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Bike Packing Weekend
雨ニモマケズ風ニモマケズ、
自転車に乗って神さまに出合う

長崎県壱岐市

博多港から高速船で約1時間、今回の舞台は玄界灘に浮かぶ壱岐島。『古事記』の国生み神話に登場するように、あちこちに神話が息づく、神々とのゆかりが深い場所だ。一方で弥生時代から海上交通の要衡として栄え、当時の文化の最先端が集まったという歴史をもつ。透明の海と自然がかたちづくった奇岩に絶景、神さまのパワーを感じながら、島内を巡ってみよう。潮風に負けないようペダルを踏めば、まだ見ぬ景色に出合えるかも。

07/03/2023



まるごとパワースポットの島


「パワースポットの壱岐島に、自転車に乗りにきませんか?」壱岐のサイクリストに誘いを受けたのは、年も明けたある日のこと。九州と対馬の中間に浮かぶ壱岐島は、天然の白砂のビーチに恵まれた美しい島だ。『古事記』や 『魏志倭人伝』にも登場し、島内には150以上の神社、280以上の古墳が点在するなど、語りどころ満載のデスティネーションである。というわけで、博多港から船に乗り込み、いざ壱岐島へ。今回は郷ノ浦町の「コワーキングスペース&ホテル 壱岐アイランドハブ」を拠点に、ふたつのルートで島内を巡ることにした。

郷ノ浦港からのアクセスがいい「コワーキング&ホテル 壱岐アイランドハブ」は、旅の拠点におすすめ。宿泊者は施設内のワークスペースを自由に利用できる

1日目。郷ノ浦港にほど近い、コワーキング&モビリティレンタル施設の 「クロスポート武生水」でバイクをレンタルし、ナビゲーターの大神久幸さんと待ち合わせ。島のサイクルチーム 「イゾラーニ・ファルコーネ」に所属する大神さんは、早朝の自主練を毎日欠かさないというバリバリのロード乗り。ローカルならではの視点で島を案内してもらう。

365日オープンがうれしい、自転車のレンタルサービスを備える「クロスポート武生水」。カフェとしても利用できる

この日は離島ならではの絶景や海の美しさ、地形のおもしろさを体感する、島の西側を走るルートをとる。あいにくの雨だが、郷ノ浦町から国道382号で、かつてクジラ漁で栄えたという港町、勝本を目指す。壱岐は島にしては平坦な地形が特徴で、フラットでも急峻でもない適度なアップダウンがツーリングにうってつけ。島の中央を南北に走る国道は強風にさらされることなく、ぐんぐん距離を稼ぐ。

あいにくの雨の中、勝本朝市でおいしいもの探し

初めの目的地は、江戸時代、「鯨組」が始まったころに開かれたという勝本朝市。干物や海産物を並べる屋台で店主たちとのおしゃべりを楽しんだ後は、古きよき漁師町の風情が漂う町内を散策する。ランチは、築140年以上という建物をリノベした 「モカジャバカフェ 大久保本店」で、名物の壱岐牛バーガーを。

「ここは私の祖母の生家で、『大久保本店』という屋号で長く海産物問屋が営まれていました。長崎県の景観資産に認定された建物をみなさんに見ていただこうと、カフェとして再スタートしました。地産地消をモットーに、壱岐牛をはじめ、島内のさまざまな食材を使ったメニューを揃えています」(店長の野本直子さん)

古民家の佇まいが美しい、勝本浦の「モカジャバカフェ 大久保本店」で雨宿り。店内で名物の「壱岐牛バーガー」をいただこう

午後は、イカ釣り船がひしめく勝本港から北海岸の串山へ向かう。冬季をのぞけば波風の穏やかなエリアと聞いていたが、強い潮風にさらされて前に進むのもひと苦労。5kmほども続く断崖絶壁は 「壱岐の土台石」といい、いちばん下の地層は約2,500万年前のものとか。

勝本港にイカ漁船が連なるさまは風情満点! 港の周辺には 「モカジャバカフェ 大久保本店」のほか、趣のある建物が立ち並ぶ

その後は、西海岸にある島のシンボルを巡る。黒崎半島の先端にある「猿岩」は、横向きの猿そっくりの巨岩で、「島が流れないように神さまがつくった“八本柱”のひとつ」といういわれがある。牧崎にある、周囲110mという玄武岩の大穴は、「鬼がクジラを獲る際に踏ん張ってできた足跡」といわれる 「鬼の足跡」。鬼ヶ島伝説に由来するらしい。

壱岐島の名勝といえば、こちらの猿岩。微笑むような横顔にルーカスもびっくり!


誰も知らない小道をたどって


2日目は島の北〜東側を中心に、遺跡や神社を巡って壱岐に息づく歴史を体感する。国道382号から県道174号を経て月讀神社にお参りし、大神さんのお気に入りという清石浜海水浴場へ。白砂のビーチを横目に、潮風を受けてぐんぐん進む。コバルトブルーの海を眺めながら八幡半島をぐるりとまわって、たどり着いたのは“壱岐のモン・サン=ミシェル”こと小島神社。干潮の前後数時間のみ、砂浜に参道が現れ、参拝が可能になるのだ。

海に浮かぶ小島に佇む小島神社。干潮の数時間だけ、神秘的な参道が海から顔をのぞかせる

壱岐のライドで楽しいのは小道の探索だ。壱岐島内には総延長約1,400kmもの道路が張り巡らされているそうで、東西南北を貫く県道に、小道やあぜ道が複雑に交錯する。地元っ子の大神さんさえ 「地元の町を出たら道に迷う」というほど。せっかくだから地図アプリをオフにして、どこに続くかわからない道をたどってみる。お仕着せの観光ではお目にかかれない、自分だけの風景を発見できそうだ。

大神さんのおすすめは、美しい砂浜が500mにわたって続く清石浜海水浴場の周辺

道中、「壱岐の蔵酒造」に立ち寄った。壱岐島は500年の歴史を誇る麦焼酎発祥の地なのだが、こちらでは焼酎とは別に、島内のフードロス問題の解決に貢献しようというユニークなクラフトジンづくりにも取り組んでいる。

「湯本温泉にある温泉宿 『海里村上』と共同で、焼酎ベースのジンをつくり始めました。島内で年間30トンのアスパラガスが廃棄されていることを思い出し、ジュニパーベリー以外の素材は島内の廃棄食材を活用することに。柚子胡椒製造の際に出るユズの果肉、規格外のイチゴ、ウニの殻などを使っています」(「壱岐の蔵酒造」代表の石橋福太郎さん)

壱岐産の食材を閉じ込めた「KAGURA」は、イチゴのニュアンスが斬新なクラフトジン。なかなか手に入らない幻のスピリッツだが、運よく見かけたら、ぜひ味わってみよう。

「壱岐の蔵酒造」では伝統的な“切り返し”を見学

2日間にわたるライドのハイライトは、茅葺き屋根の住居が連なる原の辻遺跡だ。長崎県で2番目に広い深江田原平野には、弥生時代から古墳時代初めにかけて、『魏志倭人伝』に登場する「一支国」の王都が栄えていた。原の辻遺跡には、日本と大陸の架け橋となっていた当時の環濠集落の様子が再現されている。2,000年前ここに暮らした住民たちも、島を取り巻く奇岩や絶景、あまねく自然の営みに神さまを見出したことだろう。

古代の住居を再現した 「原の辻一支国王都復元公園


イゾラーニ・ファルコーネ/Isolani Falcone
18年前、壱岐島在住のサイクリストによって結成された自転車チームで、島をナビゲートしてくれた大神久幸さんは設立メンバーのひとり。現在、20代から60代まで7名のサイクリストが参加している。島内で開催されている 「壱岐サイクルフェスティバル」などのロードレースやサイクルイベントに参加する他、島外のサイクリストを増やすべく、あちこちに自転車ラックを設置する活動にも取り組んでいる。


Bike Packing Guide
コワーキング&ホテル 壱岐アイランドハブ
壱岐市郷ノ浦町本村触528
TEL:0920-40-0480
クロスポート武生水
壱岐市郷ノ浦町郷ノ浦122-8
TEL:050-5211-5434
勝本朝市
壱岐市勝本町勝本浦204
モカジャバカフェ 大久保本店
壱岐市勝本町勝本浦359
TEL:0920-42-0500
壱岐の蔵酒造
壱岐市芦辺町湯岳本村触520
TEL:0920-45-2111
原の辻一支国王都復元公園
壱岐市芦辺町深江鶴亀触1092-1
TEL:0920-45-2065
かもめの朝ごはん
壱岐市郷ノ浦町郷ノ浦405-6
TEL:0920-47-4539
text | Ryoko Kuraishi photography & videography | Ryuta Iwasaki Special Thanks | Iki City Tourism Federation