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Bike Packing Weekend
川で遊び、森に癒される
天竜のグラベルロード

静岡県浜松市天竜区

静岡県浜松市の北部に位置する天竜区は、かつて河川輸送で栄えた天竜川流域にあり、交通の要衝として発展した地域だ。今回は天竜区の玄関口である二俣から、豊かな森林と渓谷美に恵まれた阿多古をグラベルロード仕様のミニベロで巡ってみる。何代にもわたって受け継がれる杉の森と茶畑を訪ね、川で遊び、アツアツの餃子とビールでフィニッシュ! 天竜には、自然美も郷土のグルメもそろっているのだ。

11/30/2022



二俣から阿多古へ、青い川をさかのぼる


長野県の諏訪湖を源流とし、愛知県、静岡県を経て太平洋へ注ぐ、全長213kmの天竜川。江戸時代、東大寺大仏殿の改築のための木材を運搬するため、長野県辰野町から静岡県磐田市までの舟路を開発して以来、流域は木材や物資の流送、渡船の要衝として栄えた。流域にある天竜二俣は、秋葉街道や塩の道といった産業道路が出合う場所にあり、軍事、政治、経済的に重要なポジションを占めていた。たとえば、天竜川と二俣川という天然の城塞に囲まれた二俣城は中世の名城郭といわれ、徳川家康と武田信玄・勝頼親子はこの城を巡って激しい戦いを繰り広げた。街には陣屋が置かれ、最盛期には19軒もの旅籠が軒を連ねたという。

今回の旅のスタートは、昭和ノスタルジックなムードが漂う二俣商店街から。ここに自転車ショップ「HAPPY&SLAPPY」と餃子専門店「餃子スラッピー」を構える伊藤幸祐さんが案内してくれるのは、天竜川に合流する阿多古川をさかのぼるコースだ。伊藤さんが浜松市内でショップを構えていた時代からグラベルバイクに乗って走っていたエリアだといい、ミニベロバイクでも走破できるライト&イージーなグラベルルートをセレクトしてくれた。

自転車と餃子、伊藤さんの好きを詰め込んだ店舗

「浜松出身の僕にとって、阿多古は“夏休みに遊びにいくエリア”のイメージ。自転車で走りながら、道中、川遊びも楽しめる、そんな“大人の遠足”を満喫できますよ」

二俣の街を出発して天竜川に沿って北上し、そこから阿多古川沿いの道を北西に進む。田んぼの畦道から、阿多古川の清流と、男滝、女滝といった滝を眺めるグラベルへ。川の音と木漏れ日がリンクして、最高に気持ちのいいサイクリングが楽しめる。

天竜の街中を流れる二俣川は市民の憩いの場。自転車を担いで対岸へ
北京と上海で、自転車のあるライフスタイルを提案するショップ「RE(而意)」の自転車ブランド、「CICLORE」が日本上陸

はじめに訪ねたのは、阿多古の森のなかでオーダーメイドの家具を手がける「ひかべ家具製作所」の日下部善昭さん。日下部家は、杉林と茶畑に囲まれたこの地で代々、林業と茶農家を営んでいる。“川と森”がキーワードになる阿多古エリアでの、森づくりの意義を教えてもらおう。

「松本で家具づくりを学んだ後に故郷に戻り、今度は森林組合に入って伐採のこと、森づくりのことを勉強しました。この工房や隣接する自宅は、木こりである父が山で伐り出した木材を使い、柱と梁以外は父とふたりで建てました。うちの山の木で家を建てるって、昔は当たり前だったのに、今はとんでもない贅沢になってしまった。けれど、コロナ禍以降、そういった贅沢が正当に評価され始めているように感じます」

森を育てながら家具を製作する日下部さん

自分で山を管理しながら、自分の思うようなプロダクトを生み出すスタイルが今っぽい、とルーカス。山の管理では、たった一本を植林する際にも、50年後、つまり自分の孫の世代のことを考えてプランニングする。「サステナブル」なんて言葉がなかった時代から綿々と行われている持続可能な山づくりのあり方は、今の時代にこそ求められているものではないだろうか。

日下部さんが管理する森の中をライドする


阿多古で、最高に贅沢な体験を


阿多古の地域活性化を担う森敬之さんは、13代前からここに暮らす生粋の阿多古っ子。6年前、1棟貸しの宿「ヴィラ阿多古」をオープンした。

「目の前にきれいな川がありますから、そこで薪を拾い、焚き火をしたり、魚を焼いたり、ただ夜空を眺めたり、昔からそんな遊びばかりしていました。ここには何もないって思っていたけれど、これができる環境こそ、現代で望みうる最上の贅沢だと気がついた。だからこの宿を始めたんです」

森さんが営む一棟貸しの宿、「ヴィラ阿多古」は川遊びの拠点にぴったり

その森さんが「ぜひ味わってほしい」と連れていってくれたのが、阿多古で製茶・販売を行う茶農家の「カネタ太田園」。太田勝則さんは超一級の天竜茶を生み出し、日本はもとより世界にもその名が知られる茶の匠。もともと年貢として天竜茶を納めていた時代があったことからもわかるように、この地方のお茶は高く評価されていた。理由は、茶栽培に適した阿多古の環境にあるという。

森さんおすすめの茶舗、「カネタ太田園」まで阿多古川をさかのぼる。至福のお茶タイム!
急傾斜地に広がる「カネタ太田園」の茶畑

「代々続く茶農家の畑は大方こんな傾斜地にあるけれど、風が抜けるから冬でも霜が降りにくく、朝晩の寒暖差のおかげで病害虫が発生しづらい。加えてうちでは、土づくりに手間暇を惜しまんのです。こうやってひと畝ずつ天地返し(土の表層と深層を入れ替える)すると土の隅々まで酸素が送れ、肥料もよく混ざる。手間だからどこもやらなくなったけれど、人がやらんことをやらないと、いいお茶はできないからね」

おすすめの淹れ方で、太田さんのお茶をいただいた。まるで出汁のような旨味と甘みが凝縮したお茶は、これまでのお茶観を一変させる味わい! 「もう2度とペットボトルのお茶は飲めない」、一同がそう思うほど衝撃的な体験だったのである。

阿多古川をさらに上流へ。眺望のいいグラベルロードは開放感いっぱい

その夜は「ヴィラ阿多古」に1泊し、二俣への帰路に着く。旅の締めは、もちろん「餃子スラッピー」で。店の前で「餃子ある? 餃子ない?」の短冊がひらひら揺れている。なかからは、ジュージューとおいしそうな音。肉汁たっぷりの餃子とビールで、乾杯!

伊藤さんが「自分好みの餃子」を提供してくれる「餃子スラッピー」
「HAPPY&SLAPPY」の2階にあるカフェ「plaque」で、おいしいコーヒーを1杯
ライド後に「包商店」に立ち寄り、「青果ミコトヤ」のジェラートをいただこう


Bike Packing Guide
HAPPY&SLAPPY
浜松市天竜区二俣町二俣1271-1 伊藤ビル1F
TEL:053-568-3729
餃子スラッピー
浜松市天竜区二俣町二俣1271-1
ゴールデン街1丁目
TEL:053-568-3729
plaque
浜松市天竜区二俣町二俣1271-1伊藤ビル2F
包商店
浜松市天竜区二俣町二俣1272
TEL:053-544-7660
ヴィラ阿多古
浜松市天竜区石神1458
TEL:080-2624-5152
ひかべ家具製作所
浜松市天竜区西藤平383-3
TEL:053-928-0111
カネタ太田園
浜松市天竜区西藤平36-1
TEL:053-928-0007
浜松市秋野不矩美術館
浜松市天竜区二俣町二俣130
TEL:053-922-0315
RE
中国の北京・上海で自転車生活をコンセプトとしたライフスタイルショップ。
GIRO
ルーカス B.B. も愛用するアメリカのヘルメットブランド。日本人に合わせたアジアンフィットモデルも多数展開。
HAPPY&SLAPPY
今回のゲスト・伊藤幸祐さんのお店が、今年春、天竜二俣の商店街に移転オープン。同時に、かねてからイベント出店で好評を博していた餃子を提供する専門店「餃子スラッピー」をスタート。
text | Ryoko Kuraishi photography & videography | Ryuta Iwasaki Special Thanks | CICLORE(RE)