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Papersky Climbing Story
赤岩青巌峡

ビデオグラファーで熱心なクライマーであるナカジマユウが仲間たちと行く「岩場を巡る旅」。山、川、海と豊かな日本の岩場で叫ぶ、彼らの姿を追う。

09/08/2023


航空会社のセール案内を見てすぐに「北海道に行こう」と決めた。北海道でクライミングをする、ということに憧れていた僕たちの計画はどんな仕事よりも段取りよく進み、すぐに実現となった。

5月半ば、他の仲間たちより少し早く北海道に入り、道東のトレイルを2日間かけて歩いた僕は、明日から岩旅が始まるのにもかかわらず、釧路のクライミングジムでレンタルシューズを借りて登っていた。興奮が抑えきれない僕は、居ても立ってもいられず肩甲骨を動かしにきたのだ。

レンタルシューズでムキになって登っている僕をおもしろく思ったのか、店員が声をかけてくれた。「トラキヨ」という名前の彼は、元々関東のジムで働いていたらしい。明日からいく岩場のおすすめの課題を聞き、これから始まる旅に最後のスパイスが加えられた。ありがとうトラキヨ!

3日後、僕は北海道らしいまっすぐな道を運転している。合流した仲間たちと空港止めで送っていた靴やクラッシュパッドも乗せて、目指すのは、占冠の「赤岩青巌峡」だ。

地図を頼りに、占冠の道の駅に到着。建物の割には広い駐車場で、最低気温を示す大きな温度計があった。車を駐車場に停めて歩いていると、急に声をかけられる。トラキヨだ!

予期せぬ早さの偶然の再会。初めての岩場に行くのに、地元のクライマーと一緒だということ以上に心強いことはない。赤岩への道は、土砂崩れによる通行止めの標識が出ていた。自分たちだけだと、そこで引き返していたかもしれない。標識の横を過ぎ、山に入っていく。

トンネルを抜けると、いきなり目の前にその名の通りの赤い岩壁が現れた。「北海道のクライマーは歩かない」と地元のクライマーがいう通り、岩へのアクセスは驚くほどいい。道路から3歩歩けば岩に触れられる。僕の家のベッドからトイレよりも近い。

駐車場には綺麗に整備されたトイレもあり、地元のクライミング文化への理解の高さが見える。

トラキヨとその仲間たちにぐるっと一周、岩場を案内してもらう。赤岩青巌峡は山側から河原までチャート(細かい石英からなる硬い岩石)の岩群が広がっている。その岩の多くが、珍しく綺麗な赤色をしているのが特徴だ。

おすすめの課題をいくつも教えてもらったが、2日間ではとても触りきれなさそうだ。案内してもらった後に、熊よけの鈴を貸していただいた。こんな道路の近くの岩場でも、クマとの遭遇のエピソードが聞けるのは、やはり北海道。酷い別れ方をした恋人と同じく、遠くからはちょっと見たいが近くでは絶対に会いたくはない。

教えてもらった課題でのセッションを楽しみ、みんな無口になるまで登った後は美瑛唯一の銭湯「松の湯」に行って汗を流した。いつもタトゥーがある僕でも入れるお風呂を探すので、結果的に銭湯を選ぶことが多い。松の湯にはサウナもあり、血行を良くし疲れを取りたい僕たちには最適で、地元の人に愛されている素晴らしい銭湯だった。

翌日はトポ(岩場のルート図)を開いて川沿いに下りた。赤岩青巌峡のトポの発売は2022年の春で、まだ1年しか経っていない。地元のコミュニティで発行され、売り上げの1割は岩場の清掃活動に寄付されている。このトポの存在は今回の目的地を決めるのに役にたった。最終日のこの日もみんな無口になるまで登った。

川で手を洗い、岩についたチョークをブラシで落とす。

登れなかった課題、おすすめされたが触れなかった課題、そしてまだ出会ってもいない無数の課題に会いにまた来よう。クマは絶対に避けたいが、トラにはまた会いたい。

photography & videography & text | Yu Nakajima