
都市部を軽快に走れる走行性能と、手早く折りたため、コンパクトに持ち運べるという実用性を兼ね備えたBromptonと出かける、日本のローカル旅。今回のデスティネーションに選んだのは静岡県の牧之原台地から駿河湾沿岸部を経て駿府城を結ぶルートだ。


スタートは、牧之原台地の入り口にあたるJR金谷駅。ここで今回のナビゲーター、小林拓矢・梨恵さんと落ち合う。拓矢さんはオブジェを中心に制作する造形作家、梨恵さんは水引を現代的にアップデートした装飾品を手がける作家として活躍しており、静岡市内で「motonaga」というギャラリーショップを営んでいる。
長く東京に暮らした後に、縁あって拓矢さんの地元である静岡県に拠点を定めた二人だが、地元だからこそ県内を旅する機会は少ないとか。自転車に乗って地元を旅してみれば、ローカル視点での新たな発見がもたらされそうだ。



駅前で落ち合った後、Bromptonを展開してさっそくライドをスタート。駅から牧之原大茶園まではゆるやかな登り坂が続く。大茶園まで上りきると、そこにはどこまでも続く一面の茶畑が!県外からの旅人はもちろん、ローカルさえも思わず歓声をあげる素晴らしい眺望が広がっていた。
4月下旬~5月上旬の新茶シーズンには茶葉の新緑が輝き、一帯が芳しいお茶の香りに包まれるとか。そんな茶畑の中、山小屋のような趣きの喫茶店が現れる。煙突からはもくもくと煙があがっていた。

1972年から静岡市で自家焙煎コーヒーショップを営んできた店主が、20年前にこちらに移住してスタートしたのが「自家焙煎アルム」。築150年の古民家の風情とコーヒーの焙煎の香りがぴったりマッチしている。常時10種類程度のスペシャルティコーヒーとオリジナルブレンドを用意しており、素朴なムードの北欧の器で提供してくれる。



「アルム珈琲店」から東海道の菊川坂石畳を横目に、大井川方面に進むと、吹き寄せ壁が印象的なモダンな建物が見えてきた。「ふじのくに茶の都ミュージアム」は国内外のお茶の歴史、民俗や文化、静岡のお茶づくりの背景を伝えるミュージアムで、館内では茶道体験や静岡茶の淹れ方レクチャー、世界のお茶体験などを提供している。
せっかく“茶の都”静岡県を走るのだから、コーヒーだけでなくお茶もおいしくいただきたい。というわけで、さっそく館内へ。ウェルカムティーをいただいて施設内を見学する。


見学後は牧之原台地を軽快に走る。途中、「蓬莱橋」という看板に従い、一気に坂を下れば、大井川にかかる全長897.4mの蓬莱橋が見えてくる。世界一長い木造歩道橋としてギネスにも認定されている蓬莱橋は橋の上から眺める富士山も素晴らしく、観光客にも人気のスポット。歩道橋だが、自転車も押し歩きで通行できる。
5,000万㎡という広さを誇る牧之原大茶園は、明治初期、版籍奉還に伴って職を失った250人あまりの士族たちによって開墾されたもの。その開墾人たちの要望によって架けられたのが、この蓬莱橋だという。完成当時から開墾関係者以外からは通行料金を徴収しており、現在も賃取り橋として渡橋料金(大人100円)を払うシステムになっている。

突風吹き荒ぶ蓬莱橋を渡りきったら、大井川沿いに整備されている「大井川マラソンコースリバティ」をのんびり走って大井川港まで。大井川港から焼津漁港に向かう途中、「ESORA COFFEE」でコーヒーブレイク。オープンして5年目を迎えたこちらは、この周辺では珍しいスペシャルティコーヒーの専門店だ。
店主の鳥居恭平さんがコーヒーの焙煎業を通じて出合った、フルーティな浅煎りコーヒーの魅力を、深煎りのコーヒーの味わいしか知らない人に伝えたいとスタートしたそう。メニューに載っているのは4種類程度だが、好みを伝えると異なる豆も提案してくれる。鳥居さんとのおしゃべりを楽しみながら、好みの豆を探してみよう。






「ESORA COFFEE」から先は駿河湾沿いに設けられた防波堤の上や松林のなかをぐんぐん進む。右手には太平洋と伊豆諸島、目の前に富士山がどーんとそびえるさまにテンションがあがる。石津浜公園で防波堤を降り、焼津市街地へ。小川港の先で浜通りに入ると、そこはのどかな港町の風情である。


浜通りは駿河湾に沿って南北に伸びる街道と、その街道を中心に形成された細長い集落のことを指す。焼津漁業発祥の地といわれ、かつお節や水産加工工場&加工品の小売業を営む店舗が点在している。どこからともなく漂ってくるかつおの匂いの正体はこれだった!
緩勾配の屋根と高潮よけの堰が残る家々、海水を川へ逃すための小径など、昔ながらの港町の風情にノスタルジーを誘われて、つい寄り道したくなってしまう。そうそう、文豪の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は焼津の荒々しい海を気に入り、明治30年から亡くなるまでのほとんどの夏をこのエリアで過ごしたとか。地元の人々と交流し、焼津にまつわる作品を残したことから、現在も八雲通りという愛称が残っている。



浜通りから昭和通りを抜け、内港沿いに位置する「焼津PORTERS」へ。古い漁具倉庫をリノベしたこちらの施設には、食事とお茶を楽しめるフードコートにサウナ、コミュニティスペース、宿泊施設、シェアキッチンを備えた複合施設。地元民と県外からの来訪者が心地よく過ごせるこちらは、「循環」と「チャレンジする人をサポート」をテーマに、ユニークな仕掛けを行っている。
近くを太平洋岸自転車道が走っていることから、サイクリストの立ち寄りも多いそうで、「艦長」の高谷正道さんは、いずれはピットやレンタサイクルサービスなどを整備してサイクルステーションとしての機能を持たせることを計画しているそう。

※芝生内は自転車走行禁止です

焼津市のラストは、源泉掛け流しの温泉を楽しめる「元湯なかむら館」。昭和34年に開業した温泉施設で、焼津温泉発祥の地といわれる。地下1500mから湧き出る源泉を引いている施設は市内にいくつかあるが、加温も循環も消毒もせず、贅沢にかけ流しているのはこちらだけ。塩味が強くとろみのある湯はとりわけ保温効果が高く、入浴後は冬でも半袖になる人が続出するほど。施設内にはカフェもあり、ドリンクのほか食事のメニューも充実している。




温泉後はBromptonを畳んでバッグにいれ、焼津駅から用宗駅まで1駅だけJR東海道線を利用する。再開発が進む用宗周辺には個人経営のカフェや小さなレストラン、雑貨店などが生まれていて、最近注目を集めているとか。1日目のゴールは、用宗駅からほど近い「The Villa & Barrel Lounge」。静岡のクラフトビール醸造所が直営する宿泊施設だ。

ブルワリーに泊まれる!ビール好きの夢の施設
「West Coast Brewing」が運営する「The Villa & Barrel Lounge」は「ブルワリーに泊まれる」をコンセプトにしており、5室の客室すべてにビアタップが設置されている。宿泊者専用の限定ビールが飲み放題(最大10ℓまで)といい、飲みきれなかったビールはグラウラーを持参して持ち帰ることも可能だ。
ロフトタイプの客室「MOSAIC」にチェックインした2人はさっそくビールを注いで乾杯。客室の窓から、シラスで有名な用宗漁港と富士山を眺めながらのんびりとビールを楽しむ。ちなみにゲストルームは、駿河湾をイメージしたブルーとビールを思わせるイエローの2タイプがあり、室内に描かれている壁画はストーリー仕立てになっており、すべての部屋を巡ると完結するようになっている。ホテルの目の前に「用宗みなと温泉」もあるので、就寝前にここで入浴するのもアリ。


翌朝、ホテル至近の商店「まちの小さな商店ittō」で、お土産と「hugcoffee」のコーヒーをゲット。「hugcoffee」は静岡市と焼津市でスペシャルティコーヒーを提供するロースタリーカフェ。「まちの小さな商店ittō」は、「暮らしに必要なもの」というフィルターで静岡にゆかりのあるメーカーや商品をセレクトしており、気の利いたお土産が見つかりそう。


コーヒーを飲んだあと、2日目のライドをスタート。用宗漁港をぐるりと回って広野海岸公園の防波堤を走り、太平洋自転車道に入って安倍川を渡り、しばらくこの自転車道を走る。
太平洋自転車道は千葉県銚子から和歌山県和歌山市まで1487kmを結ぶ自転車道で、右手に駿河湾、正面に富士山を眺めながら快適に走ることができる。大浜公園で太平洋自転車道を降り、一般道を使って静岡駅まで。静岡駅北口に出たら駿府城公園を目指す。

二重の堀と立派な石垣に囲まれた駿府城公園は、徳川家康ゆかりの城跡で、現在は東御門・巽櫓(たつみやぐら)・坤櫓(ひつじさるやぐら)が復元されている。自転車を押し歩き、東御門を渡って二ノ丸堀の中へ。
週末には、二の丸堀を小舟で周遊する葵舟が運行されているというから、自転車を置いて舟の上から石垣と富士山を眺めてみるのもいい。堀のなかには広大な公園が整備されており、市民の憩いの場になっている。園内にある紅葉山庭園では、庭園来園者に向けた抹茶サービスもあるとか。季節ごとの植栽が美しい庭園を散策し、抹茶ほっと一息つくのもよさそうだ。


駿府城公園を出たら駿府の街並みを散策。家康が碁盤目状に整備した駿府の城下町には東海道最大規模の宿場町である府中宿が置かれ、政治・経済の中心地として大いに栄えたという。
かつての面影は、本陣や脇本陣跡の石碑や碁盤目状の街並みに残っている。この町割には職種ごとに職人や商人が住んでいたそうで呉服町、紺屋町、両替町といった町名にその名残が伺える。
……なんてことを聞きながら、拓矢さんと梨恵さんのお勧めのカフェを訪ねる。「HiBARI BOOKS & COFFEE」は新刊書店とカフェの複合店舗で、店内でコーヒー&お茶を楽しめる。
外国の純文学から詩集、ライトな人文系、趣味の本までが充実する絶妙なセレクトで、県外から通う人も多いとか。課題図書の感想をみんなで語りある「金曜読書会」を不定期に開催しているそうで、本好きたちのサードプレイスとして機能しているのだ。

「HiBARI BOOKS & COFFEE」のコーヒーは、店主の兄が東京・下北沢で営むスペシャルティコーヒー専門店「COFFEA EXLIBRIS」のもの。年一回、海外の生産者のもとに趣くという「COFFEA EXLIBRIS」が扱うのは、トレーサビリティを徹底したシングルオリジンのコーヒー豆のみ。そんなこだわりのコーヒーで、至福の読書の時間を。
その向かいにある「喫茶ebony」は静岡のカフェ・シーンのキーパーソン的存在、ミッチーさんが営む。地元民がふらりと立ち寄り、とりとめのないおしゃべりを楽しんでいく、そんな地域密着型のカフェである。




いくつものカフェに寄り道しているうちに、すっかり夕暮れになっていた。拓矢さん、梨恵さんに別れを告げ、静岡駅でBromptonを輪行バッグにしまう。牧之原台地、焼津、用宗、静岡と、富士山に見守られた2日間のライドもこれにて閉幕。
さて、次はどこにいきましょう。

Shizuoka Travel Guide
【島田市】

自家焙煎アルム
静岡県島田市菊川1182
TEL:0547-45-3280

ふじのくに茶の都ミュージアム
静岡県島田市金谷富士見町3053-2
TEL:0547-46-5588

琥珀
静岡県島田市菊川1190

Mato ,,tools
静岡県島田市稲荷2-8-8
TEL:090-2182-1408
【焼津市】

ESORA COFFEE
静岡県焼津市吉永2089
【静岡市】

The Villa & Barrel Lounge
静岡県静岡市駿河区用宗2-26-1
TEL:054-270-3083

喫茶ebony
静岡県静岡市葵区鷹匠3-1-13 鷹匠スカイコーポ201

まちの小さな商店ittō
静岡県静岡市駿河区用宗4-19-12 HUTPARK東館1F
TEL:050-8893-6310

HiBARI BOOKS & COFFEE
静岡県静岡市葵区鷹匠3-5-15
TEL:054-295-7330
Cycling Route Map
Brompton
1975年、イギリス・ロンドンの街中にあるアパートメントの一室で生まれたBrompton。20秒以内に折りたためる、軽量・コンパクトな自転車は、創業者のアンドリュー・リッチーがロンドンの街中を快適に移動できる足を求めて開発したものだ。
https://jp.brompton.com



