Connect
with Us
Thank you!

PAPERSKYの最新のストーリーやプロダクト、イベントの情報をダイジェストでお届けします。
ニュースレターの登録はこちらから!

Bike Packing Weekend
山から海へ、九州屈指の秘境を旅する

大分県・国東半島

大分県北東部に位置する国東半島は神仏習合の発祥の地。大分県が誇るこの秘境に2019年、サイクルルート「仁王輪道」が開設された。今回のバイクパッキングでは「仁王輪道」をなぞって起伏に富んだ大地の力強さを味わいながら、ユニークな歴史や文化、クラフト、土地に根づく独自の営みをe-Bikeで訪ねる。サイクルツーリズムで注目を集める半島を、ローカルガイドと旅してみよう。

07/27/2021



仁王像に見守られ、半島を駆け抜ける

古の山岳信仰と修験、それに宇佐神宮を中心とする八幡信仰が融合した「六郷満山」と呼ばれる独自の信仰が栄えた国東半島。山間の風景に突如として現れる石づくりの仁王像は、その数300以上。国内屈指の建立密度で、国東半島のシンボルにもなっている。ここに「仁王輪道」というサイクルルートが誕生したのは2019年のこと。海岸線の絶景から山岳信仰の濃密な空気を感じられる両子山周辺、日本の原風景と称えられるのどかな田園地帯など、初心者から健脚までが土地のアイデンティティを体験できる全9本のルートが整備された。今回のバイクパッキングでは「仁王輪道」のいくつかのルートを組み合わせ、半島を半周する約120kmを2泊3日で走破する。

ルートを案内してくれるのは、国東で生まれ育ったフォトグラファーの谷知英さん。近年は「仁王輪道」のツアーの語り部を務めるなど、ローカルガイドとしても活躍している。ルーカス編集長の古くからの友人であり、ふたりの息もぴったりだ。

1日目は宇佐神宮最大の神事「行幸会」のルートをたどり、六郷満山を体感する。スペシャライズドのe-Bikeで、宇佐神宮から杵築市にある八幡奈多宮に向けて出発。道中に現れる「田染荘」は、平安時代、宇佐神宮によって開かれた水田地帯だ。その後、宇佐神宮の根本荘園に設定され、今もなお、昔ながらの田園風景が残る。のどかな田園から岩屋に刻まれた「元宮磨崖仏」、切り立った岩がそびえる「三宮の景」を通り過ぎ、いよいよこの日のハイライト、標高721mの両子山を目指す登り坂へ。登りを平坦に感じさせるe-Bikeのおかげで楽々、到達。

両子寺では法嗣の寺田豪淳さんに、半島のおこりや土地を潤す水のこと、信仰とともに暮らす営みについてお話を伺う。「奈良時代に始まり、平安時代に栄えた信仰が、民衆の手によって1300年も守られている。加えて、季節ごとの自然の表情に“命”を感じるところがあります。信仰と自然が国東らしい風土をかたちづくっているといえるでしょう」

寺田さんは現在「両子の森プロジェクト」という森の再生活動に尽力している。ただの再生活動ではなく、活動を通じて地域コミュニティの活性化と伝統文化の地域での継承を目指しているそうだ。

国東半島原産の七島藺のクラフトを体験する

さて、国東半島独自の産業に、360年の歴史を誇る七島藺がある。半島のみで栽培される七島藺はい草よりも強度があり経年変化を楽しめるすばらしい素材だが、現在はわずか数軒の農家が栽培するのみ。この七島藺文化を後世に残すべく、工芸作家として活動するのが岩切千佳さんだ。道中、岩切さんの工房「ななつむぎ」に立ち寄り、七島藺クラフトに挑戦した。

夕方、奈多に到着。松林のなかをのんびりと走り、八幡奈多宮にお参りする。薄いピンクに染まった夕暮れの海に海鳥居が浮かんでいた。この日は八幡奈多宮にほど近い「奈多みどり荘ビーチハウス」に宿泊した。

松に彩られた、全長2kmにもおよぶ砂浜をサイクリング

2日目は山岳エリアを離れ、気持ちのいい海岸線を長崎鼻まで。サイクリストの拠点「国東市サイクリングターミナル」では大分市を拠点とするプロ自転車チーム「Sparkle Oita」で活躍する黒枝咲哉選手と落ち合った。

自転車で地元を盛り上げ、地域交流を促そうと、兄とともに地元密着型のチームを立ち上げた黒枝選手。いわく「地元の人々と交流しながら自転車ファンを増やしてサイクル文化を育て、世界の舞台に挑戦します!」

国東の自転車旅の魅力を教えてくれる黒枝咲哉選手
「国東市サイクリングターミナル」から続く海沿いのサイクリングロードにて


素朴で、だからこそクリエイティブ

谷さんが「国東らしいクリエイティブな暮らしを見せたい」と連れていってくれたのは、国見町にある体験型宿泊施設「Norbulingka」。東京から移住した家主の武井啓江さんは、ここでほぼ自給自足の暮らしを営んでいる。

「若いときに経験した離島での狩猟採集生活から、工夫しながら暮らすことのおもしろさを知ってしまい、いつかまたそれをやりたいと思っていました。陸の孤島といわれる国見町には、自給自足が可能なほどの自然と、物々交換できる人と人との濃密なつながりが今も息づいているのです」

工夫を凝らした生活の悦びを発信する武井啓江さん

国見町での暮らしは「何気ない生活のワンシーンに、しみじみとした幸福感や豊かさを味わえる」という。そんな幸せの恩返しとして地域支援サポーターの活動も行っている。新たに立ち上げたウェブサイト「国東つながる暮らし」では、国東の魅力を発信しながら豊かな暮らしを続けるための支え合い活動を目指している。

この日のゴールは長崎鼻にある「長崎鼻ビーチリゾート」。波の音が聞こえるキャンピングカーで、国東半島で出会ったユニークな人、独自の工芸、食文化に思いを馳せる。明日はいよいよ最終日。ゴールの宇佐神宮まで、あともうひとこぎだ。

風光明媚な長崎鼻ではキャンピングカーに宿泊
国東は日本有数のバジル生産地。地元で作られているバジルペーストを、谷さんの妻が焼いたパンといただく
谷さんお気に入りの「海辺と珈琲 ことり」でおいしい珈琲にほっと一息


Bike Packing Guide
七島藺工房 ななつむぎ
大分県国東市安岐町明治522
TEL: 090-9409-0632
奈多みどり荘ビーチハウス
大分県杵築市奈多231-10
TEL: 080-5013-7264
国東市サイクリングターミナル
大分県国東市国東町小原2662-1
TEL: 0978-72-5168
Norbulingka
大分県国東市国見町岐部1918
TEL: 090-7842-2985
長崎鼻ビーチリゾート
大分県豊後高田市見目4080
TEL: 070-4166-9230
海辺と珈琲 ことり
大分県国東市国見町向田1893-6
TEL: 0978-83-0301
GIRO
ルーカス B.B. も愛用するアメリカのヘルメットブランド。日本人に合わせたアジアンフィットモデルも多数展開。
WARASHIBE PICTURES
今回のゲスト谷知英さんがフォトグラファーとして、「わらしべ長者」に出てくる1本の藁のように、誰かにとっての必要な撮影となるようにという願いが込められた屋号。
STRAVA MAP
STRAVAで Bike Packing Weekendのサイクリングルートマップを紹介しています。PAPERSKYのクラブへの参加もお忘れなく!
text | Ryoko Kuraishi photography & videography | Ryuta Iwasaki Special Thanks | Giro, Specialized, Tsunagaru Inc.