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BRICOLAGE OF LIFE

vol.1 森夕香

Where does your inspiration come from?
さまざまなジャンルで活動する人たちの生き方を収集するシリーズ
〈Bricolage of Life〉。
誰かの人生も、あなたの人生の一部なのかもしれない。

10/30/2024

「自分の身体を”牢屋”のように感じて苦しくなる時期がありました。でもそれが自他の”境界”を探るきっかけになりました」

日本画の画材を用いて描く、ペインターの森夕香さん。人の身体や植物の身体性を想像しながら、時に互いが溶けて混ざり合う様子を描いている彼女に、これまでの道のりや日々のインスピレーションについて話を聞くべく、京都にあるアトリエを訪ねた。

小さい頃からずっと絵を描くことが好きだった。中学の頃は水泳部、高校ではダンスとその時々で興味のあることをやってきたが、絵を描くことが一番得意だったと森さんは振り返る。高校卒業後は美術大学に進学。当時は画家になるという明確な目標があったわけでなく、一番得意で好きな科目である美術を学ぶという選択だった。

修士2年でパリへ留学。それまで作家としてのキャリアは全く想像できなかったという彼女を大きく変える存在に出会う。作家を目指す現地の学生たちだ。精力的にギャラリーで展示をし、絵が買われていく光景を目の当たりにした。

「驚いたのは生徒の作品を買う美大の教員がいたり、学生のアトリエや展示を見に来て作品を買うコレクターがいることです。その中で卒業後も作家として活動することを当然として語る友人達をみて、自分も作る生活を続けたいと思うようになりました」

帰国後、その想いが図らずも次につながっていく。卒業制作展を見たギャラリーからのオファーを機に作家として発表の機会を得たのだ。先のことは何も見えてなかったが、とりあえず描くことを続けてみなさいと言われているような気がした。

現在もモチーフにしている”身体”は、彼女にとって大切なテーマだ。描き始めたきっかけは、彼女が大学院1年目に経験した”閉塞感”だった。

「窓がないだけで息ができないように感じたり、閉じ込められているように感じたり、”自分はこのしんどい身体から抜け出せないんだ”と思うと、自分自身も嫌いになってしまいました」

そんな折、読んでいた本の中で”日本人は体や言語が非常に曖昧である”という話に出会う。古典に登場する”恋しい想いが空を覆う”といった感情の描き方、身の潔白を証明するために”腹を切る”など現代の感覚とは随分違うものの、内側と外側に対する感覚に共感できる自分がいた。

「この身体を窮屈に感じているけど、実は自分を遮る境界というのは無くて、もっと曖昧で外に続いているのかもしれない、と考え方を変えたらすごく救われる気がしたんです。そこから”境界”をテーマに、流動的で何かと混ざり合うような身体を意識的に描くようになりました」

さらに近年では、同じ”境界”というテーマで植物も描いている。

「植物の構造は人間でいうところの腸の内側を剥き出しにしている状態なんだそうです。人間にとっての内側が外側であることで、他の存在と限りなく地続きである植物に対して憧れのようなものを感じて、身体と植物がまざり合う今の表現につなげていきました」

筆で描かれる線の緊張感、落ち着いた色。そしてその混ざり合う様に、鑑賞者は思考を巡らせ、感情を揺さぶられる。そんな独特の絵を描く彼女は、何よりも「”自分が共感できるもの”を描きたい」と言う。

「自分がしっくりくるもの、ちゃんと実感を伴っていないと絵はどんどん遠くなってしまうんです。上手さよりも共感できる感覚が大切。すごくリアルなのに、匂いがしそうにない桃の絵みたいなのは描きたくないですね。五感の素直さを大切にしたいし、それは人に伝わると思っています」

伝え方に気を配るのは、インタビューの時も同じだった。じっくりと考えてから自分の言葉で語る姿は、彼女の誠実さをよく表していた。

「作家が作品について全てを言葉で説明しないといけないとは思いませんが、自分の体験や感覚から興味が湧いて作品に繋がることが多いので、言葉で伝えることも大事にしています。作品は技術だけでも成立しませんし、言葉だけでも成立しません。言葉にできないところや自分でも予期しなかった偶然性も含めて、完成するのが面白いです」

作品は自分一人で完結するものではないと考えているからこそ、「見方は人それぞれで、その感想を聞くのが面白い」と森さんはいう。日々自分と対話し、描き続けることで他者と交わる。彼女が大切にする曖昧さや偶然性が、作品と人生にどんな変化をもたらしていくのか、今後も目が離せない。




森夕香 Yuka Mori
1991年、大阪府生まれ、滋賀県育ち。2015年パリ国立高等美術学校派遣交換留学、2016年京都市立芸術大学大学院修士課程日本画専攻修了。現在は京都を拠点とする。主な展覧会に「個展-蔓延る脈」(GALLERY SUJIN、2019年)、「二人展-流転するあいづち」(LOKO gallery、2021年)、「個展-雨中の肖像」(同時代ギャラリー、2021年)、など。アーティストインレジデンスや国内外のアートフェアへも多数参加。9月28日から始まっている「森の芸術祭 晴れの国・岡山」に参加中。