“裏六甲”のコミュニティがおもしろい!
最近のルーカスは、兵庫県の六甲エリアがお気に入りだ。きっかけは、昨年末に六甲山中にある“泊まれる森のシェアオフィス”こと、「ROKKONOMAD」でワーケーションを体験したこと。県外からもクリエイターやアクティビストが集まる「ROKKONOMAD」は、兵庫一ユニークな交流拠点で、ルーカスはそこで新たなムーブメントを耳にした。
六甲山南側に都市部が、北側に農村地帯が広がるというロケーションを活かし、近年、神戸には農村と都市、つくり手と消費者のクリエイティブな交流が生まれているという。今回は、このムーブメントを牽引する生産者たちを訪ねる自転車旅である。ガイド役は、神戸の中心地で自転車とスコーンの複合ショップを運営する冨田功さん。トレイルライド好きのマウンテンバイカーだ。


「はじめに六甲山の懐の深さを体感してほしい」と、冨田さんが案内してくれたのは、六甲山系にある秘密のトレイルだ。市街地からのアクセスがよく、地形のバリエーションが豊かでトレイルが整備されている六甲山系は、トレイルライドの宝庫! ひとしきりシングルトラックで遊んだ後に出発する。


1日目の行程は、六甲山北側の“裏六甲”こと、農村地帯まで。北区の住宅地に突如、出現する「弓削牧場」は、“都市のなかの持続可能な酪農”を掲げて37年前にスタートした、個人酪農家の先駆け。乳牛を育て、乳製品をつくる傍ら、糞尿からバイオガスを生成してエネルギー源として利用、副産物の液肥でハーブや果樹を栽培するなど、資源循環に取り組んでいる。
名物のピザを平らげた後、さらに北上。道中、出会った「SHARE WOODS」の山崎正夫さんは、六甲山で伐採した木材をプロダクトや建材に活かす木材コーディネーター。林業の仕組み、つまり伐採、加工、流通のシステムがなかった一帯にそれをつくり出し、“地元の材”という付加価値をつけて販売している。山にも地域経済にも貢献する循環のサイクルの先に山崎さんが見つめるのは、30年後、50年後の健全な六甲山の姿だ。そんな山崎さんの視点に、周辺の山でマウンテンバイクのトレイル整備を計画中の冨田さんも共感。整備で伐採した木材の有効活用という取り組みで、冨田さんと山崎さんのコラボレーションが実現する!? そんな未来にわくわくさせられる。


緑の稲穂が揺れる田園地帯をのんびりサイクリング。夕方に到着したのはこの日の宿、北区淡河町にある体験型民泊の「ケハレ」だ。管理人であり、ワークショップの企画・主催までを担う三宅康平・幸江さん夫妻は、種取りから肥料づくりまでを自分たちで行う、意欲的な環境共生型農家である。ここでは、ふたりが栽培した旬の農作物を使って、幸江さんが滋味深い手料理を振る舞ってくれるのだ。ルーカスが「日本一おいしい野菜料理」と絶賛するこちらは、旅のハイライトのひとつといえるだろう。

茅葺屋根と棚田の間をサイクリング
翌朝は、三宅夫妻の盟友で農家仲間でもある森本聖子さんの畑を訪ねた。森本さんは、昨秋開講した「マイクロファーマーズスクール」の講師を務めるが、ここは新規就農希望者が半農半Xを続けながら実践的なスキルを身につけられる場だ。三宅夫妻や森本さんのようなロールモデルがいるからか、裏六甲にはクリエイティブな仕事と小規模多品目農業を兼業する生産者が多いようだ。

2日目は美しい棚田が広がる淡河町をさらに探検。途中、茅葺古民家の超人気のベーグルショップ「はなとね」で腹ごなし。淡河は米、特に酒米「山田錦」が有名な農村地域だが、かつては豊臣秀吉の命によって整備された宿場町だった。当時の本陣は現在、地元の人々が集う交流拠点として機能している。その整備に携わったのが、「淡河宿本陣跡保存会」理事の鶴巻耕介さんだ。地域活性に興味を持ち、東京、西宮、仙台を経てここに移住した鶴巻さんは、「マイクロファーマーズスクール」の運営から、この地区に残る貴重な茅葺民家の茅の葺き替えまで、淡河のまちづくりでさまざまに活躍している。



午後、淡河町を出発していよいよ“表六甲”を目指す。六甲山の上りはきついが、1時間半も登り詰めれば快適なダウンヒルに。都市部で目指したのは、神戸産食材を扱う「FARMSTAND」。ファーマーズマーケット「EAT LOCAL KOBE」も運営するこちらでは、三宅夫妻や森本さんの食材も手に入る。主宰者いわく、農家から野菜を安定的に仕入れ、地元食材を料理人や一般消費者に親しんでもらう実験的スペースだとか。
ゴールは、冨田さんが営む「SPARK Scone & Bicycle」。妻の康子さんが焼いてくれた絶品のスコーンでゴールを祝う。「地元の裏側にあるコミュニティを、クルマでなく自転車で訪ねたことで、“裏六甲”のディープさやおもしろさを肌で感じた」と冨田さん。「ROKKONOMAD」を起点とした、「食」と「まちづくり」を巡る旅は、ローカルにも旅人にも、自然と都市文化のどちらをも享受できる神戸の魅力を再認識させてくれる。

