第5回となる今回、訪れたのは、新潟平野の西、豊かな田畑と日本海を背に広がる弥彦村。古くから霊山として崇められてきた弥彦山のふもとにある村では、2000年以上の歴史を誇る彌彦神社を中心に、村は信仰と暮らしが寄り添うように営まれてきた。
春は淡い桜並木に彩られ、夏には花火の音が響き、秋は燃えるような紅葉が里を包み、冬は静かな雪景色に時を止める。四季ごとに色を変える姿は、古くから人に寄り添い、現代の私たちに「暮らしと祈りの近さ」を改めて思い出させてくれる。

今回の旅の案内役は、国内外を旅しながらキャンバスを広げてきた画家のアニー・玲奈・オーバマイヤー。東京で広告業界を経て、故郷を舞台に新たな地域づくりを仕かける佐藤行成。そして海辺の町・寺泊で、書店兼喫茶「Rural Reading」を営む篠宮航太。それぞれの生き方や活動は異なりながらも、同じ眼差しで弥彦に向き合う3人だ。



神と自然が日常にある場所
村の入り口にそびえる高さ30メートル、両部鳥居としては日本一の大鳥居。その圧倒的なスケールをくぐれば、参道の先に、弥彦山の山裾に抱かれた彌彦神社が姿を現す。
「神も自然も人も、すごく近いんです」
そう語るのはアニーだ。2年間、バンで旅をしながら水源を巡り、湧き水を求めて各地で絵を描いてきた彼女にとって、弥彦は“流浪”からひととき腰を落ち着けた場所。いまは文化財「旧鈴木家住宅」にアーティスト・イン・レジデンスとして身を置き、約1年間もの間、村の日常に交わりながら制作を重ねる。



「村の人が弥彦山を見て、天気を言い当てたり、祭りの日に家々が祝い幕や提灯を掲げる様子を見たときに、京都で育った私は懐かしさに似た、でも京都とも少し違った“不思議な近さ”を感じたんです。きっとこの村の魅力は、信仰と人の近さ、山と人の近さ、人と人の近さが生んでいるんだと思ったんです(アニー)」

その感覚はきっと、村全体を包む、結びつきの濃さが生み出すものなのだろう。弥彦出身の佐藤もそれに頷く。
「祭りは年間を通して村民たちが準備する営みなんです。世代や属性を越えて花を作り、歌や踊りを受け継ぐ。働きながら会合や練習に参加するのは大変なときもあるんですけど、都会では置き去りにされがちな“つながり”を、この村では当たり前のように育てていけるんです(佐藤)」

その姿勢からは、伝統を未来へと橋渡しする意思がみてとれる。
「この村の景色は、尊いんです。誰かが受け継いでいかないとどれも残っていかないんです(佐藤)」
弥彦に通じるエネルギー
弥彦山の稜線を眺めながら海岸線を進むと、隣町・寺泊にたどり着く。漁師町としての賑わいを残すこのエリアのはずれにある小さな農村地帯で、書店兼喫茶の「Rural Reading」は営まれている。
この店に集うのは、本を手にゆったりと時間を過ごす人々。店主の篠宮にとって書店は、地域と人をつなぐ装置のようなものだ。


「エネルギーの源というか。暮らす人も、商いをする人も意識しているかは別として、弥彦山や神社から何かを受け取っている気がしていて。私自身にとっても特別なパワースポットなんです(篠宮)」
その一番の理由はカフェ「binn」の存在だ。
ヒトやコトが交わる場
樹齢800年以上の欅の大木を目印に上諏訪神社そばに位置する小さなカフェ「binn」。発酵食品やコーヒーにこだわり、2019年のオープン以来、落ち着いた空間で音楽や家具、雑貨、食器など店主のセンスが光るお店だ。独自のインテリアが居心地の良さを演出し、弥彦訪問の新たな拠点として人気を集めている。



実は、「Rural Reading」の内装を手掛けたのが、このお店のシェフでありながら、かたや空間のプロデュースを生業とする店主の森田幸尚だ。篠宮にとって、彼は指針となる先達で、パワーをもらえる人なのだ。村の重要文化財の一部をリノベーションし、アーティスト・イン・レジデンスという枠組みを仕掛けたのも、今回の案内役の3人をつないだのも彼なのだから驚きだ。

「家具のリペアとコーディネート業の時代もあれば、トップシェフの元で下積みをした時代もあります。この『binn』をはじめて7年目、空間のお仕事も少しずつ増えてきましたし、ようやく今までやってきたことがつながって、何屋かは説明できないですけれど(笑)、好きなことをカタチにできるようになってきたように思います(森田)」

日常とフィールドを横断する一足
弥彦の暮らしは、山裾から田園へ、そして海辺へと絶えず境界線を行き来する。そんな日々を足元から支えるのが「DANNER FIELD R」だ。アウトドア仕様の防水性と耐久性に加えて、街にも似合う無駄のないデザイン。雨や雪に踊らされる新潟の天候にも頼もしく、山道を抜けてそのまま喫茶店に入れる安心感もある。まさに「自然と生活の境界がない」弥彦のスタイルと響き合う一足といえる。




未来へ手渡す風景
アニーは言う。「絵を描くことだけが、創作ではないと感じています。その前に“暮らし”がある。弥彦村で過ごす日々のひとつひとつが、生み出すことにつながっている気がするんです」。彼女が見据えるのは、自らの絵が誰かにとっての“新しい窓”になること。「私の絵が、その場にはない風を吹き入れるような存在であれたら」という願いがある。
佐藤は「若い世代がこの土地を誇れるように、新しい仕組みを積み重ねたい」と展望を描き、篠宮は「ローカルだからこそ存在する意義のある書店を、ここで続けていきたい」と語る。

弥彦村では近年人口減少が進み、特に若い世代の流出や高齢化による農業担い手不足が課題となっている。
「美しい田園風景を作ってくれている米農家の5割以上が10年後に75歳以上に達するなんてデータもあるんです。ここ数年で何ができるかが大事なんです(佐藤)」
地域の活力を維持するため、創業・農業支援など施策が進められているが、集落の維持と産業の継承には新しい仕組みや人のつながりが不可欠。いま何を積み重ねられるかが未来を左右する
外からの視点で村の魅力を再発見するアニー。内側から未来を組み立てる佐藤。隣から寄り添い、広げていく篠宮。それぞれが違う場所から光をあてながらも、響き合う願いはひとつだ。
「この風景を未来へ手渡したい」。
神と自然、人と人。その近さが織りなす弥彦の日常は、きっとこれからも、どこかあたたかい、新しい物語を生み続けていくはずだ。
YAHIKO Guide
Annie Lena Obermeier
旅する画家。アメリカ人の父と日本人の母のもと京都で育つ。学生時代にポートレートオーダーの制作を始め、画家として活動を開始。2020年より定住しない暮らしを続け、車にベッドと画材を積んで日本各地を巡る。2025年6月からは新潟県弥彦村のアーティスト・イン・レジデンスに参加し、明治期の日本家屋「旧鈴木家住宅」に滞在。約1年間、弥彦を拠点に創作活動を行う。
https://www.instagram.com/annielenaobermeier
篠宮航太
書店主。新潟県上越市出身。関東への進学・就職を経て、風土と暮らしに根ざした生活をつくるために新潟県長岡市へ移住。築70年の民家を改装し、2022年に喫茶併設の書店「Rural Reading」を開業。店名は「田舎な読書」の意で、本と喫茶を通して都会的な文脈に依存しない読書の場を育んでいる。集落の生活者として持続できる書店のあり方、地域との関わりを探る。
https://www.instagram.com/rural_reading
佐藤行成
新潟明訓高等学校、法政大学社会学部メディア社会学科卒業。PR会社、広告会社を経て、2022年に家業のわっぱ飯屋「割烹・お食事の吉田屋」に入社。2024年6月、地域活性化を志し、ヤヒコロジー株式会社を設立。観光協会、自治体、大小様々な企業のブランディングやPR支援を行う。
https://yahiko-yoshidaya.com/










