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重森千靑

日本の庭園の禅と美

 

08/08/2022

自己紹介を求められると僕はたいてい、重森家の三人目の作庭家です、といいます。三代目ではなく。僕の祖父、そして父も作庭家でしたが、しかし家督だからといってそのまま継げるものではありません。父はよく僕に、本当に興味があるなら作庭家を目指せばよい、と言いました

ー 重森千靑

千靑の祖父、重森三玲は20世紀を代表する作庭家だ。それまで300年~400年もの間、特にこれといった進展がなかった日本庭園をよみがえらせた人物である。彼は作家として、あるいは研究者、詩人、書道家、造形作家、建築家でもあり、また10代の頃からずっと華道や茶道をたしなんだ面もあり、茶人のような心理性をもった人だった。しかし、何といっても彼が名を遺したのは、枯山水庭園の作品だ。

大学を卒業した千靑は、アルバイトをしながら、バイクと旅行に熱中する日々を送った。

不思議なもので、旅の先々でとりあえず有名な庭園だけは見に行っていた。バイクへの関心は、彼をサーキットでのレースに出場させるまでに推し進めたが、同時に彼はバイクの維持整備にかかる金銭的負担を感じていた。彼は徐々にバイクの整備を独学で習得し、レーシングメカニックを仕事にしようかと真剣に悩んだ時期もあったという。しかし、堅実で安定した仕事に就かないまま、サーキットレースでの生活を続けることは難しかった。

ちょうどその頃、父は千靑に日本庭園での測量を手伝わないかともちかけた。わずかな経験だったが、千靑の日本庭園への関心に小さな火がともった。後になって彼は、それらの庭園は普通の人ならば訪れることすらできない庭園であることを知った。父をつうじて千靑は、次第に造園業に関わるようになり、古刹や古い神社を訪れたり、庭園の勉強会に参加し、専門誌の編集に携わったりするようになった。多面的な経験を積むことは、彼が意欲的に作庭家を志すための推進力となった。

千靑の祖父であり、作庭家の重森三玲氏

あるとき、彼に川越で造園工の職人として手伝う仕事が舞い込んだ。
僕は身体を動かすタイプの仕事がいつも好きなのです、と千靑は言う。

「川越で6年間を費やした後、やっと父のもとで本腰をいれて学ぼうとした矢先に、父は亡くなってしまいました。自分が放り出されたように感じましたが、同時にこの仕事をやるしかないとも感じました。

人が作り出した自然ですが、大地が創造した自然と共生させることによって、より一層の広がりのある空間へと変貌していくことが魅力的です。更に時間、季節、天候によって異なる姿を見せてくれますが、それは一つとして同じ姿がないことに魅力を感じます。

ある一定の条件が備わった時しか見られない庭園の顔、そこに出会えることができれば、これ程感動的なことはないと思っています。自身が思い描いた絵を大地に立体的に描くことができ、それが天候や時間によって時々刻々と変化していくことが魅力です」

「今後、やってみたいのは、平面と立面の融合、吸収されていく庭園、完全に伝統に則りながら作り上げた庭園を爆破することなどです。最近高まっている武装化に対してのアンチテーゼです。戦争によって一瞬にして壊されてしまう文化的空間の悲惨さを訴えたいのです」

「古庭園から学ぶことはたくさんあります。それは伝統という時間が育んだ庭園における基本を知ることができるからです。日本庭園に従事するからには、古庭園を徹底的に知り、そこから感じ取ることが必須条件だと思います。そしてそれを三玲は自身の解釈の中で発展させました。

ただ、それは三玲の考え方であり、彼の感性なので、父や私とは異なるものとなります。そこで基本を知った上で、自分自身の考えを組み込みながら発展させていくことによって、千靑の考えによる新しい庭園が生み出されるのだと思っています」

「革新と伝統は共存できるものと考えています。ただ、何でもかんでも好き勝手に新しい事をやって、それで革新だと思うことは大間違いです。これは現代アートの世界と同様です。やはり伝統を知った上で、そこからどのように突き詰めて崩していくのか、そして最後に完全破壊ができるのか、これらのことは日本庭園の本質を知った上でないと、単なる破壊だけで終わってしまい、そのようなものに革新という言葉は当てはまりません。ここが大切なところかなと思うのです」

「伝統的な仕事についているということは、日本文化の一端を担うことだと考えています。

但し、単に伝統にがんじがらめになっているようでは、そこから新しいものは発展しません。常に歴史を振り返って正確に語れること、そしてそこから次なる新しい鼓動を生み出していけばよいのか、この二本の柱が重要であり、それを今の自分に当てはめながら、更に次なる世代にこの考え方を引き継いでもらい、僕自身を飛び越えていく新しい創作をしていく世代を育てていく必要があると思います」




このストーリーを終えるにあたり、僕の頭に浮かんだ本で締めくくろう。
ひとことで言えば、ものごとの価値と本質について書かれた傑作だ。

・「禅とオートバイ修理技術」
 ロバート・M・パーシグ著 (ハヤカワ文庫NF) 



【重森千靑氏 おすすめの庭園】

重森千靑氏に、読者が訪れることのできるおすすめの庭園を挙げていただいた。もちろん、京都には素晴らしい庭園が多いが、PAPERSKYの読者向けにあえて京都以外で選んでいただいた。

毛越寺庭園(岩手県)
栗林公園(香川県)
旧徳島城表御殿庭園(徳島県)
阿波国分寺庭園(徳島県)



高木康行 Yasuyuki Takagi
東京生まれのフォトグラファー、映像ディレクター。ニューヨーク・ブルックリンへ留学、メディアアートを学ぶ。卒業後、アシスタントとして世界各地をまわりながら、約10年間を過ごしたのち独立。2012年に初の写真集『小さな深い森-Petite Foret Profonde』、2015年に写真集『植木』を出版。映像ディレクター作品として『どうすればトム・サックスみたいになれるか』他多数制作。現在は国内外で精力的に制作活動を続けている。

text & photography | Yasuyuki Takagi