら、どんな作品にするだろうとしょっちゅう夢想してるし、撮影の手法についても思いを巡らすこともある。映画は絵画に影響を与えると思うし、逆もまた然りだと思う。エドワード・ホッパーは僕のお気に入りの画家の1人で、孤独感と静謐な美しさが感じられる彼の作品が大好きだ。


ー アーティストとして影響を受けた人、そして、お気に入りの映画監督を教えてもらえますか。

映画撮影監督のロジャーディーキンスからは影響を受けたな。映画監督では、ドゥニ・ヴィルヌーヴが大好き。彼がロジャーとタッグを組んだ「プリズナー」は大好きな映画だ。この作品のビジュアルはエドワードホッパーを思い出す。ホッパーの作品で特にお気に入りのものとして挙げられるものはないけど、灯台やニューヨークの北部が描かれているものが特に好きかな。


ー アートを通じて、あなたは何を届けたいと思っているのでしょうか。

特に届けたいメッセージとかはないんだ。アートの解釈は自由だと思うし、見る人に見方を強要したくない。人それぞれが、自分の人生と照らし合わせて、アートを解釈すればいいと思う。アーティストとしての僕の役割は、僕が表現したいことで人とコミュニケーションして、見る人それぞれが自分の思いで解釈してくれることかな。僕は語るべきストーリーはあるけど、受け取り方は各自の自由だと思う。

例えば、エドワードホッパーの作品についてだけど、描かれている光をネガティブで悲しいイメージとして捉える人がいる一方で、僕のようにそれが美しく、瞑想的なイメージとして見る人もいる。最終的には見る人の自由だと思うよ。

ー インドアとアウトドア、どちらで描くのが好きですか?

それはどんな作品を描きたいかによるかな。大きなサイズで、より繊細な表現をしたいときはインドアで描きたいと思う。その場の一瞬の輝きのようなものを捉えて描きたいときは、アウトドアで描くのが好きだな。周りの環境が絶えず変わっていく中で、一瞬を捉えることは楽しいので。


ー 外で絵を描いているときに、何か面白い出会いはありましたか?

普通、日本では誰も話しかけてこないけど、アメリカでは僕の作品に直接コメントしてくれる人がいて、いいなと思う。でも、東京でいきなり知らない人が話しかけてきて、いろいろ個人的なことを訊いてきて、ちょっと気分が悪くなったことがある。そんなことがあると、ちょっとこっちも心配するようになって、用心深くなるよね。

ー なるほど。フリーランスのアーティストとして、スケジュール管理はどうしていますか?1日の始まりはどんな感じでしょうか。

毎日違うスケジュールで動いてる。特に決めているルーティーンもないよ。他の人が生産性のある日々を送っている間に、僕はといえば集中力に欠けている日々を過ごしていることもある。毎朝、コーヒーを飲みながらメールをチェックすることから1日が始まるけど、それ以外は毎日その日によって違う。ちょっと休んでみたり、走ってみたり、アーティストにあるあるだけど、やる気に満ちた時間が結構あったり、自分を冷静に見つめたりすることもあるね。


ー 今まで受けたアドバイスの中で、一番よかったものは何でしょうか。

大学の先生に、僕は技術があるけど作品に詩情がないと言われたんだ。このアドバイスを受けてから、ストーリーテリングの重要性を認識したし、自分のアートに深みを増すことができたと思う。

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