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CONTE

日々の中にひと息を、日々の中に物語を

琉球王国の王都として何百年も栄えた首里の町には、依然王朝の気配が感じられる。2019年の首里城火災は沖縄を愛する世界中の人々に大きな衝撃を与えた。しかしながら、王都としての存在感は今もなお健在だ。そんな首里の散策には徒歩が向いている。そして、徒歩の散策に欠かせないのが、ひと息を演出してくれるカフェだ。

11/18/2021

2015年にオープンしたカフェレストラン「CONTE(コント)」は、モノレール 首里駅から徒歩5分ほどの場所に位置する。フランス語で「物語」を意味するその店名同様、提供される食から器まで、つくり手のストーリーが感じられる。店内で焙煎されるコーヒー、沖縄の食材を使った料理、そして沖縄の作家によって作られたカップやプレート。「沖縄を食べる」。そう言っても過言ではないほどに細部までのこだわりが気持ち良い。

石畳が見え隠れする首里の裏通りに「CONTE」はある。お店に足を踏み入れると、ひと息を促すような開放的な空間が奥に広がる。テーブルが並べられ、ピアノも置かれている。高い天井のあるその広々とした場では定期的に、食事をしながらライブを楽しむ「夜コント」や、満月の夜に開催するナチュラルワインと食事の会「満月コント」と題したイベントも開催されるそうだ。

椅子に腰かけると、キッチンにある大きな窓から南国の香り漂う借景が広がっている。借景とは日本庭園などに用いられる技法のひとつで、背景にある山や森の風景を庭園の構成要素として盛り込むことを指す。無論、ここ「CONTE」は庭ではなく、首里の町なかにあり、山の稜線が背景にあるような場所ではない。しかしながら、大きな窓から借用された景観は確実にこの場所の一部になっており、繁茂した亜熱帯の植物は、沖縄にいることを確かなものにしてくれる。

乾いた喉を潤したあとには、窓の外の風景に誘われて首里の町を散策しよう。首里の町は、標高130メートルの小高い丘に位置する首里城公園を中心に広がっている。そもそも、王都が首里になったのは、湧水などの水源が多く存在したことにあるとか。玉陵(たまうどぅん)、金城の石畳、アカギがそびえ立つ御嶽など、店主の五十嵐さんもこの起伏に富んだ地形や物語に探究心をくすぐられたそうだ。

そして今、その探究心は「CONTE MAGAZINE」という雑誌として体現されている。2019年から1〜2年に一冊のペースで、「日々の中の物語」を包括的な視点で綴っている。「CONTE」が紡ぐ物語は、コーヒーや食に始まり、首里の坂道のようにアップダウンを繰り返しながら、確かな足取りで美しい景色へと誘ってくれるだろう。

text | Mario Anton photography | Hiro Taira